「ほぇえ……、透ってやっぱり凄く強いですね。四条もこんなに戦えるとは知りませんでした……」
観戦ルームで、他の自衛官達と一連の戦闘を見ていたテオドールが、ポツリと漏らす。
周りが迷彩服ばかりの中、彼女の服装は浮いていた。
それもそのはず。テオドールは都内にあるお嬢様中学校の制服を着ており、白い半袖シャツと黒いネクタイ。
グレー基調で、チェック柄のオシャレなプリーツスカートという姿。
細い足はニーハイソックスで覆われており、僅かに見える肌色がさらに華奢さを醸し出していた。
「テオドールちゃん、なんか飲みたいもんあるか?」
同じく観戦していたレンジャー自衛官が、自販機の前で声を出す。
「あっ、ではお任せでお願いします」
「はいよー」
ちょっと高い160円のアップルジュースを奢ってもらう。
次いで––––
「これ、買い過ぎて余ったから食べて良いよ」
さらに他の自衛官から、手軽に食べられる煎餅をプレゼントされた。
「こっちも食べなよ、同室の奴のお土産でさ」
「クッキーあるからどうぞ」
次々と観戦を終えた自衛官たちが、彼女の机に立ち寄った。
そうこうしている内に、テオドールのテーブルは食べ物と飲み物がいっぱいに揃う。
「えと……、皆さんありがとうございます。美味しく頂きます」
ペコリと頭を下げるテオドール。
同時かつ、一斉に親指を上げる自衛官たち。
彼らはすることは終えたと言わんばかりに、ゾロゾロと退室して行った。
やがて、彼女1人が残される。
「透にはご飯の前のお菓子はダメと言われてますが、せっかくのご厚意ですし……」
煎餅の袋を優しく破った。
「半分、半分くらいなら大丈夫ですよね?」
パリッと、彼女は綺麗な前歯で噛み砕く。
次いで奥歯を使い、分離したカケラを潰して––––
「ほえぇ…………、やっぱり日本のお菓子はすごく美味しいですっ」
幸せ100点満点の笑顔。
黒いのり付きのそれは、醤油のほのかな香りと合わさってドンドン手を進めていく。
やめられない、止まらない。
あと1枚、ラスト1枚。
そう考えている内に、彼女は気づく。
「あぅ……」
半分だけと心に決めたつもりが、貰った煎餅を全て食べ尽くしてしまう。
テーブルには、空の袋ばかりが散乱していた。
「っ…………」
しばらく見つめた後、彼女は思考をフル回転させる。
そして、アップルジュースを一口飲んで。
「……四条が言っていました、飲み物のように食べれてしまう物は実質ゼロカロリーと。つまりこれもカロリーオフ、いくら食べても問題はないんじゃないでしょうか」
清々しいほどの開き直り。
あまりに見苦しい言い訳だが、食べてしまったものはしょうがないのだ。
無茶苦茶な理論だとわかっていつつも、引き返すことはできない。
なら––––
「わたしの胃袋だったらもう少し行けるでしょう。次は––––」
ルンルンでお菓子を選ぶ。
欲望に従い、隊員たちからの善意を平らげることこそ恩返しというもの。
テオドールは次に、こしあん饅頭へ手を伸ばした。
そして、小さい口で頬張る。
「あむっ、むふぅ……んん♡」
糖分の暴力、思わずほっぺたを押さえた。
柔らかい生地の奥から、最高に甘いあんこが溢れ出すのだ。
直前にしょっぱい物を食べていたこともあり、凄まじいギャップが彼女を魅了した。
「モグッ……、ん? これは……カスタード? んー、聞いたことがない食べ物ですね」
次の袋には、黄色い文字でそう書いてあった。
今まで食べたことなど無いが、食わず嫌いはしないのがテオドールの流儀。
袋を軽快に開け、パクッと頬張り––––
「ほえぇ……」
洋物特有の甘い香り、濃厚な旨味が彼女の舌の上で踊る。
「なんですかこれ……! あんことはまた全然違う、甘さは同じなのになんでこんなっ……!」
テオドールは驚きと喜びの表情で、そのカスタード饅頭を味わった。
思わず美味しさに心が躍り、自衛官たちからの気配りに感謝の念がこみ上げる。
しばらく饅頭に舌鼓を打ってから、モニターを眺めた。
「透たちはしばらく戻って来そうにないですね……」
見れば、演習場に散らばったBB弾を4人で掃除していた。
かなり激しく撃ち合ったので、必死にホウキで集めているようだ。
「では、透が帰って来る前に……すべて頂いてしまいましょう」
自分のターンが来たと言わんばかりに、お菓子へ手を伸ばすテオドール。
それと同時に、観戦ルームに入って来た人影があった。
「ここが演習施設ね、また随分と金が掛かってるじゃない。ダンジョン派遣部隊は特別なことを物語っているわ」
30代後半の女性は、首から許可証と“
所属会社名は––––“朝川新聞”と書いてあった。
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