朝の更新分が少なすぎたので、頑張って上げました。
もうすぐ4万ポイントですし。
「っというわけで、緊急企画をやりたいと思います」
––––3日後、ユグドラシル駐屯地、室内演習場。
かつて透と久里浜が熱戦を繰り広げたここへ、第1特務小隊の面々は集結していた。
置かれた大きいテーブルの上には、縦に長いバッグがいくつも並んでいる。
その殆どが、敢えて言うなら久里浜の私物だった。
「急に改まってどうしたよ、しかも緊急企画って……」
状況がイマイチ飲み込めない透。
彼は業務中だったところを、坂本と久里浜に殆ど連れ去られる形で来させられたのだ。
もちろん、差し向けたのは四条。
「透さん、今の第1特務小隊には……決定的に足りない物があります」
「足りないもの?」
「えぇ、それはですね……」
至って真剣な表情で、彼女は前を向く。
「配信者としての“キャラ”です」
四条の言葉に、透はどことなく察しがついているようだった。
「俺たちの配信が……、テオドール頼みになってるってことか?」
「そういうわけです。これは直近の再生数を見ても明らかで、彼女の人気は底無しの井戸がごとく溢れ出ています。控えめに言ってもジャ○ティン・○ーバー以上です」
異世界人という圧倒的な特殊属性の暴力によって、テオドールのアイドルぶりは世界規模で普及していた。
彼女がカレーを食べればレトルトに至るまで国中で売り切れ、どんな店だろうと訪れれば大繁盛間違いなし。
しかも……これは昨日聞いた話であるが、新宿で立ち寄った美容室や大手レストラン。
なんと現在、パンク状態で人数制限を行なっているそうだった。
テオドールのレビューに惹かれ、日本中から“聖地巡礼”をしに凄まじい数の人間が訪れていた。
「テオドールさんに頼れば、確かに再生数や接続数はかなり稼げるでしょう……しかし」
黒い瞳で、透を見つめる。
「我々第1特務小隊の本来の任務は、あくまで自衛隊の広報にあります。彼女だけに頼るわけにはいきません」
「なるほどな……」
四条の言う通りで、元々防衛省は自衛隊の志願者数を増やすことが目的で配信を始めた。
現状でも一定数の効果はあったと東京地本から報告は来ていたが、これでもまだ足りない。
何より––––
「現在エゴサした感じ……、わたし達はテオドールさんにキャラ負けしている状態です。これでは今後……最悪の事態があり得るかもしれません」
彼女の言う最悪の事態。
それは、一言で表すなら––––
「小隊の解体……だな?」
「か、解体!?」
「マジっすか」
透の言葉に、思わず声を出す久里浜と坂本。
だが考えれば必然だった。
軍において存在意義の無くなった部隊は、解散する運命にある。
今後もテオドールに頼り切った配信をしていては、部隊としての存続など到底望めない。
最悪の場合、せっかく与えてあげられたテオドールの居場所が無くなる。
それだけは、なんとしても避けなければならない。
深刻そうに話していた四条だが、ここで肩の力が抜ける。
「っと、少しシリアス目に話しましたが……そのために用意した企画です。千華ちゃん」
「はい、先輩」
言うやいなや、久里浜が三脚でカメラを立てる。
透から見れば、なぜか動きが従順な部下のそれであった。
「テオドールさんの魅力的な配信をこれからも行うために、我々4人––––彼女に負けないくらい頑張る必要があります」
「さすがだな、確かにお前の言う通りだ……。じゃあその企画について––––早速教えてくれ」
乗って来た。
ここまでは予定通り、四条はサッと配信ボタンを押す。
【電撃配信キタコレ】
【あれ、小隊メンバー勢揃いじゃん】
【なんかいつもと雰囲気違うけど、もしかしてサプライズ企画?】
予告なしにも関わらず、同接数はあっという間に8000万を超えた。
最近のテオドール効果もあるが、やはり凄まじい数だった。
「さて透さん、始めましょうか……」
机の上のカバンを開け、四条は中から得物を取り出した。
「第1特務小隊、”特級同士の公開交流戦”を––––」
四条の手には、『89式自動小銃』が握られていた。
それを見た透が、ハッと笑う。
「そういえばお前も“特級射手”だったな。最近はテオを映すだけの大人しいご令嬢かと思ってたけど、思えば全然違ったか。良いぜ––––そういうことなら受けて立つ」
透の方も、カバンを開けた。
「カメラばかりで鈍ったその腕、見定めてやる。お前と同じ“特級射手”の俺がな」
両者の間に、火花が散った。
127話を読んでくださりありがとうございます!
自衛隊では各兵科ごとに等級があり、作者の友達はほぼ特級相当の実力者でした。
「少しでも続きが読みたい」
「面白かった!」
「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」
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