「はーーーー…………今年もそろそろ終わっちゃうね、こーくん」
「ん…………そうだなぁ、今年も割とあっという間だった感じもするけどな」
年末、本日大晦日。あと数十分もすれば年越しで新たな一年がやってくる、そんな中で俺とキョウはこたつに入りながら年末恒例の歌番組を眺めながら過ごすという、なんとも大晦日らしい時間を過ごしていた。
「いやぁ、今年もなんだかんだ言いつつ良い年だったね。無事高校も合格できたしさ」
「だな、正直キョウはそこそこ危なかったしな。二人揃って同じ高校に合格できて良かったよ」
「………………すーぐそういうことを言う……」
ん?なんか言ったか?まぁいいか。
にしても改めて今年を振り返ってみると随分と濃いような気もする。我が愛する音ゲーもトロコンしまくったし、その繋がりで新たな交流も生まれた。その新たな交流の結果リスキル地獄に叩き込まれたり略奪が当たり前の世紀末や幕末に飛び込んだりもしたがまぁそこは今度思い返すとしよう。
「………………ん、除夜の鐘だ」
「おっ、そろそろゆく年くる年か」
鐘の音が鳴り響く、そろそろ本当に年が明けるのかと思うと何だか明けてほしくないという思いと新たな一年に対して心が弾むような思いがごちゃ混ぜになる。
歌番組の方でもカウントダウンが始まり俺とキョウ、どちらともなくカウントダウンを呟く。
「…………5」
「………4」
「……3」
「…2」
「1」
「「0。…………あけまして、おめでとうございます」」
今、年が明ける。
◇◇◇◇
「いやーーー今年もよろしくお願いしますってね。あ、ちょっとメール返すね」
「ご勝手にど――ぞ」
大方友達からの新年の挨拶に返事でも返しているんだろう、少し嬉しそうにしながらスマホを弄り始めるキョウの淀みのないタイピングは剣道に割と全ステータス振り抜いたようなキョウをして「ああこいつもちゃんと女子高校生してるんだな」と何だか微笑ましい気持ちになる。
「…………っと、俺の方も通知来てんのか」
見れば今年から交流が始まった外道共や学校の友達からそこそこの量のメッセージが届いている。…………うーん、外道共は今度でいいか。取り敢えず学校の友達の方はある程度返しておこう。
「………………」
「どうしたキョウ、そんなに俺のスマホ見て」
「…………今開いてるトークルーム、もしかして女の子とのやつ?」
「何でまた急に。まぁそうだけど」
普通にクラスだと俺は陰キャというわけでは無いが陽キャとも呼べない、なので広く浅く人と接しているわけなんだが……その関係で喋る様になった女の子とのトークルームを凝視しているキョウ…………いやどうしたの?なんか怖いよ?目がキマリすぎてるよ?
