シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜


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作:トレセン暮らしのデュエリスト
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音ゲーマニア、神ゲーに挑まんとす


音ゲーをトロコンしてから暫くの間は大体何でも許せる気分になる。

アプクソをトロコンした今の俺にとっては「夏休み中も節度を保って過ごすように」の一言で済む内容を数十倍の水で希釈した上でベラベラと語り続ける担任のありがたい()お言葉を笑って受け流せるくらいには寛容だ。少なくとも数秒前の発言と矛盾していない時点でアプカスよりよっぽどまともだ、長いだけでいちいち自分の主義主張を変えることもない。そもそも世界の崩壊を防ぐとか抜かして押しちゃいけないと言ったボタンを連打したり「私が彼を救う」とか言い出して単身突撃し、取り込まれるアプカスに比べればよっぽどマシだろう。なんなら最終楽曲を()()クリアしただけなら「もうちょっとで救えたのに!」と謎の罵倒と超理論を叩きつけられたあの時を思い出してしまえばおそらくもう少しキツめのお言葉を頂いてもノーダメージだ。

 

「…………はい。というわけで、私の目が黒いうちはあまりに不謹慎な事をすると三者面談ですからね。覚悟していてください」

 

おっ、終わったかな?

 

「では私からは以上です、では続いて…………」

 

訂正、やっぱちょっとキレそう。

 

◇◇◇◇

長い長いありがたい()お言葉を頂戴し、やっと「解散」の言葉を告げられたクラスの中でも陽のオーラを纏った幾十人かに活気が戻ってくる。

 

夏休みは関東の方に行く。

今年の夏はこれが流行る。

彼氏と、彼女と旅行に行く。

今年こそ彼女を作る。

 

リアルが充実しきった人間の話題が聞こえるのとほぼ同時に逆の…………そう、陰のオーラを纏った人種の話題も聞こえてくる。

 

(今年の夏は、どうしたもんかなぁ……)

 

去年は確か音ゲーを2本ほどトロコンして、幼馴染の大会を観戦しに行ったはずだ。前者に目を背ければそこそこ真っ当な夏休みではなかろうか。とはいえ今俺はアプクソという音ゲーの中でも屈指のクソゲーを討伐してしまった。今の俺は普通の音ゲーでは満足できない、そういう確信がある。

…………うっ、思い出すな俺。最低難易度ですらAPするのに3時間かかった苦行はもう終わったんだ。バグに規則性があるかと思いきや別に全然そんなことは無かったあの苦行にケリは確かについたんだ。

 

(…………ま、ゆっくり考えますかね)

 

最悪来年は受験なんだし、勉強漬けの毎日を送る羽目になるなぁ、俺はそう思いながら荷物を纏めて下校することにした。

 

「………………」

 

そんな俺をじっと見つめる視線に気づくことは無かった。……冷静に考えて欲しい、もう校門を潜ろうとしたタイミングで校舎の3階からの視線に気づけると思うか??

 

 

 

 

 

 

音ゲーとは、何か。数多の音ゲーを……レトロなディスプレイ音ゲーからVRゲームの中でもクソも凡も良も……神もプレイしてきた俺から言わせれば音ゲーというのは「忍耐」である。

プレイスキルでどうにもならない、そんなことは無い。ひたすらに同じ曲に挑戦し続け、技量を磨き、ゲームシステムに対して理解を深める……そういう忍耐力が試されるゲームジャンルだと俺は思う。

まぁ世の中にはクソゲーというものが存在している時点で忍耐力+理不尽という地獄が待ち受けている可能性もあるわけだが。音ゲーにクソゲーなんて滅多に存在しないんだが世の中にはアプカスとかいうバグによる難易度が跳ね上がった王水なんて目じゃない激毒も存在するんだ、油断は禁物というやつだろう。

 

その点、このゲームはアプカスとは対極と呼べるだろう。…………まぁそもそもが音ゲーですら無いが。

 

「…………シャンフロ、ねぇ…………」

 

「へぇ、こーくんがシャンフロ?年がら年中音ゲーしてるって言うのに……明日は特大の槍が降ってくるのかな?」

 

…………いつの間に隣にいやがるこの幼馴染は。

スマホでゲームの概要を確認する手を止めてジト目で見下ろせばそこには竹刀袋を肩にかけた幼馴染が居た。うーん、こいついつの間にいやがったんだマジで、足音すら聞こえんかったんだが?

 

「まぁな、この前からやってた音ゲーにケリをつけたは良いんだが流石に次が何にも思いつかなくてな。偶にはいいんじゃねぇかなと思ったんだよ、夏休みくらい神ゲーをプレイするのも悪く無いんじゃ無いかって」

 

「別に音ゲーなんだからクソゲーばっかって訳じゃないでしょ?なら別に音ゲーでも良いじゃないか」

 

「やってた音ゲーがクソだし難易度高いしでやり切った後の燃え尽き症候群が思ったより重篤なんだよ、暫く音ゲーは良いやって思えるレベル」

 

「一体どんな地獄なのさ……」

 

「一番簡単な難易度の曲がバグによってそこら辺の音ゲーの最難関曲よりひどい難易度になってる」

 

「何となくわかったよ、何というか……大変だったんだね」

 

「わかってくれるか……そういやキョウは今年の夏はどうなんだ?」

 

「僕かい?まぁ剣道の大会が最後の方に二、三あるくらいかな。応援来るんでしょ?」

 

「当たり前だろ」

 

我らが親友、龍宮院京極は今や「京より西から東まで敵なし」を名乗る程剣道で成績を残している、その幼馴染の大会くらい見るのは当然だろう。

まぁ俺、白石 虎堂(しらいし こどう)も半分引退状態とは言え龍宮院流を修めているしなんならキョウの弟弟子だ、姉弟子の試合観戦はしておきたい。

 

「ま、取り敢えずシャンフロ買えるかわからんけどゲームショップ寄るわ。それじゃ、またなキョウ!」

 

「…………え?あ、うん!また!」

 

なんか一瞬ラグがあったような気がしなくもないけどまぁ多分大丈夫だろう。というよりかさっさとゲームショップに行こう、シャンフロは人気タイトルだ。売り切れなんて笑えない。

 

駆け出して行く俺には聞こえなかった。

 

「来てくれるんだ……うん、頑張ろっと」

 

という一言が。

 




ほうれん草ちゃん、エントリー。

ちなみに虎堂君はクソほど鈍感です。ありえないほどに鈍感です。頑張れほうれん草ちゃん。
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