今年もよろしくお願いします。
今日は投稿しようか結構迷ったのですが、こういう時こそ娯楽に浸って頂きたいと思っていつも通り更新します。
––––ダンジョン内、【アカシック・キャッスル】。
石レンガ造りのここは、ダンジョン運営の情報部が統括する一大要塞拠点だ。
雪景色のエリア全体を隠蔽魔法で隠しており、今は絶対的な安地となっていた。
そんな暖房なんて当然無い部屋で、執行者ベルセリオンは声を上げる。
「テオドールが裏切った?」
水色のサイドテールと紅目を持った少女が、情報部所属のエルフに立ったまま尋ねた。
にわかには信じられない情報に、思わず二度聞きする。
「本当に?」
「“契約の大樹”を確認していた班からの連絡なので、間違いないかと。テオドール様は新しいマスターへ鞍替えしたと思われます」
裏切り……。
それが意味するのは、ダンジョンマスターへの反逆だ。
このダンジョンにおいては絶対に許されない大罪、犯してはならない禁忌。
ダンジョン勢力にとって、マスターを裏切った者には––––
「よって、先ほど執行者“エクシリア”様が……我らがマスターより直々に召集命令を受けたとのことです」
「フゥン、あの最凶と名高いエクシリアが動いたってことは……判決は死刑で良いのかしら」
「だと思います、エクシリア様はアノマリーと唯一渡り合える力を持った執行者。倒し切るのは無理にしても……最初の世界ではダンジョンが逃げる時間稼ぎをしたと聞いています」
汗を流すエルフ。
どういう理由で裏切ったかは知らないが、ベルセリオンにとってはどうでも良かった。
それよりも––––
「今日は実に良い日だわ、前々からあのダメな妹には腹が立ってたの。エクシリアが動くんなら確実でしょうし、わたしにとってはご飯が美味しくなる報せだわ」
外気温の影響でかなり冷えた椅子に座り、ベルセリオンは机に袋を置いた。
かなり寒いが、致し方ない。
「せっかくだし、テオドール死刑の情報を肴に食事させてもらうわ。ご飯は美味しく食べないとね」
広げられたのは、カピカピの葉っぱに四角形の乾燥肉。
しかも明らかに、年頃の少女が食べなければならない量を遥かに下回っている。
だが、これは彼女にとってご馳走––––ベルセリオンはニッと笑った。
「フフッ、哀れねテオドール……捕虜になったならこんなご馳走ももう食べられないかしら。あぁ愉快至極、最高の愉悦に浸れるわ〜」
フォークを突き刺し。葉っぱごと乾燥肉を頬張った。
筋がゴリゴリと潰され、肉汁も無い粘土のような味が葉っぱの苦味と合わさる。
敢えて日本人基準で評しよう、
端的に言えば……クソマズである。
「ふぅ……、喉が渇いたわね」
水筒を取り出す。
中には、少し濁った水が入っていた。
「聞いてよ、ここって気温が低いじゃない?」
「はい、そうですね」
「賢いわたしは考えたの、水筒を雪に埋めれば冷たいお水が飲めるんじゃないかって」
ここへ来るまでに、30分ほど雪に埋めていた水筒を煽る。
キンキンに冷えていたが、やはりどうしても臭みがあった。
こればかりは正直我慢だが、エルフ軍団に比べれば遥かにマトモな食事。
そう、ベルセリオンは部下に、格位が高い執行者としての“ご馳走”を見せつけていたのだ。
臭い水を飲み干し、もう1個乾燥肉を食べる。
「まぁテオドールが裏切っても、このわたしがいればマスターも安心でしょ。わたし––––最高の天才だし」
究極のドヤ顔を見せる。
邪魔だったテオドールが消えたので、自衛隊にはいつでも攻撃できるだろう。
所詮は最弱の民族、天才の自分が本気を出せば一瞬で終わると見て良い。
全てが順調に行けば、ベルセリオンを灰皿呼ばわりしたあの男……錠前という日本人を、次こそぶっ殺す。
いやそうだ、ひれ伏させた後––––今度は自分がアイツを奴隷にしよう。
天才執行者の自分をコケにした罪を、嫌になるまで思い知らせるのだ。
……なんていうご機嫌な妄想に浸っていたベルセリオンだが、唐突に開いたドアの音で肉を喉に詰まらせかける。
「大変です! ベルセリオン様! キール様!!」
「ゲッホゲホ……! アンタねぇノックくらいしたらどう!? 常識よ!? これだからエルフは––––」
文句を言おうとしたベルセリオンに、被せる形でエルフの青年は叫んだ。
「アノマリーの反応が消失しました!! おそらく、討伐されたのかと……」
「はぁ? アノマリーが討伐された? 冗談言いに来たなら殺すわよ、アイツに敵う存在がいるわけないじゃない」
「そ、それが…………!」
エルフは自分も信じられないと言った様子で、口開く。
「アノマリーは……、自衛隊が倒したようです」
水筒を落とすベルセリオン。
その顔は、さっきまでと打って変わって反転––––完全に引き攣っていた。
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