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第106話・決着! 千葉県沖海戦

 

 超高出力ビーム同士のぶつかり合いは、周辺海域を大きく揺らした。

 空から雲が一気に薙ぎ払われ、まばゆい光が海域を覆う。


「『ひゅうが』、速力8ノットまで低下!!」


「やられたか!?」


「いえ、飛行甲板に立った少女がビームを放って……リヴァイアサンの攻撃を止めています!」


「子供がアレを!? ここは現実だぞ、そんなファンタジーあるわけ……」


 だが、モニターに映ったテオドールの姿を見て『あすか』乗組員は声が出なくなる。

 本当にファンタジーな魔法少女が、加害半径数十キロのレーザーを止めていた。


 全員呆気に取られてしまうが、艦長はすぐさま意識を取り戻す。


「レールガンへの電力充填はどうなってる!?」


「はっ、現在機関を潰す覚悟で運転中! 再度の発射までは240秒掛かります!」


「ッ…………!!」


 モニターに目をやる。

 一見互角に見える押し合いだが、僅かにリヴァイアサンがリードし始めた……。


 理論上は300秒持ち堪えることも可能かもしれないが、もし……リヴァイアサンが想定より威力を上げて来たら、300秒経った瞬間––––


「発射前に『ひゅうが』ごと消し飛びかねん……」


 それは認められない。

 あの新海という自衛官は今や英雄。

 『ひゅうが』の乗組員だって多い。


 彼らが最善を尽くしているのに、自分たちが消し飛ぶ瞬間を見るだけなどあってはならないのだ。


『あすか』艦長はすぐさま指示を出す。


「電力を一点に全て送る。火器管制レーダーと推進機関の分までレールガンに回せ、全部だ。1つ残らず! そうすれば300秒ジャストで発射できる」


「正気ですか艦長!?」


 砲術員が振り向いた。


「推進装置が止まれば動けず的にされる上、何よりFCSが無いとロックオンが……」


「お前ら、散々マニュアルで主砲を撃つ練習くらいしただろ。こないだの演習では小型ミサイル艇に全弾当ててたじゃないか。命令だ––––1発で当てろ」


 モニターでは、レーザーが既に半分以上押されている。

 迷っている時間など無かった。


「了解……! 艦内電力の全てをレールガンへ!! 右砲戦用意、主砲照準は手動(マニュアル)へ変更!!」


 レールガンのカウントダウンが、200秒から一気に90秒へ切り替わった。

 その代わり、『あすか』の推進プロペラは完全に停止。


 主砲照準は、砲術員の完全な技量頼みとなった。


「全ての訓練はこの1発のためにあったと思え! 我々は海上自衛隊だ、日本の海は––––我々にしか守れんのだ!!」


「「「了解ッ!!!」」」


 レールガンに電流が走り始める。


 ◆


『ひゅうが』甲板では、『収束衝撃波圧縮砲(ショック・カノン)』を撃ち続けるテオドールが、ギリギリと小さい歯を食いしばっていた。


「透!! これじゃ本当に300秒ちょっとしか持ちません!! 何か手は無いんですか!?」


 リヴァイアサンのレーザーは、新宿を両断したテオドールの大魔法をもってしても手に負えなかった。


 マスター契約における“約束”を使い、今の彼女の魔力量は通常時を遥かに超える。


 大砲の口径に例えれば、36センチ砲が51センチ換算になったのと同じレベルだ。


 そんな決戦仕様の彼女ですら、まだ足りない。

 透は後ろからテオドールを支えながら、ひりつく死の気配に汗を流す。


「なんとかってなぁ……、約束は重複できないのか!?」


「できません! ブーストはあくまでも一時的! 重ねての発動は不可能です!!」


 テオドールの運動靴は、衝撃に耐えるあまり硬い飛行甲板へめり込んでいた。

 押し合いの影響を受けて、『ひゅうが』の速力は3ノットまで低下。


 確かに、このままいけばもし……レールガンが撃てても『ひゅうが』ごと全員死ぬ。


 それだけは避けねばならない。

 必死に熟考した透は、ふと……単純なことに気がついた。


「テオ! 左手だ!! 今遊んでる左手も使え!!」


 彼女は右手1本で魔法を撃っており、左手はフリーだった。

 しかし––––


「むっ、無理です……! 片手じゃないと魔法に集中できませんし、威力も分散してしまいます!!」


「わかってる! だから俺の言うことをよく聞け! それから試してみても遅くはない!!」


 いよいよ敵のレーザーが迫って来たタイミングで、透はとんでもないことを叫んだ。


