《勝者、新海3尉及び坂本3曹》
演習場へ響いたアナウンスを、坂本と久里浜の2人は狭いキルハウスの中で、大の字に寝っ転がりながら聞いていた。
周囲には、大量のBB弾が落ちている。
「……四条先輩やられちゃったかぁ、相手があの新海隊長だったら仕方ないわよね」
「良い線行ってたとは思うぞ、少なくともお前よりはな」
「はぁ?」
起き上がった久里浜は、近くに落ちていた金属製の筒を拾った。
それは、久里浜の私物装備ではない。
「“グレネード”で自爆攻撃なんて、そんな手段でわたしに勝ったとは言わせないから! 男なら正面切って戦いなさいよね」
「嫌だよ、なんで特戦のお前と近距離でガチんなきゃいけないんだ。僕の役割は、お前と一緒に退場することだったんだよ」
身を起こした坂本が、ちょっと悪い笑みを浮かべる。
「騙されたな、ガキンチョ」
「ッ……!」
そう、坂本と久里浜の勝負はたった30秒でケリがついた。
レンタル品しか持たないはずだった坂本に接近したところ、彼は久里浜が視界に入った瞬間––––私物のグレネードで即自爆したのだ。
BB弾を高圧ガスで撒き散らす手榴弾の威力は凄まじく、当然だが2人揃ってヒットコールを言うこととなった。
不満で顔を真っ赤にした久里浜が、立てかけてあったM4A1を抱く。
「私物グレ持ってたんなら言いなさいよ。せっかく良い銃貸してあげたんだから……、楽しく撃ち合ってくれても良かったじゃない」
「なんだお前、そんなに僕と銃撃戦したかったのか?」
顔を背けながら、ちょびっとだけ頷く久里浜。
しかし、今回のようなゲームだからできる自爆攻撃でないと……近距離戦で久里浜に勝てないのも事実。
透と四条をタイマンさせることが今回の目的だったので、別に後悔はしていないが……。
「ねぇ、定例会って興味ある?」
「なんだよそれ」
「サバゲーフィールドに不特定多数のゲーマーが集まって、1日中みんなでサバゲするの。楽しいわよ?」
「僕が陰キャなの忘れたか? お座敷シューターだよ。そんなところ行くわけ––––」
言いかけた坂本の手を、ガッと掴む久里浜。
「わたしが一緒なら文句無いでしょ!? 一緒に行ってあげるから!」
「いや、僕……泥まみれになるのは仕事で十分だし」
「ちょっと前に横浜に大きい室内用CQBフィールドができたから、そこだと汚れないし大丈夫。しかも駅近!」
「もう8月だぞ、暑くない……?」
「施設中に冷房掛かるから心配しないで、無料のドリンクサーバーだってあるから飲み物飲み放題だし、コンソメスープもある。レンタル銃だって豊富だし、それに……」
顔を赤らめた久里浜は、手を強く握った。
「今回は敵だったけど、今度はチームで一緒に戦いたい……FALとかいう古い銃で、わたしに挑む人間……そうそういないから」
「ッ……!」
なんだこいつは、自分のことがキモいんじゃなかったのかと。
数瞬問答するが、今そこは問題じゃない。
「サバゲーって運動になる?」
「も、もちろん! たくさん動くから下手なランニングよりカロリー消費できるわ」
「あーなるほど、お前が良いスタイル保ってんのも……ダンジョン来る前は自衛隊の訓練とサバゲー両方やってたからか」
元々坂本は運動が嫌いじゃない。
よくレンジャー自衛官に混ざって、一緒に駆け足をするくらいには身体を動かす。
それに……。
「わかった、ちょうど次の休日なにするか考えてなかったし……良いよ。付き合う」
久里浜の顔が、一気に明るくなった。
「本当!? 嘘じゃないわよね!?」
「疑うなよ……本当だって」
「じゃあさ、来週の休暇で一緒に行きましょう! 予約はわたしがしとくから、あっ。レンタルする銃も選ばないと」
ウキウキで携帯をつける久里浜に、坂本は淀みつつ呟いた。
「銃、なんだけどさ……お前が良かったら。またこのFALを貸してもらえないかな? 下手なレンタルより……お前の銃の方が信頼できる。もちろん嫌なら––––」
「当日までにチューニングしとく!!」
2人の週末の予定が決まる瞬間だった。
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