給養員の女性自衛官が、大型鉄製トレイに乗せて食べ物を運んできた。
「さぁ召し上がれ守護女神ちゃん! 我が艦が誇る最上のご馳走、『護衛艦ひゅうがカレー』を!」
––––ドンッ––––!!!
「ッ……!!」
鈍い音が響いた。
テオドールの眼前に置かれたのは、山盛りに膨らんだ白飯に、たっぷりとカレールーが掛けられたもの。
分類的には牛肉カレーとなるが、その量が規格外だった。
「こ、これ……全部わたし1人で食べて良いんですか!?」
サラダなどが乗っかる部分を除いて、トレイのほぼ全ての面積にカレールーの海が出来上がっていた。
海自名物、超大盛りカレーだ。
一般人より遥かにカロリーを消費する自衛官向けに作られた、高エネルギー食である。
「ジュルッ……!」
溢れる唾液が止まらない。
嗅いだことのない上質なスパイスの香りが、テオドールの嗅覚をこれでもかと殴りつける。
元が欠食児童の彼女にとって、抗うことは不可能に近い。
【うんうん。テオちゃんは頑張ったからね……今日はいくらでも食べていいよ。トッピングも好きなだけしちゃいなさい。生卵も良いぞ!】
【おかわりも良いぞ!(落涙)】
【Let'sもぐもぐタイム! ほえちゃん、労わる、大事!!】
流れ落ちるコメントを見て、透が微笑む。
「ほら、コメント欄のみんなも言ってるぞ。全部食べて良いから安心しろ」
「これ、実際の人間が打ち込んでるんですか……?」
「みんなウチの国の日本人だよ、お前を甘やかす同志たち」
「なんですかそれ……」
言いながら、テオドールは透に教えてもらった日本における儀礼を行う。
両手を合わせ、一言呟いた。
「いただきます」
穏やかで清廉な声。
【ちゃんといただきます出来て偉い!!】
【礼儀正しい子は好きだ】
【異世界人ちゃん可愛い】
飛び交うコメントを見てから、テオドールは遂に銀色のスプーンを手に取った。
一切の迷いも無く、彼女はルーとライスを大きく
「ハグッ、モグッ……」
熱々のカレーを頬張り、2、3回噛んでから一瞬で飲み込んでしまう。
電流が走った……、味覚と嗅覚への尋常じゃない暴力に思わずスプーンを落としかける。
口が自然と開き、腹底からの癒しを言語化した。
「ほえぇ…………っ」
【頂きましたッ!!】
【ノ ル マ 達 成】
【ほえドールちゃんキターーーーーー!!!】
【ほえ! ほえ!!」】
【本当にこんなに可愛く鳴くんだ】
今はスパチャができないよう設定しているが、もし許可していたら赤色で埋め尽くされていただろう。
一方のテオドールも、驚きを隠せないようだった。
「な、なんですかこれ! 見た目はおかしいのに全てがマッチングしています! 程よく辛くて旨味が凄くて……とても固形物とは思えません!!」
驚き散らかすテオドール。
ニッコリと笑った四条が、動揺する彼女へ話し掛けた。
「テオドールさん、この国ではカレーは飲み物なんですよ」
「飲み物!? これが!?」
「そうですよ、飲み物です。しかもカロリーゼロ」
「そ、そんなの殆ど水じゃないですか! こ、こんな飲み物を作ってしまうなんて……日本人は本当に恐ろしい民族ですっ」
その言葉通り、テオドールは成人男性でも十分な量のカレーをドンドン食べ……訂正、飲み進めていく。
あまりに美味しそうに食べる光景から、同接数3億人の配信も大盛り上がりだ。
【めっちゃ美味そうに食うじゃん……、俺もカレー食べたくなって来た】
【今すぐ買ってこい】
【俺……川崎市民なんだけどさ、今日の夜は海軍カレーにするわ】
ひょっとしなくても、テオドールが食べるだけで凄まじい宣伝効果が見込めるんじゃなかろうか。
この配信には外国人も多い、なら––––アレを試そうと透は動いた。
「テオ、残り半分。さらに美味しくなる魔法を掛けてやるよ」
「どういう……ことですか?」
「こういうこと」
四条から受け取った“生卵”を、透は豪快に真上から乗せた。
美しい黄身が、トロンと揺れる。
【こ、この悪魔め……!!】
【人の心が無い……!!】
【これ以上さらに堕とすつもりか!!】
悪魔のようにニッと笑った透が、訝しむテオドールへ喋った。
「黄色い部分をスプーンで割ってみろ」
「こう……ですか?」
瞬間、パツパツの黄身が弾けた。
トロリと広がった黄金が、残りのカレーへ覆い被さっていく。
究極の味変が行われたカレーを、卵や牛肉と一緒に、テオドールは思い切り口に含んで……。
「ッ……!! ッ! ッ…………!!!」
悶絶するような満面の笑顔。
その場で思わず飛び跳ねそうになる。
辛味が失せて、マイルドな甘味がテオドールの脳みそを粉砕したのだ。
濃厚でドロッとした卵が、究極の甘みを付与して襲い掛かる。
文字通りエンチャントしたかのような効果に、飲み込んだテオドールはこう言うしかなかった。
「……………………ほえっ」
彼女は知らない、これはまだ始まりに過ぎないと。
気づいた方もいるかも知れませんが、今回配信のコメント欄に一部……読者さんのテオドールへの声を反映しました。
私は読者の方と一緒に物語を作りたいと思っているので、良ければ今回のようにまた反映させてもらうかも知れません。
「少しでも続きが読みたい」
「面白かった!」
「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」
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