「A-10C、間に合いました!!」
間一髪での到着に、『ひゅうが』艦内の士気は高まった。
直掩機が付いてくれるだけで、これほど心強いものは無い。
第二次世界大戦における、帝国海軍の坊ノ岬沖海戦とは違うのだ。
今の海上自衛隊には、あの時無かった強力な支援態勢がしっかり整っている。
後は––––
「主砲、撃ちー方始めっ!」
「撃ちー方始めッ!!」
この怪物へ、可能な限りの砲弾を浴びせるだけだ。
祖先たる帝国海軍が夢見た漸減作戦からの、砲撃による艦隊決戦。
それを––––この現代で蘇らせるッ!
––––ドパァンッ––––!!!
3隻の護衛艦が76ミリ、127ミリ速射砲の全力射撃を敢行した。
現代の艦船に付いた主砲は、戦車以上の口径の弾を凄まじい速度で発射する。
15ノットの速力で移動しながら、速射砲の名の示す通りに連射した。
「ガァァアアッ!!?」
リヴァイアサンを爆炎の猛攻が襲った。
嵐のように撃ち込んでいるのは、対地砲撃用の“榴弾”だ。
水中に逃げられなくなったアノマリーを、左右からサンドバッグのように痛めつける。
「まだだ! 後7分––––ここへ釘付けにしろ!!」
この距離であのデカい的に、弾を外す訳もない。
100%の命中率で、大口径砲弾がリヴァイアサンを殴り続けた。
それでも敵は再生を常時続けており、剥がれた鱗はより強靭なものへ進化。
攻撃の損傷を、回復が上回るのは時間の問題だった。
「目標!! 再びレーザー充填の気配あり!!」
「これだけ浴びせてもまだ抵抗するか……! 上空の米軍に通信! 再度の航空支援を要請せよ!!」
無線士が回線を開き、英語で伝えた。
返事は即答。
「オーケー、叩き込んでやるぜッ!!」
被弾を続けながらもエネルギーを充填するリヴァイアサンへ、『ひゅうが』の真後ろからA-10攻撃機が高速で突っ込んできた。
「Fire!!」
翼下から発射された、AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイル8発がリヴァイアサンへ命中。
大きく仰け反らせ、海へ倒れ込ませた。
「FOX3!!」
さらにおまけとばかりに、7砲身・アヴェンジャー30ミリ機関砲をオーバーヒート直前まで斉射。
劣化ウラン弾の嵐が、ミサイルで開いた傷をさらに抉り取る。
信仰心にまみれた通信が響いた。
「アヴェンジャーを讃えよ!!」
攻撃を終えたA-10が、上空を大きく横切った。
「畳みかけるぞ!!」
追い込む形で、護衛艦隊が水上へ速射砲を次々に叩き込む。
水面に露出しながら浮くリヴァイアサンを、砲弾が容赦なく襲った。
血が飛び散り、肉片が弾ける。
「後5分……! まだかっ」
立て続けに上がる水柱を見ながら、砲術長が呟く。
主砲残弾は、もう半分を切っていた。
だが、ここで見張りからの報告が入る。
「敵アノマリー、再生速度が増加! 起き上がります!」
護衛艦隊の中央で、リヴァイアサンがゆっくりと起き上がった。
見れば、さっきまでと見た目が明らかに変わっている。
青色だった鱗が、墨で塗ったような真っ黒に染め上がっていた。
間違いなく、“爆発”に対して進化を遂げた姿だ。
しかし、これで良い。
自衛隊の最後の狙いは、ここにあるのだ。
「予定通り作戦をフェーズ4に移行する! 後方へ通信、ありったけの爆発兵器を奴にぶつけろ!」
リヴァイアサンから100キロ離れた千葉県沖に、5隻の軍艦が展開していた。
「『ひゅうが』より通信です」
「うむ、ワイバーンの時とはやはりまるで違うな……。総員、対水上戦闘! トマホーク––––攻撃始めッ!!」
海上自衛隊 イージス護衛艦『まや』と『きりしま』が、後部VLSハッチを開く。
この2隻は、今年に改修が済んだばかりの艦だった。
「バーズアウェイッ!!」
猛炎を上げて、最近日本が購入した巡航ミサイル。
通称『トマホーク・ブロックⅤ』が発射された。
「戦術データリンク16に接続、米軍も攻撃を開始!」
同様に、海自と艦隊を組んでいた米海軍第7艦隊所属のイージス艦。
巡洋艦『ロバート・スモールズ』、駆逐艦『ラファエル・ペラルタ』、並びに『ミリアス』がトマホークを発射。
計25発が、亜音速でリヴァイアサンへ向けて飛翔していく。
ミサイルにとって、100キロなどあっという間の距離。
水平線ギリギリで突入してきたトマホークは、上空のP-1哨戒機によって誘導。
迎撃は飛んで来ず、全弾がリヴァイアサンに直撃した。
「トマホーク、全弾命中!!」
対艦巡航ミサイルの直撃を、耐えられる存在など普通いない。
だが、黒煙の中からはさらに進化・適応したアノマリーが出てきた。
姿はより仰々しくなっており、恐怖心すら覚える。
なるほど……、ダンジョン勢力が逃げ出す訳だ。
こんな異次元の化け物、とてもではないが魔法じゃ倒せない。
トマホークの攻撃に耐えたということは、もう爆発に対して完全に適応したのだろう。
「主砲再照準、攻撃を続行せよ!」
『あさひ』、『むらさめ』、『おおなみ』が距離を保ちながら主砲を発射。
予想通り、もう榴弾ではノックバックすら起こさない。
既に予定時間を6分もオーバーしており、さすがに全員が汗をかき始めた時。
––––その艦は現れた。
––––バチッ––––!
走る電磁気の音……。
水平線ギリギリから、トマホークなど比べ物にならない––––極超音速を遥かに超えるスピードで飛んできた砲弾があった。
僅か1発に過ぎないそれは、リヴァイアサンの首元をアッサリ“貫通”した。
通信が鳴る。
「こちら、試験艦『あすか』。これより作戦に参加する」
戦場に姿を見せたそれは、本来戦闘用の艦船ではない。
だが敢えて言うなら––––
「本艦の主砲は……“通常にあらず”!」
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