「自分を“大砲”だと思え!! テオは今、宇宙戦艦の主砲なんだ!」


「ほえッ!?」


 それは、彼の大好きなアニメの話だった。


「この『ひゅうが』は今だけ超弩級宇宙戦艦なんだ! テオはその主砲!! 戦艦の主砲が––––たった“1門”なわけないだろ!?」


 新宿で言われたアニメの話を、テオドールは思い出した。


「わたしは……主砲、透を守る。戦艦の主砲……!」


「そうだ! 想像して見せろ!! お前は最強の主砲だ!! イメージして……具現化するんだ!!」


 瞬間、奇跡が起こった。

 マスターの透が強く念じたイメージが、直接触れる眷属のテオドールへ伝播、投影されたのだ。


 僅か0.5秒の間に、透が見て来た全52話。

 映画2本分の映像が流し込まれる。


 圧倒的な情報の暴力は、彼女に強く“主砲”のイメージをさせるのに十分だった。


「…………透っ」


 金色の目をキッと開けたテオドールは、左手に蒼雷を纏わせた。


「やはり貴方は、最高のマスターです」


「––––なら良かった、ぶつけてやれ。お前の全火力を!」


 足で踏ん張り、マスターの助力を得て––––彼女は今、本当に宇宙戦艦の主砲となった。


 文字通りの……全火力発射(フルファイア)


「2連装・『収束衝撃波圧縮砲(ショック・カノン)』!!!」


 全く同じ出力の魔法が、左手からも放たれた。

 螺旋を描いたそれは、既に撃ち出されていたビームと合流。


 1本の強烈な攻撃となって、一気にリヴァイアサンのレーザーを押し戻した。


「行けッ!! テオドール!!!」


 反撃の奔流は止まることなく進み続け、『ショック・カノン』はリヴァイアサンの顔面へ直撃した。


「ガァァアアッ!!!?」


 大きく仰け反り、激痛に悶えるアノマリー。

 信じられないことに、テオドールはあのレーザーに撃ち勝ったのである。


「––––––––終わりだ」


 透の言葉と同時に、決着がついた。


 ––––バチンッ––––!!!


 エネルギーをたっぷり120%まで溜めたレールガンが発射され、リヴァイアサンの首から上をもぎ取った。


 命の灯火を消されたアノマリーは、長い胴体と頭を海に落とす。

 今度こそ、再生はしない。


「はぁっ……! はぁっ……! レールガン命中、目標……沈黙しました!!」


『あすか』艦内では、レールガンの引き金をひいた砲手が思わず脱力する。

 距離20キロという超遠距離を、手動照準で見事––––命中させたのだ。


 まさしく、日頃の鍛錬が物を言った自衛隊の底力だ。

 周りの隊員が歓声を上げる中、艦長は隣の砲雷長へ静かに呟く。


「装備はかなり使い潰したが、人的被害はおかげでゼロ。レールガン損耗の説教は……背広組にでも受けてもらおうか」


 ほがらかな笑み。

 ここに––––千葉県沖海戦は終結した。


 海上自衛隊、アメリカ太平洋軍、そしてしがない陸上自衛官 新海透。

 そんな彼の眷属たる執行者テオドールの力によって、リヴァイアサンは打ち破られたのだ。


 ––––総使用弾薬。


 ・150キロ対潜爆弾、360発以上。

 ・18式魚雷、8発。

 ・L-RASM対艦ミサイル、16発。

 ・アスロック対潜ミサイル、45発。

 ・短魚雷、3発。

 ・76ミリ砲弾、150発。

 ・127ミリ砲弾、160発。

 ・AGM-114対戦車ミサイル、8発。

 ・30ミリ機関砲弾、854発。

 ・トマホーク対艦ミサイル、25発。

 ・127ミリ・レールガン、3発。

 ・ショック・カノン2発。


 ––––総参加兵力。


 ・P-3C哨戒機32機、P-1哨戒機12機、P-8哨戒機36機。

 ・B-1B戦略爆撃機4機、A-10C攻撃機2機。

 ・護衛艦『ひゅうが』、『あさひ』、『むらさめ』、『おおなみ』。


 ・イージス艦『まや』、『きりしま』、『ロバート・スモールズ』、『ラファエル・ペラルタ』、『ミリアス』


 ・潜水艦『たいげい』、『らいげい』。

 ・試験艦『あすか』。


 ・陸上自衛官 新海透。

 ・執行者テオドール。



105話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」

「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」


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