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第115話・護衛艦ひゅうがカレー

 

 給養員の女性自衛官が、大型鉄製トレイに乗せて食べ物を運んできた。


「さぁ召し上がれ守護女神ちゃん! 我が艦が誇る最上のご馳走、『護衛艦ひゅうがカレー』を!」


 ––––ドンッ––––!!!


「ッ……!!」


 鈍い音が響いた。


 テオドールの眼前に置かれたのは、山盛りに膨らんだ白飯に、たっぷりとカレールーが掛けられたもの。


 分類的には牛肉カレーとなるが、その量が規格外だった。


「こ、これ……全部わたし1人で食べて良いんですか!?」


 サラダなどが乗っかる部分を除いて、トレイのほぼ全ての面積にカレールーの海が出来上がっていた。


 海自名物、超大盛りカレーだ。

 一般人より遥かにカロリーを消費する自衛官向けに作られた、高エネルギー食である。


「ジュルッ……!」


 溢れる唾液が止まらない。

 嗅いだことのない上質なスパイスの香りが、テオドールの嗅覚をこれでもかと殴りつける。


 元が欠食児童の彼女にとって、抗うことは不可能に近い。


【うんうん。テオちゃんは頑張ったからね……今日はいくらでも食べていいよ。トッピングも好きなだけしちゃいなさい。生卵も良いぞ!】

【おかわりも良いぞ!(落涙)】

【Let'sもぐもぐタイム! ほえちゃん、労わる、大事!!】


 流れ落ちるコメントを見て、透が微笑む。


「ほら、コメント欄のみんなも言ってるぞ。全部食べて良いから安心しろ」


「これ、実際の人間が打ち込んでるんですか……?」


「みんなウチの国の日本人だよ、お前を甘やかす同志たち」


「なんですかそれ……」


 言いながら、テオドールは透に教えてもらった日本における儀礼を行う。

 両手を合わせ、一言呟いた。


「いただきます」


 穏やかで清廉な声。


【ちゃんといただきます出来て偉い!!】

【礼儀正しい子は好きだ】

【異世界人ちゃん可愛い】


 飛び交うコメントを見てから、テオドールは遂に銀色のスプーンを手に取った。

 一切の迷いも無く、彼女はルーとライスを大きく(すく)って––––


「ハグッ、モグッ……」


 熱々のカレーを頬張り、2、3回噛んでから一瞬で飲み込んでしまう。

 電流が走った……、味覚と嗅覚への尋常じゃない暴力に思わずスプーンを落としかける。


 口が自然と開き、腹底からの癒しを言語化した。


「ほえぇ…………っ」


【頂きましたッ!!】

【ノ ル マ 達 成】

【ほえドールちゃんキターーーーーー!!!】

【ほえ! ほえ!!」】

【本当にこんなに可愛く鳴くんだ】


 今はスパチャができないよう設定しているが、もし許可していたら赤色で埋め尽くされていただろう。


 一方のテオドールも、驚きを隠せないようだった。


「な、なんですかこれ! 見た目はおかしいのに全てがマッチングしています! 程よく辛くて旨味が凄くて……とても固形物とは思えません!!」


 驚き散らかすテオドール。

 ニッコリと笑った四条が、動揺する彼女へ話し掛けた。


「テオドールさん、この国ではカレーは飲み物なんですよ」


「飲み物!? これが!?」


「そうですよ、飲み物です。しかもカロリーゼロ」


「そ、そんなの殆ど水じゃないですか! こ、こんな飲み物を作ってしまうなんて……日本人は本当に恐ろしい民族ですっ」


 その言葉通り、テオドールは成人男性でも十分な量のカレーをドンドン食べ……訂正、飲み進めていく。


 あまりに美味しそうに食べる光景から、同接数3億人の配信も大盛り上がりだ。


【めっちゃ美味そうに食うじゃん……、俺もカレー食べたくなって来た】

【今すぐ買ってこい】

【俺……川崎市民なんだけどさ、今日の夜は海軍カレーにするわ】


 ひょっとしなくても、テオドールが食べるだけで凄まじい宣伝効果が見込めるんじゃなかろうか。

 この配信には外国人も多い、なら––––アレを試そうと透は動いた。


「テオ、残り半分。さらに美味しくなる魔法を掛けてやるよ」


「どういう……ことですか?」


「こういうこと」


 四条から受け取った“生卵”を、透は豪快に真上から乗せた。

 美しい黄身が、トロンと揺れる。


【こ、この悪魔め……!!】

【人の心が無い……!!】

【これ以上さらに堕とすつもりか!!】


 悪魔のようにニッと笑った透が、訝しむテオドールへ喋った。


「黄色い部分をスプーンで割ってみろ」


「こう……ですか?」


 瞬間、パツパツの黄身が弾けた。

 トロリと広がった黄金が、残りのカレーへ覆い被さっていく。


 究極の味変が行われたカレーを、卵や牛肉と一緒に、テオドールは思い切り口に含んで……。


「ッ……!! ッ! ッ…………!!!」

 

 悶絶するような満面の笑顔。

 その場で思わず飛び跳ねそうになる。


 辛味が失せて、マイルドな甘味がテオドールの脳みそを粉砕したのだ。

 濃厚でドロッとした卵が、究極の甘みを付与して襲い掛かる。


 文字通りエンチャントしたかのような効果に、飲み込んだテオドールはこう言うしかなかった。


「……………………ほえっ」


 彼女は知らない、これはまだ始まりに過ぎないと。


気づいた方もいるかも知れませんが、今回配信のコメント欄に一部……読者さんのテオドールへの声を反映しました。

私は読者の方と一緒に物語を作りたいと思っているので、良ければ今回のようにまた反映させてもらうかも知れません。


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」

「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」


と思った方は感想、いいね(←地味に結構見てます)でぜひ応援してください!!

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