テオろ! ほえドール!!
「正気ですか透ッ!?」
––––時間は少し遡って、
『ひゅうが』の医務室で起き上がったテオドールは、開口一番に我がマスターの正気を疑った。
理由は、彼が放った言葉にある。
「アノマリーは巨大な魔力に反応するんだろ? 今のお前なら、全力出せば十分引き付けられると思うんだけど……」
「で、できますけど……相手はあのアノマリーですよ!? 今まで色んな世界を巡って来ましたけど、ヤツが現れたら逃げるのが鉄則! 勝てるわけがないんですよ!」
聞けば、ダンジョン勢力は過去に一度だけアノマリーに異世界で挑んだことがあるらしい。
「本当に、本当に恐ろしかったです……!」
結果から言えば惨敗。
ダンジョンの外装は半壊し、使役していたモンスターは大半が死亡。
相手のタイプは、陸上特化の牛鬼にも似た化け物。
果敢に近接戦を挑んだテオドールは、振られた腕の一撃で軽く吹っ飛ばされ、呆気なくダウン。
瓦礫に埋もれた状態で気絶してしまい、その後他の執行者によって救出されたという。
「あれ以来、アノマリーが目覚めたら別世界へ逃げることになりました……。それくらい敵は強いんです」
確かに、テオドールの言うことは事実だろう。
さっき聞いた報告では、大量の対潜爆弾と18式魚雷を食らっても生きているらしかった。
しかし、透は特に気にせず続ける。
「それって、お前が栄養失調でかなり不完全だった時だろ? 今のテオなら十分張り合えると思うんだけど……」
「絶対嫌です! いくら透の言うことでも承服しかねます! アノマリーとは二度と戦いませんから!!」
眼前の可愛い眷属は、不機嫌そうに言ってプイと横を向いてしまう。
本人が嫌と言うなら強制はしたくないが、それでも––––透は彼女の持つ可能性を信じていた。
「……魔力が強化される条件ってあるか?」
「強化……? まぁ一応ありますよ、わたしと透の関係なら1つ手段が存在します」
向き直ったテオドールが、どこか思い出しながら話す。
「互いが主従関係にある場合、何か約束事を交わせば一時的にブーストできます」
「じゃあ俺がテオに何かあげる代わりに、テオはそれと引き換えで魔力を強化……とかできんの?」
「まぁ……一応。あっ! 言っときますけどやりませんからね! 散々言いましたがアノマリーとは二度と––––」
未だ拒否を続ける彼女の前で、透は立ち上がった。
「気持ちはわかるが、この“匂い”に耐えられるかな?」
医務室の扉が開かれる。
瞬間、テオドールにとって嗅いだことのない匂いが飛び込んで来た。
彼女の概念で言語化するなら、野菜と肉……それらを膨大なスパイスで煮込んだような香りだ。
口内にバッと唾液が溢れ、溢れそうになったのを思わず腕で拭う。
「約束だ。テオが300秒––––アノマリーを足止めできたら、この匂いの元の料理を食わせてやる」
「ぐっぅ……! なんですかこれ、涎が、涎が止まらないです……!」
「2日も点滴だったんだ……胃が寂しいだろう? 知ってるか? この料理は海自で一番美味しいんだぜ」
「ッ…………!!」
しばらく葛藤したらしいテオドールが、恥ずかしそうに目を逸らしながら口開く。
「さ、300秒ですよ……。それがわたしの稼げる限界時間です。終わったらその料理、ちゃんと食べさせてくださいね」
やはり、相当チョロい
ご馳走で見事一本釣りを決めた透は、そのまま彼女を飛行甲板に連れて行く。
そして、切り札のレールガンが到着した頃に––––
「こっちを向け! リヴァイアサンッ!!」
“約束”によって一時的にブーストされた魔力を放出し、アノマリーの注意をこちらに引かせた。
「よっし、こっち向いたな……じゃあテオ。頑張るぞ。300秒稼げばそれで良い」
「グゥッ……、こんなに眷属をこき使うなんて、透は酷いマスターです」
「できないヤツには最初から何も頼まないよ、お前はちゃんとできる。だからお願いしてるんだ」
「ッ……!」
アノマリーの大口がテオドールを指向する。
透は風が吹き荒ぶ飛行甲板で、テオドールの背中を叩いた。
「リベンジだ、全力をぶつけてやれっ」
右手に魔力を充填しながら、テオドールは小さく呟く。
「やっぱり透は女たらしです…………」
「ん? なんて?」
「なんでもありません、約束通りこれ終わったら––––ちゃんとご飯食べさせてくださいね」
「あぁ、もちろんだ」
ニッと笑ったテオドールは、遂に放たれたリヴァイアサンのレーザーを前にしても全く引かなかった。
全身全霊で己を奮い立たせ、マスターのために全力の魔法を撃った。
「『
右手を振り抜く。
発射された青白いビームは、リヴァイアサンの超高出力レーザーと正面から激突。
光同士での鍔迫り合いを展開した。
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