- 個々の患者において、最適なサイズのダブルルーメンチューブを選択するのは極めて難しい。
Slinger はエディトリアルの中で "I know of no other topic in thoracic anesthesia
in which there is so little consensus as to how best select the size of
DLT" と述べているが、まさに「最もコンセンサスが得られていないトピック」ということになるだろう。 (Slinger P. A view
of and through double-lumen tubes. J Cardiothorac Vasc Anesth 2003; 17:
287-8)
- 臨床の現場で適切なサイズのダブルルーメンチューブを選択する際の方針としては、次の概ね3つに分類できると思う。
① 身長、体重、性別などのデータから、適切なサイズを推測する
② CT や MRI などから気管径や気管支径を測定し、適切なサイズのチューブを選ぶ
③ チューブを選ばない (あらゆる患者に受け入れられそうな無難なサイズを選ぶ)
- ・性別と身長から適切なサイズのダブルルーメンチューブを選択する場合の目安は次の表の通り。(Slinger P, Kanellakos G. Lung
isolation in anesthesia. IARS 2007 Refresher Course Lecture 90-6)
- ・ただし日本人には大きすぎるように感じるので、特に男性では1サイズずつ小さめを選んだ方がいいかもしれない。
身長 |
男性 |
女性 |
< 150 cm |
|
(32 Fr) |
150 ~ 160 cm |
37 Fr |
35 Fr |
160 ~ 170 cm |
39 Fr |
37 Fr |
≧ 170 cm |
41 Fr |
|
- ・気管径と気管支径とから、適切なサイズのダブルルーメンチューブを選ぶという方法もある。 (Brodsky JB, Malott K, Angst
M, Fitzmaurice BG. The relationship between tracheal width and left bronchial
width: implications for left-sided double-lumen tubes. J Cardiothorac Vasc
Anesth 2001; 15: 216-7)
気管径 (mm) |
気管支径 (mm) |
サイズ |
> 18 |
> 12 |
41 Fr |
> 16 |
12 |
39 Fr |
> 15 |
11 |
37 Fr |
> 14 |
10 |
35 Fr |
> 12 |
< 10 |
32 Fr |
- 適切なサイズのダブルルーメンチューブを正しく選ぶのはきわめて困難である。その理由として、左主気管支径が性別や身長に関わらず全くバラバラだということが挙げられる。
- また Russell らによると、同じ業者で同じ製品・サイズのダブルルーメンチューブであっても、 1 mm 以上の径のばらつきがあり、場合によっては小さいサイズの方が大きいサイズよりも径が大きい場合があることが示されている。
(Russell WJ, Strong TS. Dimensions of double-lumen tracheobronchial tubes. Anaesth
Intensive Care 2003; 31: 50-3)
- 最も適切そうなサイズのダブルルーメンチューブを選ぶという作業を最初から放棄して、あらゆる症例で 35 Fr のチューブを使うという方法もある。その場合、2%の症例でさらにチューブのサイズを下げざるを得なかったが、通常のやり方にくらべて格別劣っているというわけではない。
(Amar D, Desiderio DP, Heerdt PM, Kolker AC, Zhang H, Thaler HT. Practice
patterns in choice of left double-lumen tube size for thoracic surgery. Anesth
Analg 2008; 106: 379-83)
[1] Hannallah MS, Benumof JL, Ruttimann UE. The relationship between left
mainstem bronchial diameter and patient size. J Cardiothorac Vasc Anesth
1995; 9: 119-21. (PMID: 7780065)
・適切なダブルルーメンチューブのサイズを選択するために、100 人の成人患者の胸部レントゲン写真から左主気管支径を測定し、年令、性別、身長、体重などから重回帰分析を試みた。
・男性:左主気管支径 (mm) = 0.032 x 年令(才)+ 0.072 x 身長 (cm) - 2.043
・女性患者では、どの指標も気管支径に相関しなかった。
・著者らの考える適切な左用ダブルルーメンチューブとは、左主気管支にフィットする最大のチューブで、カフを虚脱させた時にわずかにエアリークが生じるようなもの。
・気管支径が分かれば、それよりも 1~2 mm 外径が小さいものが選択される。
[2] Brodsky JB, Macario A, Mark JB. Tracheal diameter predicts double-lumen
tube size: a method for selecting left double-lumen tubes. Anesth Analg
1996; 82: 861-4. (PMID: 8615510)
