超高出力ビーム同士のぶつかり合いは、周辺海域を大きく揺らした。
空から雲が一気に薙ぎ払われ、まばゆい光が海域を覆う。
「『ひゅうが』、速力8ノットまで低下!!」
「やられたか!?」
「いえ、飛行甲板に立った少女がビームを放って……リヴァイアサンの攻撃を止めています!」
「子供がアレを!? ここは現実だぞ、そんなファンタジーあるわけ……」
だが、モニターに映ったテオドールの姿を見て『あすか』乗組員は声が出なくなる。
本当にファンタジーな魔法少女が、加害半径数十キロのレーザーを止めていた。
全員呆気に取られてしまうが、艦長はすぐさま意識を取り戻す。
「レールガンへの電力充填はどうなってる!?」
「はっ、現在機関を潰す覚悟で運転中! 再度の発射までは240秒掛かります!」
「ッ…………!!」
モニターに目をやる。
一見互角に見える押し合いだが、僅かにリヴァイアサンがリードし始めた……。
理論上は300秒持ち堪えることも可能かもしれないが、もし……リヴァイアサンが想定より威力を上げて来たら、300秒経った瞬間––––
「発射前に『ひゅうが』ごと消し飛びかねん……」
それは認められない。
あの新海という自衛官は今や英雄。
『ひゅうが』の乗組員だって多い。
彼らが最善を尽くしているのに、自分たちが消し飛ぶ瞬間を見るだけなどあってはならないのだ。
『あすか』艦長はすぐさま指示を出す。
「電力を一点に全て送る。火器管制レーダーと推進機関の分までレールガンに回せ、全部だ。1つ残らず! そうすれば300秒ジャストで発射できる」
「正気ですか艦長!?」
砲術員が振り向いた。
「推進装置が止まれば動けず的にされる上、何よりFCSが無いとロックオンが……」
「お前ら、散々マニュアルで主砲を撃つ練習くらいしただろ。こないだの演習では小型ミサイル艇に全弾当ててたじゃないか。命令だ––––1発で当てろ」
モニターでは、レーザーが既に半分以上押されている。
迷っている時間など無かった。
「了解……! 艦内電力の全てをレールガンへ!! 右砲戦用意、主砲照準は
レールガンのカウントダウンが、200秒から一気に90秒へ切り替わった。
その代わり、『あすか』の推進プロペラは完全に停止。
主砲照準は、砲術員の完全な技量頼みとなった。
「全ての訓練はこの1発のためにあったと思え! 我々は海上自衛隊だ、日本の海は––––我々にしか守れんのだ!!」
「「「了解ッ!!!」」」
レールガンに電流が走り始める。
◆
『ひゅうが』甲板では、『
「透!! これじゃ本当に300秒ちょっとしか持ちません!! 何か手は無いんですか!?」
リヴァイアサンのレーザーは、新宿を両断したテオドールの大魔法をもってしても手に負えなかった。
マスター契約における“約束”を使い、今の彼女の魔力量は通常時を遥かに超える。
大砲の口径に例えれば、36センチ砲が51センチ換算になったのと同じレベルだ。
そんな決戦仕様の彼女ですら、まだ足りない。
透は後ろからテオドールを支えながら、ひりつく死の気配に汗を流す。
「なんとかってなぁ……、約束は重複できないのか!?」
「できません! ブーストはあくまでも一時的! 重ねての発動は不可能です!!」
テオドールの運動靴は、衝撃に耐えるあまり硬い飛行甲板へめり込んでいた。
押し合いの影響を受けて、『ひゅうが』の速力は3ノットまで低下。
確かに、このままいけばもし……レールガンが撃てても『ひゅうが』ごと全員死ぬ。
それだけは避けねばならない。
必死に熟考した透は、ふと……単純なことに気がついた。
「テオ! 左手だ!! 今遊んでる左手も使え!!」
彼女は右手1本で魔法を撃っており、左手はフリーだった。
しかし––––
「むっ、無理です……! 片手じゃないと魔法に集中できませんし、威力も分散してしまいます!!」
「わかってる! だから俺の言うことをよく聞け! それから試してみても遅くはない!!」
