挿絵表示切替ボタン

配色








行間

文字サイズ

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
132/136
第132話・好意を無下にするのは良くないですよね(モグモグ)

 

「ほぇえ……、透ってやっぱり凄く強いですね。四条もこんなに戦えるとは知りませんでした……」


 観戦ルームで、他の自衛官達と一連の戦闘を見ていたテオドールが、ポツリと漏らす。


 周りが迷彩服ばかりの中、彼女の服装は浮いていた。


 それもそのはず。テオドールは都内にあるお嬢様中学校の制服を着ており、白い半袖シャツと黒いネクタイ。

 グレー基調で、チェック柄のオシャレなプリーツスカートという姿。


 細い足はニーハイソックスで覆われており、僅かに見える肌色がさらに華奢さを醸し出していた。


「テオドールちゃん、なんか飲みたいもんあるか?」


 同じく観戦していたレンジャー自衛官が、自販機の前で声を出す。


「あっ、ではお任せでお願いします」


「はいよー」


 ちょっと高い160円のアップルジュースを奢ってもらう。

 次いで––––


「これ、買い過ぎて余ったから食べて良いよ」


 さらに他の自衛官から、手軽に食べられる煎餅をプレゼントされた。


「こっちも食べなよ、同室の奴のお土産でさ」


「クッキーあるからどうぞ」


 次々と観戦を終えた自衛官たちが、彼女の机に立ち寄った。

 そうこうしている内に、テオドールのテーブルは食べ物と飲み物がいっぱいに揃う。


「えと……、皆さんありがとうございます。美味しく頂きます」


 ペコリと頭を下げるテオドール。


 同時かつ、一斉に親指を上げる自衛官たち。

 彼らはすることは終えたと言わんばかりに、ゾロゾロと退室して行った。


 やがて、彼女1人が残される。


「透にはご飯の前のお菓子はダメと言われてますが、せっかくのご厚意ですし……」


 煎餅の袋を優しく破った。


「半分、半分くらいなら大丈夫ですよね?」


 パリッと、彼女は綺麗な前歯で噛み砕く。

 次いで奥歯を使い、分離したカケラを潰して––––


「ほえぇ…………、やっぱり日本のお菓子はすごく美味しいですっ」


 幸せ100点満点の笑顔。

 黒いのり付きのそれは、醤油のほのかな香りと合わさってドンドン手を進めていく。


 やめられない、止まらない。

 あと1枚、ラスト1枚。

 そう考えている内に、彼女は気づく。


「あぅ……」


 半分だけと心に決めたつもりが、貰った煎餅を全て食べ尽くしてしまう。

 テーブルには、空の袋ばかりが散乱していた。


「っ…………」


 しばらく見つめた後、彼女は思考をフル回転させる。

 そして、アップルジュースを一口飲んで。


「……四条が言っていました、飲み物のように食べれてしまう物は実質ゼロカロリーと。つまりこれもカロリーオフ、いくら食べても問題はないんじゃないでしょうか」


 清々しいほどの開き直り。


 あまりに見苦しい言い訳だが、食べてしまったものはしょうがないのだ。

 無茶苦茶な理論だとわかっていつつも、引き返すことはできない。


 なら––––


「わたしの胃袋だったらもう少し行けるでしょう。次は––––」


 ルンルンでお菓子を選ぶ。


 欲望に従い、隊員たちからの善意を平らげることこそ恩返しというもの。

 テオドールは次に、こしあん饅頭へ手を伸ばした。


 そして、小さい口で頬張る。


「あむっ、むふぅ……んん♡」


 糖分の暴力、思わずほっぺたを押さえた。

 柔らかい生地の奥から、最高に甘いあんこが溢れ出すのだ。

 直前にしょっぱい物を食べていたこともあり、凄まじいギャップが彼女を魅了した。


「モグッ……、ん? これは……カスタード? んー、聞いたことがない食べ物ですね」


 次の袋には、黄色い文字でそう書いてあった。

 今まで食べたことなど無いが、食わず嫌いはしないのがテオドールの流儀。


 袋を軽快に開け、パクッと頬張り––––


「ほえぇ……」


 洋物特有の甘い香り、濃厚な旨味が彼女の舌の上で踊る。


「なんですかこれ……! あんことはまた全然違う、甘さは同じなのになんでこんなっ……!」


 テオドールは驚きと喜びの表情で、そのカスタード饅頭を味わった。

 思わず美味しさに心が躍り、自衛官たちからの気配りに感謝の念がこみ上げる。


 しばらく饅頭に舌鼓を打ってから、モニターを眺めた。


「透たちはしばらく戻って来そうにないですね……」


 見れば、演習場に散らばったBB弾を4人で掃除していた。

 かなり激しく撃ち合ったので、必死にホウキで集めているようだ。


「では、透が帰って来る前に……すべて頂いてしまいましょう」


 自分のターンが来たと言わんばかりに、お菓子へ手を伸ばすテオドール。

 それと同時に、観戦ルームに入って来た人影があった。


「ここが演習施設ね、また随分と金が掛かってるじゃない。ダンジョン派遣部隊は特別なことを物語っているわ」


 30代後半の女性は、首から許可証と“記者(プレス)”と書かれた腕章をしていた。


 所属会社名は––––“朝川新聞”と書いてあった。


132話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」


と思った方は感想(←1番見ててめっちゃ気にしてます)と、いいねでぜひ応援してください!!

ブックマーク機能を使うには ログインしてください。
いいねをするにはログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。
※感想を書く場合はログインしてください
X(旧Twitter)・LINEで送る

LINEで送る

+注意+

・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
▲ページの上部へ