・開胸手術を受ける 70 人の患者が対象。
・胸部正面レントゲン写真を使って、鎖骨レベルにおける気管の太さを測定し、18 mm 以上で 41 Fr、16 mm 以上で 39 Fr、15
mm 以上で 37 Fr、15 mm 以下で 35 Fr のブロンコキャスを選択した。
・チューブを声門を通過させるのがやや困難だったのが 14%、気管支内にチューブを進めるのに軽度の抵抗があったのが 27% いた。
・全てのチューブでうまくいったので、著者らは気管径を目安にする方法が有用だと結論している。
[3] Kim D, Son JS, Ko S, Jeong W, Lim H. Measurements of the length and
diameter of main bronchi on three-dimensional images in Asian adult patients
in comparison with the height of patients. J Cardiothorac Vasc Anesth 2014;
28: 902-7. (PMID: 24103712)
・200 人のアジア人成人を対象に、胸部スパイラル CT を撮像を行なった。
・左主気管支の長さ(男 47.8 mm、女 43.5 mm)は右主気管支(男 12.9 mm、女 11.7 mm)の 3~4 倍長かった。
・女性の主気管支の断面は前後径がより長い卵形だが、男性では円形だった。
・主気管支の長さや径は、患者の身長とは相関がなかった。
・結論として、身長はダブルルーメンチューブのサイズを選ぶ上での基準にはならない。
[4] Seefelder C. Use of the 26- French double-lumen tube for lung isolation
in children. J Cardiothorac Vasc Anesth 2014; 28: e19-21. (PMID: 24594109)
・7才 3ヶ月から 15 才の 15 人の小児患者に対する 18 回の 26 Fr DLT の使用経験。
・過去の総説 (Hammer GB, et al. Anesth Analg 1999; 89: 1426-9) から、26 Fr の DLT
は 8~10 才またはそれ以上の児に推奨される。
・26 Fr DLT の外径は 8.3 mm と推測されるが、実際には円形とは限らず楕円形に近い。
・著者の経験から、26 Fr DLT は年令 8 才、体重 30 kg、身長 130 cm と小さい場合にも考慮されるかもしれないが、これらのうち少なくとも
2 つの基準は満たされるべきであるとしている。
[5] Lee JW, Son JS, Choi JW, Han YJ, Lee JR. The comparison of the lengths
and diameters of main bronchi measured from two-dimensional and three-dimensional
images in the same patients. Korean J Anesthesiol 2014; 66: 189-94. (PMID:
24729839)
【背景】 気管支が横断面に対して斜めに走行しているので、2D の画像だと断面が細長い形状になってしまう。一方、3D だと気管支の角度で補正することができる。
・160 人の成人を対象に、気管・気管支の 3D および 2D CT 画像で得たデータを比較した研究。
・左右の主気管支の長さおよび左主気管支の前後径に関しては、3D と 2D の間に中等度の相関が見られた。
・右の主気管支や横径については、相関の程度はさらに低かった。
・左主気管支の前後径をもとにダブルルーメンチューブのサイズを選択したところ、3D と 2D の間で合致したのは男性で 69%、女性で 34%
に過ぎなかった。
[6] Hannallah M, Johnson W, Krishnan P. Revisiting the question of the
appropriate left double-lumen endobronchial tube size for an individual
patient. J Cardiothorac Vasc Anesth 2014; 28: e53-4. (PMID: 25277639)
・かつて適切なサイズのダブルルーメンチューブを選択するために左主気管支径の測定を行なうことが推奨された時期があったが、著者らは自分の施設でも国際的なディスカッションでも、今は測定はほとんど行なわれていないと感じている。
・そこで著者らの施設の開胸手術を受けた 27 人の患者を対象に、選択されたチューブ径と左主気管支径の関係を後方視的に調べてみたところ、10 人の患者において両者のサイズが同じ、もしくはチューブ径の方が大きかった。
・この結果をもとに、著者らは臨床的な経験のみをもとにダブルルーメンチューブのサイズを選択することのリスクを論じている。
[7] Ideris SS, Che Hassan MR, Abdul Rahman MR, Ooi JS. Selection of an
appropriate left-sided double-lumen tube size for one-lung ventilation
among Asians. Ann Card Anaesth 2017; 20: 28-32. (PMID: 28074791)
・左用 DLT を挿管された 179 人を対象とした後方視的研究。
・半数近くの男性患者では 39Fr を、女性患者では 35Fr を使用した。
