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第130話・新海VS四条

 

「来てやったぞ、四条」


 バリケードを飛び越えて来た透を見て、四条は思わず笑みを浮かべた。


「ッ……!! やりますねっ!」


 透の発砲と、四条の防御は同時だった。

 彼女は柔らかい動きで弾をギリギリ回避し、近くの木製バリケードへ身を隠した。


 高初速のBB弾が跳ね回り、バチバチと音を立てる。

 それでも臆することなく、反撃の準備を整えた。


 ––––ダンダンダンッ––––!!!


 バリケードから半身を出した状態で、四条はすかさず89式を発砲。

 国産エアガンの動きは快調で、確実に弾を撃ち出す。

 HFC134Aにとって、夏場の今の時期は最高の環境。


 鋭い反動と同時に、透へ弾が向かって––––


「よっ」


「なっ!?」


 BB弾は奥の壁にぶつかった。

 着弾寸前に、透は勢いのままスライディング。

 弾をかわすと同時に、さらに距離を縮めた。


 ––––ダンダンッ––––!!


 距離20メートルで透も反撃。

 だが、四条の方もすぐにバリケードへ身を隠す。


「坂本3曹を囮に使うとは、驚きましたよ」


「戦いなんて定石崩してなんぼだろ、令嬢さんよ!」


 透の次の動きは迅速だった。

 普通のサバゲーなら、この距離で遮蔽物を見つけて撃ち合うのが鉄板。


 だが透は、発砲しながらさらに突っ走った。


「クッ……!!」


 四条も発砲するが、ことごとく射線を見切られてしまう。

 彼女は初めて、敵として彼の特殊能力を思い知った。


「これが……、透さんの危機察知能力!」


 しかもここで痛恨のミスが発生した。

 慌てて射撃したせいで、89式の残弾がゼロになったのだ。


「弾切れだぜ?」


「知ってますよ」


 さりとて四条に隙は無い。

 原隊時代に鍛え上げた技術で、即座にリロード。

 華奢な腕で、重いマガジンを素早く叩き込んだ。


 それでも、透が肉薄するには十分過ぎる時間。


「よう」


「ッ! 貴方という人は––––」


 両者に浮かぶ歓喜の笑み。

 それは、“守る側”と“守られる側”というこれまでの関係が、完全に崩された瞬間だった。


 四条は89式のセレクターを高速で操作、3点バーストへ切り替える。


 ––––ダダダンッ––––!!


 顔面を狙った近距離射撃。

 普通のサバゲーマーならこれで仕留められたが、相手はダンジョン攻略の英雄。


 ––––掠めるには一歩遠い距離で、かわされる。


「意外……ではないか、お前だってエリアボスと戦ってんだもんな」


 崩れた体勢から、透は鋭い回し蹴りを放った。

 完璧なカウンターだが、それが四条に当たることは無い。


「ッ……!!」


 彼女は持っていた89式を振り抜き、ガード用の盾として使ったのだ。

 金属の軋む音が響いて、両者が笑う。


「良いのか? 久里浜の私物だぜ?」


「弁償するなら壊す勢いで使って良いと、許可は貰っています。それに––––」


 透の足を振り払う。

 ほんの僅かに距離を開け、互いに銃口を向けた。


「安心信頼の日本製なので」


 発砲は四条の方がコンマ単位で早かった。

 3点バーストで発射された弾が飛翔するが、透は天性のバネでダッシュ。


 相当体幹が良くないとできない低い姿勢で、四条へ接近。

 20式の先端に着いた銃剣で、89式の銃口をかち上げた。


「奇遇だな、こっちも日本製だ」


 直後に繰り広げられた戦闘は、あまりにサバゲーの常識からかけ離れていた。


【おいおいなんだこの動き!】

【両方共どんな体幹してんだよ、人間離れが過ぎる!!】

【銃だって3キロ以上あるのに、なんでそんな発泡スチロールみたいに振り回せるんだ……!!】


 この動画を見ていた一般人、警察官、自衛官、海外の軍事関係者はみな度肝を抜かれる。

 なんせ、ヘッドカメラ越しに映ったのは––––まるでハリウッド映画のような光景。


「ッ……!!」


「っと!!」


 互いが発砲する度に、もう一方が回避––––または体術で銃口を逸らす。

 殆どゼロ距離なのに、銃を撃ち合いながら格闘しているのだ。


「透さん、わたしは以前––––貴方が千華ちゃんと対戦した時。坂本3曹にこう言われたんですっ」


 振られた銃剣を、透は20式のレシーバーで受け止める。


「へぇ、なんて言ったんだ?」


「なぜ貴方だけ––––“下の名前”で呼ぶかをです」


 フェイントを織り交ぜながら、透の顔面へ銃口を流させる。

 すかさず発砲するも、彼はまたもギリギリで首だけを動かして避けた。

 互いに汗が溢れ出し、ボルテージが上がる。


「確かに……そういえば気になってたんだ、四条。なんで俺だけそう呼ぶんだ?」


「えぇ、それはですね……」


 凄まじいスピードで銃を振り、激しい突きの乱打を透へ浴びせる。

 さらには発砲も織り交ぜながらの攻撃だったが、透はさらに先を読んで攻撃先に銃撃。


 体に当たりそうな一撃だけを、予防的に潰すことで対応した。

 やがてマガジン内の残弾が尽き、ホールドオープンした状態で互いに銃を突き付け合う。


「透さん、––––貴方がわたしの“特別”だからです」


「特別?」


「えぇ、でもこの先は––––」


 両者がマガジンポーチに手を伸ばした。


「わたしを殺せたら教えてあげます」


「……上等」


 透と四条の自衛官としての練度は、現状殆ど互角だった。

 ダンジョンで最前線を張り続けた透はもちろんだが、四条も若くして2曹という叩き上げに位置するベテラン階級の人間。


 英雄VS令嬢––––勝敗を分けたのは、たった1つの行動だった。


「不思議なもんだよな、俺は令嬢広報を手伝ってただけなのに」


「ッ……!!?」


 マグ交換と見せかけた透が、四条の右手を思い切り蹴り上げた。

 彼女の手から離れた亜鉛ダイキャスト製マガジンは、勢いよく宙を舞って––––


「いつの間にか––––日本を世界最強にしちまったんだから」


 落ちて来た四条のマガジンをキャッチし、20式へ瞬時に叩き込む。

 セレクターは……、フルオートだ。


 勝敗は決定した。しかしまだ諦めはしない。

 興奮で昂りながら、それでも四条は空の銃を振る。


「実にしょうもない…………、わたしのミスが原因でしたがね」


「別に良いよ、気にしてない」


 銃声が響いた。

 同時に、演習場へブザーが鳴り渡る。


 《試合終了、勝者––––新海3尉及び坂本3曹》


 倒れかけた四条を、透は腕ですかさず支えた。


「良い企画だったよ、さすがは自衛隊の誇る広報だ」


 配信は大盛り上がりの内に終了する。

 最終同接数は、なんと2億5千万人。

 テオドールの食事回と、殆ど同じ数字を叩き出していた。


 余談だが、この翌日––––日本中のエアガンショップから銃が消えた。

 理由は明快で、2人の熱い戦いを見たリスナーたちが次は自分達もと……エアガンを買い漁ってサバイバルゲームの準備を開始したからだ。


 この配信がキッカケで、日本に未曾有のサバゲーブームが到来することになるが、2人はまだ知らない。


130話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」


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