「…………まぁ良いか。ちゃんと
「どういうことだオイ」
「何にもないよ」
絶対何にもないわけがないんだよなぁ……まぁ放置しておけば良いか、キョウが何するかは知らんがそこまでラインを超えるような事は多分しないだろうし。
さて、一通りメッセージへの返信が終わり、お互いのタイピング音が消え静寂に包まれる室内になった訳だが。
「………………(黙ってみかんに手を伸ばす)」
「あ、こーくん僕も欲しい。剥いて剥いてー」
「俺が手を伸ばすたびにおのれ……」
仕方ないのでみかんを剥いて渡す。キョウのやつ筋が嫌だとか抜かすから全部剥かないといけないから割と面倒なんだよなぁ……。
「「……………………(みかんを食べる音)」」
みかんを食べる。みかんに手が伸びる、剥いてキョウに渡し自分の分を剥いてまた食べる。何だこの永久機関は。
そんな事をしばらく繰り返す……だがこの永久機関もそろそろ終わりを迎えるらしい。
「………………おい、キョウ。起きろ」
「………………やだぁ…………」
まぁ、こうなるわな。大晦日まで普通にこいつ剣道の練習しに行ってたはずだ、しかも普通に剣道場自体は休みだったはず……つまりこいつ一人で竹刀振ってたんだろうな。
それにあんまり夜更かしをする様なタイプじゃない、いやまぁゲームしてたらその限りじゃないんだろうがそれでもこいつはあんまり夜に強い訳ではない、割と健全な生活を送っているはずだ。
要はまぁ、練習疲れと夜更かしと炬燵という最強の睡眠誘導のトリプルパンチをモロに食らったってことだ。
「………………こうなると梃子でも動かないしなぁ…………」
どうする?このまま炬燵で寝させる訳にもいかない、風邪を引かせたなんて事があれば俺は龍宮院家の兄弟子達に斬り殺される羽目になる。
取れる選択肢としては主に3つほどだろうか。
・何としてでも叩き起こす
・このまま放置する
・俺のベッドに寝かせて俺自身は……まぁ、そこら辺の寝れそうな所で寝る
1番は……うん、叩き起こしてから寝ぼけ眼のキョウが家に無事帰り着けるかどうか分からない、却下。
2番、選択肢として浮かんだから上げてみたけど年始早々真剣持った兄弟子2人とこいつの親父さんに追いかけ回されたくないので却下、というか俺自身こんな風邪引く様な事させたままというのは嫌だ。
となれば…………
「…………いやまぁ、これくらいが1番無難か」
今この瞬間ほど父上殿と母上殿が出かけていることに感謝したことはない……今確か2人は府外だ、何でも初日の出を観るのに1番良い穴場を知ってるとか何とかで。
この瞬間を見られたら年始早々揶揄われるに決まってる。
キョウを炬燵から引き摺り出し、背中と膝裏に手を回す。持ち上げてみれば「こいつ本当にバリバリ剣道やってるのか」と疑問に思うほど軽い。
正直この状態のキョウはぶん殴るくらいじゃないと目を覚まさないので割と遠慮なく動き回りながら俺の部屋に運ぶ。横抱きにしていたから死ぬほどドアが開けづらかった……俵担ぎのスタイルにすれば良かったな。
「はい、到着と」
華奢に見えて鍛えられた無駄な肉など存在しない体がベッドに沈み込む、慣れないベッドで寝違えるだとかそう言うのに関しては目を瞑って欲しい。
起きる気配など微塵もなく一定の寝息のみが聞こえてくる……そこそこ雑な運び方したんだけどな。
(…………いやぁ、気まずい)
ただの幼馴染、だと言うのに何故か心臓が跳ねる。俺のベッドに寝るのも、柔らかな体も、無防備で普段のクールでどちらかと言えばカッコいい印象が強い筈の顔つきがあどけない寝顔になっているのも。まぁ少なくとも向こうも俺のことはただの幼馴染、と言う認識だからこそ本当に無警戒なんだろうが。
「ほんっと、可愛いやつだよお前は……」
親愛を込めた目をキョウに注ぐ、顔にかかっていた髪の毛を耳元にずらす。
…………髪質が良すぎてビビったわ。
「…………お休み、良い初夢を見られると良いな」
部屋を出る。さて、どこで寝ようかな。安牌はソファなんだろうけどいかんせん俺の
◇◇◇◇
心臓の音が爆音を鳴らす。体に熱がどんどん溜まって、僕の顔が真っ赤になっていくのを自覚する。
(何だよあのイケメンっぷりは…………!!こんなのす、すきにならない方が無理じゃないか…………!!)
持ち上げられた時点で少し目が覚めていた、まぁそれでも半分寝ぼけていたけど!少なくとも髪を触られた時点で完全に覚醒した、おやすみの時点で目を開けなかった僕をお祖父様は褒めて欲しい、いや何を褒めろとは言わないけど。
正直明日こーくんの顔を直視できる気がしない、確か家族ぐるみで初詣だっけ…………?
「あぁぁぁあぁああああ…………!(小声)」
明日僕は生きてられるだろうかと盛大に不安になった。