「どういう……ことだ!? 貴様、部下は全員殺したんじゃ……」
「やだなぁ、僕がそんなエグい狂人に見える? 超マトモな思考回路の健全人間だよ? 皆殺しにするわけないじゃん」
何度も映像を見直す。
そこには確かに、少尉の部下の1人が映っていた。
自分が愛情をもって育てた、広東省出身の若者だ。
「少尉、君が喋んなかった時のプランくらい、僕が考えていないとでも……?」
「ま、まさか……っ。やめろ!」
少尉が言うやいなや、椅子に縛られた中国人が激しい悲鳴を上げた。
全身を痙攣させ、ビクビクとのたうち回る。
「電気椅子ってやつ、知ってる? 処刑用の出力もできるんだけど……今はタダ苦痛だけを与えるモードにしてある。中古のを秘密で買ったんだよ」
「やめろ!! やめてくれ!!」
「あーそう? わかったわかった、ワガママだなぁ」
痙攣が止まり、グッタリと項垂れる若者。
そこに生気は無く、誰がどう見ても瀕死だった。
「10秒で喋れ、じゃないとさらに出力を上げてこいつに地獄を見せる」
「ッ…………!!!」
究極の選択。
少尉は国から、こういった尋問に対して訓練を受けていたので耐えられる。
だが彼は違う、まだそういった訓練を受けていなかったはずだ。
本来なら国家への忠誠心から、断固拒否する場面だが……。
「…………新潟県の中央区、桜木ICから南へ徒歩5分の所に延々募集中のテナントがある。そこが武器庫だ……」
「新潟県ね、まぁ予想通りか……荷揚げしやすいもんなぁ」
張少尉は遂に喋ってしまった。
もし本国が全力で救助してくれるなら黙秘したが、中国政府は自分たちを見捨てた。
もう、忠誠心なんぞとうに消え失せたのだ。
そこからは矢継ぎ早である。
錠前の質問に対し、少尉は次々アジトやセーフハウスの場所を吐いた。
全ては、生き残った最後の部下を守るために……。
「ふぅ……、いやーこんなにあったとはね。驚いた、君たち大陸人の図々しさは相当だよ」
「どうとでも言え、それより……これで全部喋ったんだ。部下の身の安全を要求する」
「あぁわかってるさ、でも––––」
タブレットを置いた錠前は、ホルスターから『M500』マグナムリボルバーを取り出す。
銃口を近づけ、少尉に向けた。
「責任は取ってもらわなくちゃ……ダメだよね?」
「……私を殺す気か?」
「察しが良い、君はもう用済みなの。中国政府は君たちの存在を認めていないし……ここで消してもまぁ大丈夫ってわけ」
「………………」
いつかはこういう日が来ると思っていた。
任務を失敗するつもりは無かったが、いざ最期の瞬間を迎えると……なぜか清々しさが
もうどうでも良い、だがせめて譲れない部分だけは。
「部下の安全を保障しろ……、それだけお願いしたい。後は好きにしろ」
「ほぉ。肝が据わっている人間は嫌いじゃない、じゃあ最後に僕からも1つだけ……」
銀色のハンマーをコックし、銃の撃鉄を起こす。
「新宿で戦ってみて……君自身はまぁまぁ強いと思ったよ、僕と戦ったのが運の尽きだっただけ。よく10年潜伏したとも思うし、根性は本物だ。誇って良いよ」
「フンッ、敵の貴様に褒められても嬉しくなぞ無い。サッサと撃て」
「言われなくても」
引き金がひかれた。
巨大なマグナム弾は少尉の心臓を粉砕し、瞬時に出血性ショックで死亡させた。
亡骸を尻目に、錠前はタブレットを持ってドアを開ける。
「終わりましたか?」
部屋の前で待っていたアーチャーが、強面を向けた。
「終わったよ、じゃあ行こうか」
まるで食事を終えたかのような軽さで、錠前は歩き出す。
様子を遠隔で見ていたアーチャーは、つい気になったことを聞いた。
「例の少尉の部下……生かしてたんですね。貴方にしては意外でした、処遇はどうします? アメリカにでも亡命させますか?」
アーチャーの純粋な問いに、錠前は「必要ない」と返した。
直後に––––狂人はドス黒い、暗黒のような笑みを浮かべる。
「だってそいつ、最初から“死んでる”し……僕最初に言ったでしょ? 結界内の中国人は皆殺しにするってさ」
アーチャーの背を、ゾッと悪寒が走った。
すぐに錠前の端末をつける。
タブレットには、確かに椅子へ座った張少尉の部下が映っていた。
呼吸……脈拍、間違いなく生きている。
狙撃手の眼が、これは本物だと言っていた。
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