「あっっっぶなかった…………まさかラスイチとは思わなかった……」
壮絶な争奪戦であった、最後は俺の全力を持って相手の指からパッケージを引き剥がして無事勝利した訳だが。
自宅に帰宅、部屋に入ってベッドに放り投げた「シャングリラ・フロンティア」のパッケージを眺めながら俺はそう呟いた。
シャングリラ・フロンティア。
去年の春頃に発売され、今年の初め……大体正月だったかに最も多くの人が同時接続したとか何とかで世界記録に認定された文句無しの神ゲーだ。
帰りがけにチラッと見た設定だと宇宙を旅する移民船団がたまたま見つけた星に降り立って、新人類たるプレイヤーを残し滅亡してから数千年……そんな文明レベルを中世あたりにまで叩き落としつつSF要素を無理なく持ち込めるファンタジー世界観の中で自由に生きることができるとの事。
評価もアンチが逆にアポカリプス・ワールドと比較して良いところを必死こいて探すという訳のわからない状態のアプクソと違ってほんの少しいるアンチが数十〜数百倍のファンに轢き潰されてミンチになるレベルの高評価ときた。
「…………ふむ、音ゲーのパッケージの中に
音ゲーの中の最高峰たるアポカリプス・ワールドを筆頭に360度全方位からやってくるノーツを撃ち落とす「ノーツ・ブレイク」
有名なボーカロイド曲を多数収録、絶大な人気を誇ったレトロなディスプレイ音ゲー「クリエイト・オブ・ワールド:プロジェクトM」
光の音ゲーが数多く存在する中その反対側にはアプクソを筆頭に何をとち狂ったか大体2日に一回のペースで命を賭けた音ゲーをさせられる(なお敗北した場合問答無用でデータが消えることとなる)クソゲー「オールイン・ライフ」
モンスターをノーツに
クソも凡も良も神も……まだまだあるわ音ゲーの数々……あぁ、こりゃまずい。本題を忘れるところだった。
大掃除の時しまってた懐かしいものを見つけてそれを見続けるとか、そういう訳ではないが音ゲーに心を引き寄せられそうになっていた。
「取り敢えずシャンフロのパッケージの置き場所は今度考えよ……」
ぽいっとそこら辺に空のパッケージを放り投げヘッドギアを装着し、ベッドにダイブする。よし、リンク用意完了だ。
「多分不備はないだろ……多分」
頭の中でVRゲーマーとして大切な心構えを思い出す……トイレは大小両方済ませ、ガチでやる時以外は横たわってのプレイ、起きてから即水分補給をできるように飲み物を用意しておく事……よし、問題なさそうだ。
実際数少ないフレンド達に誘われでもしない限りは基本的に音ゲーばかりしている音ゲー中毒者の俺は最早何年振りかも全くわからないが自発的に音ゲー以外をプレイすることに少しワクワクしながらゲームを始めるのだった。
◇◇◇◇
「うわ、えげつねぇ……音ゲーだとキャラメイクもクソもなかったからあれだったけどここまで自由度高いのか」
MMORPGなら当たり前なのだろうが、とんでもないキャラメイクの自由度に正直驚かされた。
人種に体格、背丈にアクセサリー、ボディペイント……は?角ォ?なるほどなぁ、これなら見た目が被ることなんてよっぽどの事がない限り稀だろうな。
「ふむ、どーせやるならガッツリキャラメイクしてみたいところではあるな」
あまりこういうのに慣れていないし、そもそも音ゲーは殆どキャラメイクのシステムがない故に新鮮味を感じる。
「……まぁ、身長はこのままでいいか。髪色……もこのまま……あぁもうめんどくさい!全部リアル準拠で良いだろ!!」
なんかもう全部めんどくさくなってきた、後で顔を隠すアクセサリーか何かを考えよう。さっきまでのガッツリキャラメイクの発言はどうしたんだと他人に聞かれたら俺は即座にそんなこと言ったっけ?と言い切れる、爆速で記憶処理しておこう。
「…………お?出身と職業?そんなところまで設定されてるのかこのゲーム、ってこれ上から下まで行くのに5秒近くかかってないか?どんだけ多いんだよ」
しかもよく見てみりゃ騎士(◯◯使い)だとか傭兵(◯◯使い)だとか一つ一つ独立した形で存在してやがる……ここまでくると一周回って面倒だなオイ、全員一律で木の棒持たせてやれば良いものを。まぁこういう細かすぎる気配りも神ゲーたる所以なのかもしれないな、となればどうするべきか……お?
「戦士(二刀流使い)……なんか良いな、これ」
思い起こされるは俺の師匠。あの立ち居振る舞いはどこまでも強く俺の脳裏に焼き付いている、あの背中を俺とキョウは追いかけ続けたんだ。
これしかないな、躊躇う事なく戦士(二刀流使い)を選択し、出身選択に移る。
「はーー、こっちもすげえのな。罪の自責、井の中の蛙、楽天家、一見の実力者……どれもこれもぱっと見上昇補正と下降補正がセットになってる感じなのか……おぉこれ面白そうだな、獣の子」
どうも自然フィールドでの挙動に補正がかかるらしい、中々面白そうな出身じゃないか。音ゲー中毒でアクションゲームをろくにやらない俺としては中々悪くない出身じゃなかろうか。
「よし、キャラメイクは終わった訳だが……おっ?このゲーム装備売るなんて出来るのか。……強い武器欲しいし、売ってみるのも悪くないか?」
全部売り払っても良いが取り敢えず頭装備と胴装備を売却……あっこれやばいわ、素顔晒してる上に上裸?下手こいて知り合いに見られたら翌日から不審者扱いされる!いやこれどうしよう、ここから挽回するにはやはりキャンセルするしか…………あれ、このアクセサリー顔隠せんじゃん。
「ウカの孤面……へぇ、何パターンかあるんだなこれ。じゃあまぁ、顔全体が隠れるタイプにして……」
完成したのは187センチの少し割れた腹筋を露出させた狐のお面を被った俺……うーん、ギリギリ変態ではないかな?うん、多分変態じゃない!!
「そもそもシステム上できるんだからこれ以上の変態もいるだろ……!きっと……!」
殆ど同時刻、半裸に鳥頭の変態がシャンフロ世界に降り立ったことを知ったのはもう少し後の事だった。
◇◇◇◇
「まぁ、やったことはもう受け入れよう!どうせすぐ慣れるさ!!」
羞恥と葛藤は捨てろ、全ては俺の武器のため!キャラメイクの最後はプレイヤーネームだ、さっさと終わらせてしまおう。
「ビャッコ、っと…………」
「
「さぁって!!アクションゲームの神ゲーがどんなもんなのか!俺に見せてもらおうかァ!?」
最終決定を力強く押す。