「て、テオ!? なんでお前がここに……!?」
突然の出現、さすがに驚く透と坂本。
女子寮からここまでは距離がある上、自衛官の見回りや鍵にトビラもある。
物理的に、侵入は不可能のはずだった。
「まさか…………」
恐る恐る、唯一あった可能性を聞いてみる。
「魔法で来たのか……?」
「はい、『
やはりそうかと、透は頭を抱えた。
彼女は異世界人……ある最強の自衛官を除いて、唯一魔法が使えてしまうのだ。テオドールにとって、鍵や見回りなど何の意味も無い。
「な、何しに来たんだ?」
「んー……、透に会いに来ました」
「もう寝る時間なんだけど……」
そんな2人の様子を見ていた坂本は、机に置いていた充電中のスマホを掴んだ。
「あっ、隊長。自分……錠前1佐に用があるんで失礼します」
「はっ!? おい坂本––––」
言っている間に、彼はサッサと部屋を出てしまった。
テオドールと2人きりになった透は、仕方なさそうにベッドへ腰を下ろす。
「俺に会いに来たって言ってたけど、四条と久里浜が隣の部屋にいただろ。あの2人じゃダメだったのか?」
「透じゃないとダメです、それに……確認しましたが2人共部屋にいませんでした」
「なるほど、俺じゃなきゃか……理由を聞いても良いか?」
しばらく恥ずかしそうにしたテオドールは、布団に顔を半分隠しながら……小さく呟く。
「透と一緒に寝たいです…………」
「ッ……」
「せっかくいっぱい頑張ったのに、暗い夜を1人で寝るなんて寂しいです。透とお喋りしながら寝たいです」
「そっか〜、俺じゃなきゃか〜……」
普通なら追い返すのが正解だろう。
だが、多くの日本人を救ったテオドールがここまでお願いしているのだ、無下にすれば……マスター失格だと感じた。
何度も念じる、この子は戸籍上18歳……。
つまり合法。諸々の風紀的な部分に目を瞑れば、一応問題は無い。
警務にバレれば終わりだが、ここは引く場面じゃなかった。
「……とりあえず今日だけな、あと。これから駐屯地内では許可なく転移魔法を使わないと約束したら……その、ここで寝かしてやる」
テオドールの顔が、花開いたように輝いた。
「はっ、はい! わかりました。ちゃんと約束します」
可愛い眷属は、何度も首を縦に振った。
ここまで来れば、もう引き返せない。
透は部屋の電気を、僅かだけ残して消した。
そして、布団を一緒にかぶる。
「…………っ」
こうして近くで見ると、本当に美少女だということを実感させられる。
地球ではまず見ない、銀髪に金色の瞳。
しかも、めちゃくちゃ良い匂いがした。
「シャンプー、気に入った香りはあったか?」
「はい、四条に貰った物が凄く良い匂いで……その。透はどう思いますか?」
「どうって……」
グッと、緊張した様子で顔を近づけるテオドール。
「この香り……好きですかっ?」
「ッ…………!!」
透はふと思った。
これまでの言動から察するに、テオドールは今まで人に甘えたことが無いんじゃなかろうか。
比喩でもなく、本当に……人生でただ1回として。
日本食を食べる時も、「自分なんかが」と謙遜していた。
『ひゅうが』では、やたらと自分の役に立ちたがっていた。
認められることに、耐性があまりにも無い。
そう思うと、こうして必死にアプローチしてくる彼女が……とても可愛く、可哀想であり––––同時に愛おしく感じてしまう。
「良い匂いだよ、俺の好きな香りだ。テオによく似合ってると思う」
「本当……ですか?」
「本当だよ、お前はいつだって可愛い。もっと自分に自信を持て」
「ッ!!!」
ならば、今自分がこの子を認めないでどうする。
ダンジョンマスターからも、他の執行者からも認められなかった子を……自分が肯定してやらないでどうする。
羞恥は捨てろ、今まで我慢して来た分––––とことんまで言葉を浴びせるんだ。
「テオは偉いよ、本当に偉い。素直で真面目で……まっすぐなところが愛おしい。しかも実力だって超強いと来た、最強じゃん」
銀髪で覆われた頭を、優しく撫でる。
一撫でするごとに、彼女の全身が弛緩していくのが伝わった。
「俺の眷属になってくれてありがとう……、『ひゅうが』のみんなを守ってくれてありがとう……。大勢の日本人を笑顔にしてくれてありがとう。俺が保障する、テオは世界で一番強くて可愛い女の子だ」
「むふぅ……っ、えへへ」
褒める、褒めて褒めて……頭をとことん撫でまくる。
人生で我慢しか存在しなかった彼女に、マスターとしてご褒美を与えるのだ。
時間にして20分ほどだろうか……。
透の脳破壊ASMRを聞かされ続けたテオドールは、幸せの中で深い眠りについた。
寝顔はまさに女神のようで、そのまま良い夢を見ているようだった。
「……本当に苦労して来たんだな」
ゆっくり布団から出た透は、ベッドにもたれ掛かる形で床に座った。
「俺も……頑張らなきゃな、こいつのマスターとして」
透はそのままベッドを背に、座った状態で眠る。
陸上自衛官の習性か、地面でも平気で寝れる彼は……そのまま闇へ意識を沈めた。
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