「来てやったぞ、四条」
バリケードを飛び越えて来た透を見て、四条は思わず笑みを浮かべた。
「ッ……!! やりますねっ!」
透の発砲と、四条の防御は同時だった。
彼女は柔らかい動きで弾をギリギリ回避し、近くの木製バリケードへ身を隠した。
高初速のBB弾が跳ね回り、バチバチと音を立てる。
それでも臆することなく、反撃の準備を整えた。
––––ダンダンダンッ––––!!!
バリケードから半身を出した状態で、四条はすかさず89式を発砲。
国産エアガンの動きは快調で、確実に弾を撃ち出す。
HFC134Aにとって、夏場の今の時期は最高の環境。
鋭い反動と同時に、透へ弾が向かって––––
「よっ」
「なっ!?」
BB弾は奥の壁にぶつかった。
着弾寸前に、透は勢いのままスライディング。
弾をかわすと同時に、さらに距離を縮めた。
––––ダンダンッ––––!!
距離20メートルで透も反撃。
だが、四条の方もすぐにバリケードへ身を隠す。
「坂本3曹を囮に使うとは、驚きましたよ」
「戦いなんて定石崩してなんぼだろ、令嬢さんよ!」
透の次の動きは迅速だった。
普通のサバゲーなら、この距離で遮蔽物を見つけて撃ち合うのが鉄板。
だが透は、発砲しながらさらに突っ走った。
「クッ……!!」
四条も発砲するが、ことごとく射線を見切られてしまう。
彼女は初めて、敵として彼の特殊能力を思い知った。
「これが……、透さんの危機察知能力!」
しかもここで痛恨のミスが発生した。
慌てて射撃したせいで、89式の残弾がゼロになったのだ。
「弾切れだぜ?」
「知ってますよ」
さりとて四条に隙は無い。
原隊時代に鍛え上げた技術で、即座にリロード。
華奢な腕で、重いマガジンを素早く叩き込んだ。
それでも、透が肉薄するには十分過ぎる時間。
「よう」
「ッ! 貴方という人は––––」
両者に浮かぶ歓喜の笑み。
それは、“守る側”と“守られる側”というこれまでの関係が、完全に崩された瞬間だった。
四条は89式のセレクターを高速で操作、3点バーストへ切り替える。
––––ダダダンッ––––!!
顔面を狙った近距離射撃。
普通のサバゲーマーならこれで仕留められたが、相手はダンジョン攻略の英雄。
––––掠めるには一歩遠い距離で、かわされる。
「意外……ではないか、お前だってエリアボスと戦ってんだもんな」
崩れた体勢から、透は鋭い回し蹴りを放った。
完璧なカウンターだが、それが四条に当たることは無い。
「ッ……!!」
彼女は持っていた89式を振り抜き、ガード用の盾として使ったのだ。
金属の軋む音が響いて、両者が笑う。
「良いのか? 久里浜の私物だぜ?」
「弁償するなら壊す勢いで使って良いと、許可は貰っています。それに––––」
透の足を振り払う。
ほんの僅かに距離を開け、互いに銃口を向けた。
「安心信頼の日本製なので」
発砲は四条の方がコンマ単位で早かった。
3点バーストで発射された弾が飛翔するが、透は天性のバネでダッシュ。
相当体幹が良くないとできない低い姿勢で、四条へ接近。
20式の先端に着いた銃剣で、89式の銃口をかち上げた。
「奇遇だな、こっちも日本製だ」
直後に繰り広げられた戦闘は、あまりにサバゲーの常識からかけ離れていた。
【おいおいなんだこの動き!】
【両方共どんな体幹してんだよ、人間離れが過ぎる!!】
【銃だって3キロ以上あるのに、なんでそんな発泡スチロールみたいに振り回せるんだ……!!】
この動画を見ていた一般人、警察官、自衛官、海外の軍事関係者はみな度肝を抜かれる。
なんせ、ヘッドカメラ越しに映ったのは––––まるでハリウッド映画のような光景。
「ッ……!!」
「っと!!」
互いが発砲する度に、もう一方が回避––––または体術で銃口を逸らす。
殆どゼロ距離なのに、銃を撃ち合いながら格闘しているのだ。
「透さん、わたしは以前––––貴方が千華ちゃんと対戦した時。坂本3曹にこう言われたんですっ」
振られた銃剣を、透は20式のレシーバーで受け止める。
「へぇ、なんて言ったんだ?」
「なぜ貴方だけ––––“下の名前”で呼ぶかをです」
フェイントを織り交ぜながら、透の顔面へ銃口を流させる。
すかさず発砲するも、彼はまたもギリギリで首だけを動かして避けた。
互いに汗が溢れ出し、ボルテージが上がる。
「確かに……そういえば気になってたんだ、四条。なんで俺だけそう呼ぶんだ?」
「えぇ、それはですね……」
凄まじいスピードで銃を振り、激しい突きの乱打を透へ浴びせる。
さらには発砲も織り交ぜながらの攻撃だったが、透はさらに先を読んで攻撃先に銃撃。
体に当たりそうな一撃だけを、予防的に潰すことで対応した。
やがてマガジン内の残弾が尽き、ホールドオープンした状態で互いに銃を突き付け合う。
「透さん、––––貴方がわたしの“特別”だからです」
「特別?」
「えぇ、でもこの先は––––」
両者がマガジンポーチに手を伸ばした。
「わたしを殺せたら教えてあげます」
「……上等」
透と四条の自衛官としての練度は、現状殆ど互角だった。
ダンジョンで最前線を張り続けた透はもちろんだが、四条も若くして2曹という叩き上げに位置するベテラン階級の人間。
英雄VS令嬢––––勝敗を分けたのは、たった1つの行動だった。
「不思議なもんだよな、俺は令嬢広報を手伝ってただけなのに」
「ッ……!!?」
マグ交換と見せかけた透が、四条の右手を思い切り蹴り上げた。
彼女の手から離れた亜鉛ダイキャスト製マガジンは、勢いよく宙を舞って––––
「いつの間にか––––日本を世界最強にしちまったんだから」
落ちて来た四条のマガジンをキャッチし、20式へ瞬時に叩き込む。
セレクターは……、フルオートだ。
勝敗は決定した。しかしまだ諦めはしない。
興奮で昂りながら、それでも四条は空の銃を振る。
「実にしょうもない…………、わたしのミスが原因でしたがね」
「別に良いよ、気にしてない」
銃声が響いた。
同時に、演習場へブザーが鳴り渡る。
《試合終了、勝者––––新海3尉及び坂本3曹》
倒れかけた四条を、透は腕ですかさず支えた。
「良い企画だったよ、さすがは自衛隊の誇る広報だ」
配信は大盛り上がりの内に終了する。
最終同接数は、なんと2億5千万人。
テオドールの食事回と、殆ど同じ数字を叩き出していた。
余談だが、この翌日––––日本中のエアガンショップから銃が消えた。
理由は明快で、2人の熱い戦いを見たリスナーたちが次は自分達もと……エアガンを買い漁ってサバイバルゲームの準備を開始したからだ。
この配信がキッカケで、日本に未曾有のサバゲーブームが到来することになるが、2人はまだ知らない。
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