––––北朝鮮首都 平壌。
高層ビルが立ち並び、立派な高速道路が通ったここは北朝鮮唯一の大都市だ。
人口の多くが首都に集い、まさしく朝鮮民主主義人民共和国の平和と発展––––偉大さを見せつけた世界最高峰の都市。
……と言っても、その半分以上がハリボテという醜いものであるが。
ありとあらゆる建物は外装だけで、人が住んでいない。
一応市民が住んでいる高層ビルもあるにはあるが、1日に数回起きる停電のせいでエレベーターがまともに使えないと来た。
高速道路の交通量は増えているものの、日本に比べれば田舎レベル。
かつてこの世の楽園と言われたこの首都は、世界で最も虚しい都市と言って良い。
そんな街で暮らす市民は、北朝鮮でも数少ない上位階級の人間だった。
「おい、アレなんだ……?」
主に軍関係者や、ミサイル開発関係者で占められる彼らが、おもむろに上空を指差す。
朝鮮の偉大なる将軍が治める空を、2機の戦闘機が引き裂いた。
「しっかり撮影しろよ!! ライトニング7!!」
北朝鮮の首都––––平壌に現れたのは、鉄壁の防空網をアッサリ破って侵入した航空自衛隊F-35A戦闘機だった。
「はいはい、上から見てるよ。言っとくが敵機が来たら即退散だぞ」
「連中のレーダーじゃ見えてないから大丈夫だろ、行くぜッ!」
アフターバーナーを噴射し、マッハを超えたF-35が低空へ高度を下げた。
訂正––––”超低空“だ。
平壌に乱立する高層ビル群の間を、音より速い速度でライトニング6は突っ切った。
狭い住宅街をこの速度で飛行するのは、並大抵の技術ではない。
衝撃波でビルの脆いガラスは全て砕け、破片が道路へ大量に落ちる。
歩道に人はいなかったため、車内からその様子を見た人間が大半だ。
「なんだあれ! 空軍機か!?」
「見たことないぞ! 敵ならなんで空襲警報が鳴らない!?」
ビル群を音速で駆け抜けたF-35は、次に
これは、北朝鮮の創設者である某主席の生誕70周年を祝うために建設された、記念タワーだが。
「祝ってやる! 記念花火だ!」
そのタワーへ浴びせる形で、熱源妨害用のジャマーであるフレアを射出した。
これ自体に殺傷能力は全く無いが、タワーがフレアに晒される様子は大変に写真映えする。
それは同時に、北朝鮮の空が完全に屈したことを意味していた。
「そろそろ市民が通報する頃じゃないか? ソニックブームの爆音で、目も覚めただろう」
「わかってる、でもこれだけはやらせてくれ」
旋回したライトニング6が向かった先は、平壌大劇場と呼ばれる施設。
北朝鮮の偉大さを観光客に見せつけるため造られた、プロパガンダ劇場だ。
「そぉれっ!!」
大きく操縦桿を引き、F-35は劇場の真上で3回ほど縦に大きく旋回した。
WW2で旧日本軍が敵基地上空で行ったとされる、伝説の3回宙返りの再現だ。
平壌市民はみな呆気に取られ、呆然と上空の戦闘機を見上げる。
轟音が響き、グレーの日の丸が空を制した。
「やるな、いつの間に練習してた?」
「米国で訓練プログラムがあっただろ? その時にアメリカ大陸の広い空で練習した。教官が寛容な人で良かったぜ」
さすがは自由の国アメリカだなと思いつつ、ライトニング7はレーダーを見た。
「まだ機影は無いが、もう制限時間だぞ」
「オッケーだ、じゃあ最後に––––」
大きく旋回したライトニング6は、機首をガクンと下げた。
HUDのマニュアル照準レティクルに、“ある物”が収まっていく。
「これは、ほんの僅かな報復だ。お前らが……ウチの国民を不法に拉致したことへのな」
トリガーが引かれる。
––––ブゥゥゥゥンッ––––!!!
繋がった射撃音が響いた。
発射されたイコライザー、25mmガトリング砲は––––尊大な“将軍像”を粉微塵にしてしまう。
他の者や物への付随被害は無し、狙い済ました射撃だ。
「わお、将軍様を吹っ飛ばしたのか……やるじゃん。スッキリしたけど、降格処分されても知らねーぞ」
「知るか、反撃作戦の内だよ。RTB––––これより帰投する」
殿を終えたF-35は、そのまま悠々と平壌を離脱––––日本海へ抜けて、無事に在韓米軍の空中給油機と合流した。
防衛省は直後に、ライトニング7が平壌で撮影した高解像度カメラの写真を公開。
北朝鮮の空を制したことを、この上ない形でアピールした。
今まで何をしても遺憾しか言わなかった日本の攻撃に、北朝鮮は酷く狼狽。
通常兵器の圧倒的な差を見せつけられ、次いでの報復攻撃は保留。
米海軍空母打撃群が北上していると、中国からの情報もあり……北朝鮮はこれ以上の戦闘エスカレーションを避けざるを得なかった。
この一連の衝突は、北朝鮮側の完敗で終わったと言って良い。
余談であるが、将軍像を粉微塵にしたパイロットは……3日ほどの謹慎処分で終わったとのこと。
その翌日からは、いつも通り空を飛んでいた。
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