––––日本海、とある海域。
6隻の大型木造船が、互いに距離を取って航行していた。
一見古びた漁船のように見えるそれだが、実態はかけ離れている。
「視界良好、今日も“東海”は澄んでいるな……」
朝鮮民主主義人民共和国所属、対日特殊工作部隊––––通称88中隊の長である
ちなみに東海とは、韓国や北朝鮮が呼称する日本海の非公式な呼び方だ。
自国の東にあるからという、実に単純なものである。
「先方の奴らめ……情けない、我らが偉大なる将軍閣下の命も満足に実行できんとは。相手は日帝だぞ」
この船は、北朝鮮の誇る最新の偽装工作船だ。
一見荒んで見えるが、それは貧困の北朝鮮漁民に化けるため。
レーダー設備などは全て軍用で、船内には小銃はもちろんロケットランチャー。
さらには対空砲や対空ミサイルを格納していた。
「あと数時間もすれば新潟だ……、いつも通り日本に補充の工作部隊を送る。楽な任務だな」
中露北の中では、北朝鮮が動きとして一番早かった。
他の2国が制裁でたじろぐ中、既に失うものなど無い北は、真っ先に補充の兵隊を送ろうとしていた。
「蘇大尉、動画は見ましたか?」
同じくデッキに出て来た少尉が、風を浴びていたチョンに話しかける。
「あぁ見たよ、米帝で流行りのCG映画というやつだろう? あんな少女1人に蹂躙されるとは、嘘も極まれりだな……」
「自分は本物だと思いました、流石に短期間であんな動画は作れないでしょう。それに映っていたのは紛れもなく同志たちです」
「少尉、銃弾を防いで剣で無双するなんざ……日帝お得意なファンタジー妄想の権化じゃないか。連中の腐った脳みそに侵されるな」
「しかし……」
「それ以上言えば、敗北主義とみなして東海に沈めても良いんだが?」
「いえっ、なんでもありません」
ビッと敬礼する少尉。
しかし、彼の言わんとしていることもわかる。
実際、部隊は東京で任務を失敗したのだ。
動画で公開されたのは痛いが、蘇大尉は笑みを浮かべる。
「奴らがいくら我々を倒しても、こうしてまた海を渡って送り込めば良い。日帝は自称平和主義……小心者の敗北主義者だ。反撃なんてできないさ」
そう言った蘇大尉の後ろで、閃光が瞬いた。
「は…………っ」
振り返れば、爆音と衝撃波が彼を襲う。
転がりながら見えた光景は、隣を航行していた工作船が爆発を起こして轟沈するというもの。
「おいおいなんだ……? 火の始末でも怠ったか?」
バカが弾薬庫でタバコでも吸ったのかと思ったが、2秒後にその考えは否定される。
––––ドォンッ––––!!!
今度は前方を走っていた船が、大爆発を起こして木っ端微塵に砕け散った。
ここまで来て、ようやく蘇大尉は状況を理解する。
「空爆だ!! 攻撃されているぞ!! 軍曹、回避運動を取れ!!」
「米帝ですか!?」
「不明だ、対空戦闘!!」
工作員たちが一斉に駆け始め、ブリッジ下の格納庫からレールに乗った旧式の2連装対空砲を引っ張り出す。
大尉自身も、部下から渡された旧ソ連製対空ミサイル『イグラ』を構えた。
ロックオン用の光学レティクルを、蒼空に勢いよく向ける。
「どこだ……! 日帝の戦闘機なら至近距離でしか爆撃できないはず。レーダーを見ろ! 方位がわかれば落とせる!!」
工作船の偽装対空レーダーは、通常の大型戦闘機程度なら難なく探知できる。
位置が分かれば、対空砲火をお見舞いするだけだ。
しばらくして、レーダー員が叫ぶ。
「レーダーに反応無し!! 付近数十キロに航空機はいません!!」
「そんなバカな話があるか! 俺はさっき確かに落ちて来た爆弾なりを見たぞ!!」
「巡航ミサイルの可能性は!?」
「ミサイルだったとしてもレーダーには映る!! アレは間違いなくJDAM(誘導爆弾)だ!!」
そうこう言っている内に、左右で爆発が2回発生した。
黒煙を上げて、2隻の工作船が真っ二つになって沈んでいく……。
「ッ……!! レーダー!」
「ダメです! 今度も見えなかった……! 一体なんなんだ!! 何が起きている!!」
パニック状態に陥る北朝鮮部隊。
どんなに耳を澄ましても、悲鳴と軋み音しか聞こえない。
「まさか……、日帝が武力攻撃を? あり得ん……、あの偽善に満ちた国家が……」
再び響く爆発音。
全速で回避運動を取っていた1隻が爆沈し、いよいよ蘇大尉が乗る旗艦だけとなった。
彼は力無く……、ゆっくりと対空ミサイルを落とした。
波に揺られながら、1つの見逃していた真理へ至る。
「いつから我々は……、一方的に殴っておいて、“反撃されない”と思い込んでいた?」
それが、この世に遺す最後の言葉だった。
大尉の乗っていた木造船が、海の上で激しく爆散する。
周囲に破片が飛び散り、1人の生存者も残すことなく、北朝鮮増援部隊は全滅した。
そんな様子を、80キロ以上離れた上空の戦闘機が––––超高性能カメラで見ていた。
「全弾命中、目標撃沈」
高空を悠々と飛行していたのは、航空自衛隊のF-35A戦闘機部隊だった。
この機体は、流線形のボディと特殊な塗装によってレーダーに映りにくい事が特徴なステルス機だ。
北朝鮮の主力である短波レーダーでは、どんなに頑張っても探知などできない。
後方を飛んでいた早期警戒機、E-2Dアドバンスド・ホークアイが通信を行う。
「ホークアイよりライトニング1へ、こちらでも撃沈を確認した」
F-35が放ったのは、『GBU-53/Bストームブレイカー滑空爆弾』という兵器。
長距離から敵を攻撃するスタンド・オフ・兵器の一種で、ミサイルのように飛翔はしないが、滑空することによって遠方から攻撃できる。
工作船のレーダーに映らなかったのは、戦闘機に比べて遥かにサイズが小さかったからだ。
「ライトニング各機へ、北朝鮮西岸部でIRBM(中距離弾道ミサイル)発射の動きがあると米軍からの情報だ。目標は北海道と思われる」
「了解、これより北朝鮮本土上空へ向かう」
自衛隊初の、敵地直接攻撃が行われようとしていた。
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