いよいよ敵のレーザーが迫って来たタイミングで、透はとんでもないことを叫んだ。
「自分を“大砲”だと思え!! テオは今、宇宙戦艦の主砲なんだ!」
「ほえッ!?」
それは、彼の大好きなアニメの話だった。
「この『ひゅうが』は今だけ超弩級宇宙戦艦なんだ! テオはその主砲!! 戦艦の主砲が––––たった“1門”なわけないだろ!?」
新宿で言われたアニメの話を、テオドールは思い出した。
「わたしは……主砲、透を守る。戦艦の主砲……!」
「そうだ! 想像して見せろ!! お前は最強の主砲だ!! イメージして……具現化するんだ!!」
瞬間、奇跡が起こった。
マスターの透が強く念じたイメージが、直接触れる眷属のテオドールへ伝播、投影されたのだ。
僅か0.5秒の間に、透が見て来た全52話。
映画2本分の映像が流し込まれる。
圧倒的な情報の暴力は、彼女に強く“主砲”のイメージをさせるのに十分だった。
「…………透っ」
金色の目をキッと開けたテオドールは、左手に蒼雷を纏わせた。
「やはり貴方は、最高のマスターです」
「––––なら良かった、ぶつけてやれ。お前の全火力を!」
足で踏ん張り、マスターの助力を得て––––彼女は今、本当に宇宙戦艦の主砲となった。
文字通りの……
「2連装・『
全く同じ出力の魔法が、左手からも放たれた。
螺旋を描いたそれは、既に撃ち出されていたビームと合流。
1本の強烈な攻撃となって、一気にリヴァイアサンのレーザーを押し戻した。
「行けッ!! テオドール!!!」
反撃の奔流は止まることなく進み続け、『ショック・カノン』はリヴァイアサンの顔面へ直撃した。
「ガァァアアッ!!!?」
大きく仰け反り、激痛に悶えるアノマリー。
信じられないことに、テオドールはあのレーザーに撃ち勝ったのである。
「––––––––終わりだ」
透の言葉と同時に、決着がついた。
––––バチンッ––––!!!
エネルギーをたっぷり120%まで溜めたレールガンが発射され、リヴァイアサンの首から上をもぎ取った。
命の灯火を消されたアノマリーは、長い胴体と頭を海に落とす。
今度こそ、再生はしない。
「はぁっ……! はぁっ……! レールガン命中、目標……沈黙しました!!」
『あすか』艦内では、レールガンの引き金をひいた砲手が思わず脱力する。
距離20キロという超遠距離を、手動照準で見事––––命中させたのだ。
まさしく、日頃の鍛錬が物を言った自衛隊の底力だ。
周りの隊員が歓声を上げる中、艦長は隣の砲雷長へ静かに呟く。
「装備はかなり使い潰したが、人的被害はおかげでゼロ。レールガン損耗の説教は……背広組にでも受けてもらおうか」
ほがらかな笑み。
ここに––––千葉県沖海戦は終結した。
海上自衛隊、アメリカ太平洋軍、そしてしがない陸上自衛官 新海透。
そんな彼の眷属たる執行者テオドールの力によって、リヴァイアサンは打ち破られたのだ。
––––総使用弾薬。
・150キロ対潜爆弾、360発以上。
・18式魚雷、8発。
・L-RASM対艦ミサイル、16発。
・アスロック対潜ミサイル、45発。
・短魚雷、3発。
・76ミリ砲弾、150発。
・127ミリ砲弾、160発。
・AGM-114対戦車ミサイル、8発。
・30ミリ機関砲弾、854発。
・トマホーク対艦ミサイル、25発。
・127ミリ・レールガン、3発。
・ショック・カノン2発。
––––総参加兵力。
・P-3C哨戒機32機、P-1哨戒機12機、P-8哨戒機36機。
・B-1B戦略爆撃機4機、A-10C攻撃機2機。
・護衛艦『ひゅうが』、『あさひ』、『むらさめ』、『おおなみ』。
・イージス艦『まや』、『きりしま』、『ロバート・スモールズ』、『ラファエル・ペラルタ』、『ミリアス』
・潜水艦『たいげい』、『らいげい』。
・試験艦『あすか』。
・陸上自衛官 新海透。
・執行者テオドール。
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