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第122話・テオドールの身分

 

 ––––ダンジョン内、ユグドラシル駐屯地。


 長いようで短かった東京観光が終わり、透たちはダンジョンでの生活に戻った。

 四条はまだ編集作業があるとのことで、早々に女子寮へ。


 透も早く休みたかったが、どうしても確認しなければならないことがあった。


「失礼します」


 ドアを数回ノック。

 中から返事が来ると、テオドールと共に入室した。

 そこは、もはや入り慣れた狂人の執務室。


「お久しぶりです、錠前1佐」


 部屋の奥では、透たちより一足早く帰還していた第1特務小隊の監督官。

 錠前1佐が座っていた。


「ッ……!!」


 彼の顔を見たテオドールが、緊張で強張る。

 無理もない、彼女にとって錠前は初めて会った日本人にして恐ろしい強敵。


 ベルセリオンを逃す際には、銃弾まで撃ち込まれているのだ。

 警戒するなと言う方が無茶である。


「お帰りー2人共、あれ……四条2曹は?」


「アイツなら仕事です、1佐が振ったんじゃないんですか?」


「あぁそうだった、彼女出来るからつい編集作業たくさんさせちゃうんだよね。若い女の子には少し可哀想だったと反省しているよ」


「今度労うくらいはしてやってください」


「わかってるさ、それくらいの上官意識は持ってる」


 未だ固い表情のテオドールに、錠前は優しく話しかけた。


「……随分と変わったね、見違えたよ」


「そういうあなたも、さらに先の世界へ行かれたようですね」


「ほぉ、具体的には?」


「微弱ですが魔力を感じます、日本人が本格的に使えるとは思ってなかったので……少々驚いていますが」


 テオドールの言葉に、透だけ置いてきぼりを食らう。

 察したのだろう錠前が、ボールペンを透に渡した。


「新海、それをダーツみたいに僕へ投げてくれ」


「えっ、いや危ないですよ?」


「良いから、ほれ早く」


 上官の命とあらば仕方ない。

 透は少し離れ、器用にダーツ感覚でペンを投げた。


 だが、それが錠前に届くことは無い。


「……なんですかそれ」


 ペンは錠前の眼前で止まってしまい、宙へ浮いている。

 それを見たテオドールが、興味深そうに呟いた。


「なるほど、空間操作魔法ですか……しかも、わたしより数段上のレベル」


「正解、さすが執行者だ……理解が早い」


 空中のペンが掴まれる。

 テオドールの言葉で、透もとりあえず状況がわかった。

 理屈は不明だが、この男……さらに最強の道を進んだようだと。


「改めまして、こんにちはテオドールくん。我が日本国へ味方してくれたこと……感謝する」


「別に、わたしは透がいるから味方しただけです」


 スンとした表情で一言。

 彼女の言葉に、錠前は嫌らしい笑みを見せた。


「やはり君は相当の女たらしだな新海、ちょっとどうかと思うぞ?」


「からかわないでください、テオはそんなこと思ってな––––」


「はい、透は酷い女たらしです」


「テオ!?」


 突然の裏切りに、動揺する透。

 ケタケタと笑った錠前が、机の引き出しを開けた。


「クック……だってさ新海、反省しとけよ」


「心外です……」


「眷属ちゃんが言うんだから真実でしょ、あとこれ––––頼まれてたやつ」


 分厚い書類の束が、机の上に出される。

 どれもこれも。既にサインや判子がされていた。


「法務省と人事院に掛け合って、テオドールくんの身分諸々を作っておいた。読んでみ」


 言われた通り、書類を手に取る。

 内容は小難しく書いてあったが、意味は大体わかった。


 ・異世界人テオドールに、日本国籍と相応の身分を与える。

 ・職業は暫定的に特別職国家公務員とする。

 ・年齢は18歳と規定、新海透の被扶養者とする。


 つまり、この日本において彼女は基本的人権と職業、身分を手に入れたことになるのだ。

 これは『ひゅうが』艦内で、透が錠前にお願いしていたものだった。


「いつまでも立場が宙ぶらりんという訳にはいかないからね、ちょっとこっちの都合の良いようにはしたが」


 よくよく見れば、戸籍上……18歳に設定されている。

 隣の小ちゃい眷属を見て、疑念を抱く。


「テオドールが18に見えますか? どう見ても13かそこらでしょ」


「異世界の(こよみ)がこっちと一緒だとは限らないからね、色々と18歳の方が都合良いんだよ」


 確かに、18にでもしないと職業を与えられない。

 そこはわかる、わかるのだが……。


「被扶養者扱いになるんですね」


「眷属なんて概念、日本には無いからね……無難にそうしといた。実際、これ以外無いだろう?」


「まぁ確かに……」


「扶養者控除とかはそっちで頼むよ、僕詳しくないから––––受けられるかとか知らないけど」


「まぁ了解です、ありがとうございます」


 書類を受け取った透に、「そうそう」と錠前は続けた。


「テオドールくんの配信なんだけどね、彼女は自衛官じゃないし……特例でスパチャや案件が受けられるようになったよ」


「マジっすか……」


「インフルエンサー大好きの四条くんは喜ぶだろうね、もちろん制約はある。得た収入や案件は、テオドールくんしか使用できないから。なんせ––––無理矢理立ち上げた法人使ってるからね」


 以前からスパチャなどは要望が多かった。

 この超人は、こんな僅かな間でここまでテオドールの足元を固めてくれたのだ。


「ありがとうございます、錠前1佐」


「そんなに頭を下げなくて良いよ、言っただろう? 信頼ならいくらでもしてくれて構わないと」


 だが信仰だけは絶対しちゃいけない男は、笑顔で手を振る。


「まぁそんだけだ、ご苦労だったね。みんな今日はゆっくり休んでくれ」


 退室する透とテオドール。

 見届けた錠前は、誰もいない部屋でタバコを取り出した。

 もちろん、口内ケアのスプレーとガムも持って。


 腰を上げ、屋上の喫煙スペースへ向かう。


「さて……“嫌な客人”を出迎える準備でもするか」


 そして、部屋には誰もいなくなった。


122話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」

「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」


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