こういう時こそ普段通りに。
自粛ではなく、我々国民は日常を回すことが大事だと思います。
なので、本作もいつも通り更新です。
––––東京都 市ヶ谷、防衛省。
自衛隊の総本山たるここは、基本的に尉官や佐官ばかりが務める特殊な場所。
朝早くに3佐階級という偉い人間が、雑用とゴミ捨てをしている……ある意味の魔境だ。
そんな化け物たちのみが集う巣窟で、場違いな雰囲気の人間がいた。
「で、食事は徹底的に抜いてるんだよね?」
「はい、錠前1佐。この3日間は水しか与えていません」
「うんうんわかった、それで良い。飢えは最高の調味料と言うからね、中国人とはいえ腐っても文化人……徹底的に踏み付ければイケるでしょ」
地下通路を歩いていた第1特務小隊監督官––––錠前1佐は、ポケットに手を入れながら喋る。
通常であれば他の佐官からハンドポケットを注意される場面だが、誰も見ないフリをする。
理由は単純––––“この男が狂人だから”。
市ヶ谷において、倫理観のぶっ飛んだ錠前という人間は誰もが避けていた。
別に陰湿なアレやこれではない、そもそも錠前に上から意見できる自衛官が市ヶ谷を持ってしてもいないのだ。
彼はあまりに強すぎるゆえに、ある意味では孤独だった。
そんな現代最強の自衛官たる彼は、市ヶ谷で最も深い場所へ来ていた。
核攻撃やバンカーバスターにも耐えられるここは、自衛隊にとって最高機密の場所。
「では、自分はここで待っていますので」
「了解アーチャー、様子はタブレットで見てても良いよ」
重い鉄製トビラを開くと、中は1つの監獄になっていた。
その奥で、錠に四肢を縛られた女性がいる。
「こんにちは張少尉、お腹空いてない? 空いたよね? 良いざまだよ……写真を撮ってネットにばら撒きたいくらいだ」
上機嫌な狂人に、中国工作部隊の指揮官––––張少尉はゆっくり顔を上げた。
「私から情報を抜き出そうなんて無駄なことだ、それより良いのか? 私にこんな仕打ちをすれば本国が黙っていないぞ」
「お、結構元気だねぇ。でもその自信はかなり危ないというか……下手すると虚勢に見えかねないよ?」
端正な顔を近づけ、笑みを見せる。
「今の死にかけの中国経済みたいにさ」
「貴様……!!」
「短気だね〜、思ったより空腹そうで安心したよ」
地面に座った錠前は、カバンから菓子パンを取り出した。
袋をビリッと破き、カレーパンを齧る。
「モグッ……あのさ。残りのセーフハウスの場所、サッサと教えてくんない? 君たち白アリの残党を駆除したいからさ」
「そう言われて教えるバカがいると?」
「痩せ我慢すんなよ、今も僕が食べてるカレーパンが欲しくて仕方ないだろ? ちょっと欲望へ素直になれば、美味しいご飯が食べられる。悪い話じゃないでしょ?」
「ッ……!!」
3日間……水しか飲んでいない少尉にとって、カレーパンは最大級の拷問だった。
この男は、敢えて匂いの強い物を持ってきたのだ。
––––ゲスめッ。
「良い性格をしているな、このクズ野郎」
「おばさんに罵倒されても嬉しくないんだよね〜、あと20年早く言って欲しかったなぁ」
「ふざけているのか? そんな態度を取っていられるのも今の内だぞ、この小日本め……すぐに本国が助けに来てくれ––––」
喋っていた張少尉の言葉を、とびっきりの笑顔で錠前は遮った。
「さっき中国政府が会見を開いてね、日本に部隊を送ったことは確認していない……だってさ」
「は…………?」
思考が固まる少尉。
部隊を送ったことを認めない、つまり––––自分たちは最初からいなかったと言われたも同然。
10年間祖国に奉仕してきた少尉は、無条件で国が助けてくれると思っていた。
それが、いとも簡単にひっくり返ってしまった。
呆然とする少尉に、錠前は冷たく言い放つ。
「お前らみたいな使い捨ての駒に、政府がリスクを犯すわけないじゃん。ひょっとしてバカだったりする? 自分の価値を身の丈以上に考えてた?」
「言わせておけば……!! 部下を皆殺しにした貴様はそれ以上のクズだ! サッサと出ていけ!」
「そう切れないでよおばさん、お詫びに良いもの見せてあげるからさ」
タブレットを取り出す錠前。
そこに映された映像を見て、張少尉は思わず声を上げた。
「えっ…………!?」
映像には、ここと似たような部屋で––––椅子に両手足を縛られた、張少尉の部下が映っていた。
それは、死んだはずの……こいつに殺されたはずの、手塩に掛けた若者だった。
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