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第109話・海域制圧

 

 ––––日本海、とある海域。


 6隻の大型木造船が、互いに距離を取って航行していた。

 一見古びた漁船のように見えるそれだが、実態はかけ離れている。


「視界良好、今日も“東海”は澄んでいるな……」


 朝鮮民主主義人民共和国所属、対日特殊工作部隊––––通称88中隊の長である(チョン)大尉は、デッキで日差しを浴びていた。


 ちなみに東海とは、韓国や北朝鮮が呼称する日本海の非公式な呼び方だ。

 自国の東にあるからという、実に単純なものである。


「先方の奴らめ……情けない、我らが偉大なる将軍閣下の命も満足に実行できんとは。相手は日帝だぞ」


 この船は、北朝鮮の誇る最新の偽装工作船だ。

 一見荒んで見えるが、それは貧困の北朝鮮漁民に化けるため。


 レーダー設備などは全て軍用で、船内には小銃はもちろんロケットランチャー。

 さらには対空砲や対空ミサイルを格納していた。


「あと数時間もすれば新潟だ……、いつも通り日本に補充の工作部隊を送る。楽な任務だな」


 中露北の中では、北朝鮮が動きとして一番早かった。

 他の2国が制裁でたじろぐ中、既に失うものなど無い北は、真っ先に補充の兵隊を送ろうとしていた。


「蘇大尉、動画は見ましたか?」


 同じくデッキに出て来た少尉が、風を浴びていたチョンに話しかける。


「あぁ見たよ、米帝で流行りのCG映画というやつだろう? あんな少女1人に蹂躙されるとは、嘘も極まれりだな……」


「自分は本物だと思いました、流石に短期間であんな動画は作れないでしょう。それに映っていたのは紛れもなく同志たちです」


「少尉、銃弾を防いで剣で無双するなんざ……日帝お得意なファンタジー妄想の権化じゃないか。連中の腐った脳みそに侵されるな」


「しかし……」


「それ以上言えば、敗北主義とみなして東海に沈めても良いんだが?」


「いえっ、なんでもありません」


 ビッと敬礼する少尉。

 しかし、彼の言わんとしていることもわかる。


 実際、部隊は東京で任務を失敗したのだ。

 動画で公開されたのは痛いが、蘇大尉は笑みを浮かべる。


「奴らがいくら我々を倒しても、こうしてまた海を渡って送り込めば良い。日帝は自称平和主義……小心者の敗北主義者だ。反撃なんてできないさ」


 そう言った蘇大尉の後ろで、閃光が瞬いた。


「は…………っ」


 振り返れば、爆音と衝撃波が彼を襲う。

 転がりながら見えた光景は、隣を航行していた工作船が爆発を起こして轟沈するというもの。


「おいおいなんだ……? 火の始末でも怠ったか?」


 バカが弾薬庫でタバコでも吸ったのかと思ったが、2秒後にその考えは否定される。


 ––––ドォンッ––––!!!


 今度は前方を走っていた船が、大爆発を起こして木っ端微塵に砕け散った。

 ここまで来て、ようやく蘇大尉は状況を理解する。


「空爆だ!! 攻撃されているぞ!! 軍曹、回避運動を取れ!!」


「米帝ですか!?」


「不明だ、対空戦闘!!」


 工作員たちが一斉に駆け始め、ブリッジ下の格納庫からレールに乗った旧式の2連装対空砲を引っ張り出す。


 大尉自身も、部下から渡された旧ソ連製対空ミサイル『イグラ』を構えた。

 ロックオン用の光学レティクルを、蒼空に勢いよく向ける。


「どこだ……! 日帝の戦闘機なら至近距離でしか爆撃できないはず。レーダーを見ろ! 方位がわかれば落とせる!!」


 工作船の偽装対空レーダーは、通常の大型戦闘機程度なら難なく探知できる。

 位置が分かれば、対空砲火をお見舞いするだけだ。


 しばらくして、レーダー員が叫ぶ。


「レーダーに反応無し!! 付近数十キロに航空機はいません!!」


「そんなバカな話があるか! 俺はさっき確かに落ちて来た爆弾なりを見たぞ!!」


「巡航ミサイルの可能性は!?」


「ミサイルだったとしてもレーダーには映る!! アレは間違いなくJDAM(誘導爆弾)だ!!」


 そうこう言っている内に、左右で爆発が2回発生した。

 黒煙を上げて、2隻の工作船が真っ二つになって沈んでいく……。


「ッ……!! レーダー!」


「ダメです! 今度も見えなかった……! 一体なんなんだ!! 何が起きている!!」


 パニック状態に陥る北朝鮮部隊。

 どんなに耳を澄ましても、悲鳴と軋み音しか聞こえない。


「まさか……、日帝が武力攻撃を? あり得ん……、あの偽善に満ちた国家が……」


 再び響く爆発音。

 全速で回避運動を取っていた1隻が爆沈し、いよいよ蘇大尉が乗る旗艦だけとなった。


 彼は力無く……、ゆっくりと対空ミサイルを落とした。

 波に揺られながら、1つの見逃していた真理へ至る。


「いつから我々は……、一方的に殴っておいて、“反撃されない”と思い込んでいた?」


 それが、この世に遺す最後の言葉だった。

 大尉の乗っていた木造船が、海の上で激しく爆散する。


 周囲に破片が飛び散り、1人の生存者も残すことなく、北朝鮮増援部隊は全滅した。


 そんな様子を、80キロ以上離れた上空の戦闘機が––––超高性能カメラで見ていた。


「全弾命中、目標撃沈」


 高空を悠々と飛行していたのは、航空自衛隊のF-35A戦闘機部隊だった。

 この機体は、流線形のボディと特殊な塗装によってレーダーに映りにくい事が特徴なステルス機だ。


 北朝鮮の主力である短波レーダーでは、どんなに頑張っても探知などできない。

 後方を飛んでいた早期警戒機、E-2Dアドバンスド・ホークアイが通信を行う。


「ホークアイよりライトニング1へ、こちらでも撃沈を確認した」


 F-35が放ったのは、『GBU-53/Bストームブレイカー滑空爆弾』という兵器。

 長距離から敵を攻撃するスタンド・オフ・兵器の一種で、ミサイルのように飛翔はしないが、滑空することによって遠方から攻撃できる。


 工作船のレーダーに映らなかったのは、戦闘機に比べて遥かにサイズが小さかったからだ。


「ライトニング各機へ、北朝鮮西岸部でIRBM(中距離弾道ミサイル)発射の動きがあると米軍からの情報だ。目標は北海道と思われる」


「了解、これより北朝鮮本土上空へ向かう」


 自衛隊初の、敵地直接攻撃が行われようとしていた。


109話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」

「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」


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