錠前の言葉に、特戦隊員のアーチャーでさえ流石に困惑した。
タブレットでは、確かに別部屋の檻で中国人が監禁されている。
「合成……、いや。ただの合成ではここまで再現できない。不可能だ、音声も映像も––––」
遮る形で、錠前が振り向いた。
「本物だと思っただろう?」
直後、監視カメラ視点だった映像が乱れた。
数秒ほど経って、画面の様相は一変する。
「これは…………ッ」
映像には、ただの椅子と“人形”だけが映っていた。
中国人工作員など、どこにもいない。
「結界内で死んだ者は……、そのまま結界の消滅に伴って消え去る。あの時の廃ビルで、僕は少尉を除く全ての中国人を殺した」
「じゃ、じゃあ……さっきの映像は?」
錠前が横からタップし、答えを見せた。
「“生成AI”ってやつだよ、聞いたことない? チャット型やテキスト言語からイラストを描いてくれるAIソフト。それの動画生成バージョンだ」
昨今話題に上がっているこの生成AIとは、文字通りAIに物を作らせるソフトである。
一時期は使用者のモラル欠如や、既存の職業を脅かす恐れから反発の強かった物だが、
2025年の現在、日本においては個人が検索サイト代わりや軽い翻訳として使うのが主流となっている。
一時期はイラストレーターや漫画家などの職業を奪うのではとも言われていたが、実現したとしてもかなり先の話と言えた。
理由は単純で、まだAIに複雑な創作作業はできないから。
だが、それは一般大衆での話。
「いくら生成AIが優秀と言っても、どうやって部下の顔や声を再現したんですか?」
驚くアーチャーの問いに、錠前は何の気なしに答える。
「あの廃ビルで殺した中国人の若造を、適当に数枚写真で撮っといた。基準を今映っている人形に設定して、後はAIに数億回のラーニング学習をさせれば……人間の表情くらい簡単に作れる」
「こ、声は……?」
「無線を盗聴したのを録音しておいた、こっちも数億回の学習作業で再現可能だ。まぁそれでも複雑な言語は無理だから、叫び声だけに特化させたわけだ」
よく見ればシークバーが下にあり、これ自体が1本の動画ということになる。
張少尉は、幻の部下を助けようとしていたのだ。
本当はもう、あの日……新宿で死んでいたのに。
「人の心とか無いんですか?」
あまりのえげつなさに、思わず尋ねるアーチャー。
「失礼だな、あるに決まってるよ。思いやりと慈愛に満ちた人間味溢れる––––」
「あっ、冗談はいいです」
途中で遮ったアーチャーが、タブレットを錠前に返した。
「っということは、最初から彼女の部下を助ける気なんて……さらさら無かったんですね?」
「まぁね、でも僕嘘はついてないよ。一言も“助ける”なんて言ってないし、肯定もしてないんだから」
つくづく思う。
この最強の自衛官は、とことん自衛隊に向いていないと。
何をどう食べたら、死者を生成AIで生き返らせて道具に使う発想が出てくるのか……。
アーチャーには、やはり理解ができなかった。
「まぁ倫理観がぶっ飛んでるのは知ってましたし、今さらですかね……。で、どうするんですか?」
「どうするって?」
「大陸国家の件ですよ、まだ国内には結構残ってるでしょうし……少尉が吐いた拠点が全てじゃない。まして––––」
強面を向けたアーチャーが、深刻そうに呟く。
「ここまでプライドを傷つけられた連中が、大人しくしているとも思えません。きっと次は1佐……貴方を殺そうと送り込まれて来ますよ」
噂では、錠前に多額の“懸賞金”が掛けられたという話もあった。
大陸に送り込んだ、日本人スパイの情報である。
「だろうね、今回のはあくまで斥候……次に来るのは戦場上がりの本当に強い奴らだ。いや〜」
錠前は、無邪気に笑みを浮かべた。
「楽しみだなぁ、次の墓標はどんなのにしてやろうか」
「……余裕ですね、噂では貴方の首に30億円の懸賞金が掛けられたかもと、市ヶ谷では話題なのに」
「大丈夫大丈夫。だって僕––––」
女子高生ウケの良さそうな顔で、アーチャーへ向く。
「最強だし」
「30億でも足らない……っというわけですか」
「目標としてはまず100億の大台に乗りたいな、その次は500億。いやー楽しみ楽しみ……次はどんな面白い“玩具”が来るんだろう」
「500億の賞金首になっても、貴方なら楽しく生きているでしょうね」
やはりこの男は、何もかもが狂っている。
だが、そんなイカれた男が……皮肉にも日本を外敵から誰よりも守っていた。
30億の賞金首にして、現代最強の自衛官。
やはり、これからもこの方について行こうと……アーチャーは決心した。
「で、あの千葉沖で討伐したアノマリーだけどさ……」
唐突に話を変えた錠前は、良くない笑顔を見せた。
「食えるかな?」
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