––––アノマリー討伐から1日後、護衛艦『ひゅうが』甲板上。
いよいよダンジョンへ帰るべく、透と四条、テオドールを送り届けるためのヘリコプターが着艦した。
暴風が吹き荒れる中で、テオドールは満足気に呟く。
「透、この艦の食事……すっごく美味しかったです。わたし、また食べたいです」
今日までの短い間だったが、テオドールは『ひゅうが』の乗組員からとても可愛がられていた。
艦内見学はもちろん、艦長席に座らせてくれたり。
ニッチなところだと、艦載ヘリを管制する部屋も見学させてくれている。
その度に驚くテオドールを見ていると、みんなどこか温かい気持ちになれた。
「そうだな、次食うなら横須賀カレーフェスティバルになるのか。もう今年は終わっちまったけど」
「か、カレーフェスティバル!? そんな催しがあるのですか!?」
「あぁ、毎年5月……だったかな? 横須賀市の三笠公園でやるんだ。色んな艦が集まって、それぞれのカレーを国民に食べてもらう。もちろん民間のカレー屋さんもいっぱい出すぞ」
透の言葉に、テオドールは「ほえぇ……」と信じられない様子だった。
無理もないだろう、彼女は常に栄養不足で生きて来た身。
食べ物の祭典なんて、発想すら無いはずだ。
「有名な話だと、カレーフェスティバルのためにイージス艦が4隻集まって、海外で戦争でもするのかと騒がれたっけ」
「イージス艦? それって今乗ってるこの艦より強いんですか?」
「役割が違うからなんとも言えないけど、そうだなぁ……」
透はテオドールにもわかりやすく説明するため、ファンタジーに翻訳する。
「ワイバーンが300体同時に襲って来ても圧勝できる」
「なんですかそれ! チート! チートですよ!!」
「チートって……、お前意味わかって言ってるのか?」
「『ひゅうが』の人に教わりました、理不尽に強いって意味ですよね?」
「ん〜……まぁ最近だとその使い方で良いか、昔はもっと違う意味だったんだけど」
日本の造語も、こんな調子で覚えていくんだろうか。
なにせ頭は良い子なので、これからスポンジのように吸収して、色々覚えていくと見ていた。
「お2人共、おはようございます」
背後から四条が現れる。
肩には、業務用ノートPCの入ったエコバックが掛けられていた。
「おはよう、お前……ギリギリまで編集作業してたのか?」
「当然ですよ! テオドールさんは今や日本のアイドル、昨日の艦内見学の動画もさっき仕上げました。徹夜上等です!」
「頑張るなぁ……そういえば飯の時の配信、同接数いくらまで伸びたっけ?」
「シメのイチゴプリンのときで6億5千万人です、米欧やアラブ圏、インドでも大人気ですよ」
異世界人のテオドールが美味しく食事する様子は、世界中に激しいインパクトを与えた。
その威力は凄まじく、ネットニュースで見た限りだとインスタントの海軍カレーが速攻で売り切れ。
生産が追いつかず、普通のカレー食品ですら全国的に品薄状態になっていた。
ほえドール、恐るべし……。
「間も無く発艦します! 乗ってください!」
SH-60K対潜ヘリコプターから、乗組員が声を上げる。
言われた通り、3人はヘリに乗り込んだ。
「計器チェックよし、油圧確認よし、ローター回転数正常……これより発艦する」
重い機体が、フワッと浮き上がった。
「『ひゅうが』離艦0900、これより浮遊ダンジョンへ向け飛行する」
あれだけ大きかった『ひゅうが』が、あっという間に小さくなっていく。
ヘリは三浦半島沿いに北上し、神奈川県を通り過ぎた。
しばらくして、関東平野の大都市が見えて来る。
「テオ、どうだった? 今回の日本旅行は」
錠前のいきなり過ぎる提案から始まった今回の旅行、色々あったが……第1特務小隊にとって有意義な休日と言えた。
半分銃撃戦で休暇が消えたのは、少々遺憾だったが……。
それでも––––
「凄く、すっごく楽しかったです! 今度は東京以外の場所に行って、色んな物を見て食べたいです! 透が言ってたカレーフェスティバルも行きたいです!」
この子の笑顔を見るだけで、全部が良かったと思える。
「じゃあまた今度行こう、カレーフェスティバルは俺も好きなミリ萌えアニメがコラボしててな。放送は2016年のやつだが未だに人気がある。それついでで俺も行くよ」
「やったぁっ!」
銀髪を振り、大はしゃぎするテオドール。
ヘリコプターはやがて、巨大なダンジョンの傍まで到着した。
ゆっくり高度が落とされ、外苑部に降りていく。
透はウンと手を伸ばした。
「さってと、帰ったらまたダンジョン攻略だ。また忙しくなる……錠前1佐にこき使われるぞ」
「問題ありません、今度の戦いもバッチリカメラに収めますよ」
「あぁ、頼む。なんたってこのダンジョンは––––」
見上げた透は、笑みを浮かべた。
「絶対にここから退けなきゃなんねぇからな、戦いはまだまだ終わってねぇ」
東京を、日本を守るため……透たち自衛官は休暇を終えてダンジョンへ戻った。
第1特務小隊の、新たなる週明けだ。
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