・選択された DLT サイズが気管径や主気管支径とは有意な相関があったが、身長や体重とは相関がなかったことから、著者らはアジア人の場合は適切なサイズの
DLT をこれらの指標から予測できないと結論している。
・DLT の深さについては、両性において身長と相関している。
[8] Sato M, Kayashima K. Difficulty in inserting left double-lumen endobronchial
tubes at the cricoid level in small-statured women: a retrospective study. Indian
J Anaesth 2017; 61: 393-7. (PMID: 28584348)
・開胸手術を受ける成人女性を対象に調査したところ、32 Fr ダブルルーメンチューブを使用した 155 人のうち 6 人、35 Fr を使用した
125 人のうち 6 人でチューブのサイズを下げざるをえなかった。
・これらの 12 人のうち 7 人で、輪状軟骨の横径がダブルルーメンチューブの気管径よりも小さかった。
・結論として、左主気管支径だけでなく、CT やエコーで得られた輪状軟骨の横径は左用ダブルルーメンチューブのサイズ選択に役に立つかもしれない。
[9] Seo H, Bae J, Paik H, Koo CH, Bahk JH. Computed tomographic window
setting for bronchial measurement to guide double-lumen tube size. J Cardiothorac
Vasc Anesth 2018; 32: 863-8. (PMID: 29153933)
・CT 上で気管支径は bronchial CT window を用いると最も正確に測定できることが知られているが、この研究では bronchial
window (1000 ~ -450 HU) を用いることで lung window (1500 ~ -700 HU) や mediastinal
window (400 ~ 25 HU) よりも適切な DLT サイズを選択できることを示した。
・130 人を対象にした後ろ向き調査では、bronchial window で得られた気管支径は lung window よりは大きく、mediastinal
window よりは小さかった。
・221 人を前向きにランダムに bronchial window 群と mediastinal window 群に分けた研究では、mediastinal
window 群で左主気管支径が大きく、過大なサイズのチューブが選ばれることが明らかとなった。
[10] Shinqing L, Wenxu Q, Jin Z, Youjing D. The combination of diameters
of cricoid ring and left main bronchus for selecting the "best fit"
doube-lumen tube. J Cardiothorac Vasc Anesth 2018; 32: 869-76. (PMID: 29361456)
・肺手術のために全麻を受けた男性 87 人、女性 94 人を対象に、CT 上で輪状軟骨径と左主気管支径を測定し、最もよくフィットする DLT
サイズ(輪状軟骨横径と卵形と仮定した左主気管支径の両方より小さい最大の DLT)を求めた。
・著者らの結論としては、①輪状軟骨径と左主気管支径は、身長から正確に求めることはできない、②輪状軟骨径と左主気管支径の間の相関は乏しい、③最もよくフィットする
DLT 径は輪状軟骨径と左主気管支径の組み合わせから決定すべきである。
[11] Roldi E, Inghileri P, Dransart-Raye O, et al. Use of tracheal ultrasound
combined with clinical parameters to select left double-lumen tube size:
A prospective observational study. Eur J Anaesthesiol 2019; 36: 215-220.
(PMID: 30540641)
・エコーで気管径を測定することにより、適正なサイズの左用 DLT を選択する助けとできることを示した研究。
・この研究では、気管支カフに入れた空気のボリュームが 0.5~2.5 ml の範囲である時に、左用 DLT のサイズが適正であるとした。
・図4にチューブのサイズの選び方が示されているが、身長は 15 cm きざみ、気管径は 1 cm きざみとし、女性は 32, 35, 37 Fr
から、男性は 37, 39, 41 Fr から選ぶようにした。
[12] Zhang C, Qin X, Zhou W, et al. Prediction of left double-lumen tube
size by measurement of cricoid cartilage transverse diameter by ultrasound
and CT multi-planar reconstruction. Front Med (Lausanne) 2021; 8: 657612.
(PMID: 34222278)
・左用ダブルルーメンチューブの至適なサイズを、超音波法や CT 多断面再構成像を用いて輪状軟骨横径から求めることを試みた研究。
・輪状軟骨横径が概ね 15.8 mm 以下の場合は 32 Fr が至適であると、結果の中で示されている。
(最終更新 2021 年 9 月 8 日)