<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~


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作:折本装置
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獅子と蛇、要約すると変態と変態


 □【闘牛士】サンラク

 

 

 かなりの時間をかけて、クソ鳥五羽を始末(比喩)した後、俺はまた狩場に戻っていた。

 いや、厳密には俺というのはおかしいか。

 俺達(・・)というのが適切だろうな。

 

 

【サンラク、そこから西方向三百メテル。狼系モンスター、【ブレイズウルフ】が四体いるわ】

『了解っとお!』

 

 

 ステラの指示通り、モンスターを目指して走る。

 今の(・・)俺の速度からすれば、三百メートルなどあっという間だ。

 瞬時に距離を詰め、まず勢いのままに赤い狼のうち一体に体当たりして、一匹。

 

 

「「「GAUUUUU!」」」

『くたばれやあ!』

 

 

 続いて、叫んで動きを止めてる間に首筋に切りつけ、もう一度切りつけて二匹。

 そうして、逃げようとした二匹に追いつくと。

 

 

「逃がさん!」

 

 

 一直線に走りながら、二刀を狼にぶち当てて胴体を切り裂く。

 それで終わり。

 全員ポリゴンとドロップアイテムに変わって消えた。

 よし、牙、牙、牙、毛皮、あ、やべ。

 

 

【サンラク!上空に】

『わかってる!』

 

 

 上空に、一羽の怪鳥……名前は【クリムズン・ロックバード】。

 うん、口を大きくあけまして?

 

 

「KIEEEEEEE!」

 

 

 歌声、というか奇声とともに火炎放射してきた紅い怪鳥。

 さっきまでなら死んでたんだろうな。

 さっき(・・・)まで(・・)なら。

 

 

『空を跳ぶ(・・)なら()にもできる!』

 

 

 《配水の陣》、発動!

 結界を足場にして跳びあがり、地をなめるような軌道の火炎放射をギリギリでかわす。

 ああっ躱せてない!

 余熱でちょっと削れた!

 まあ、死ななければコラテラルダメージだコラテラルダメージ!

 

 

「KIEEEEEE!」

『待てよ焼き鳥!ぶつ切りにしてやる!』

 

 

 《配水の陣》を連続で起動して、足場を形成!

 距離を取ろうとする【クリムズン・ロックバード】にむかって全力で駆け出す。

 今ならば、俺のほうが早い!

 おら、喰らいやがれ投げ【スティールソード】!

 

 

「KIEEEEEEEEE!」

 

 

 【クリムズン・ロックバード】の目に突き刺さり、血が噴き出る。

 あれ?こいつケガしてんな。

 まあいいか!

 こいつは今、俺の獲物だ!

 

 

 ◇

 

 

 「……まさか、亜竜クラスを倒すとは思わなかったわ」

 『まあ、お前のサポート込みだけどな。ありがとさん』

 

 

 いや、ほんとこいつのサポートがマジでありがたい。

 こいつの助け合ってのことなので、回復アイテムを覆面のくちばしを開いて飲みながら礼を言う。

 

 

 俺たち二人は模擬戦の後、レベル上げのために狩場に行った。

 まず回復アイテムなどを買い、ログアウトして帰ってきた玲を迎えた。

 玲さんも含めてレベル上げしようとも思ったのだが、今回はお願いして勘弁してもらった。

 ステラの協力の条件が、「俺以外に自分たちの能力を教えるな」だったというのが、理由だ。

 役割としては、俺が戦闘をし、ステラは索敵と補助を務めている。

 幻術師系統は光と音の細やかな操作が得意であり、それを応用した探知が可能であるらしい。

 で、それを俺が今つけてる【テレパシーカフス】を通じて伝えてもらっていたわけだ。

 ちなみにだこの覆面、はずせる、というかそもそも<エンブリオ>は紋章にしまえるらしい。

 そんなわけで耳に着けるアクセサリーもつけることができる。

 謎の光の霞のせいで、視界が利かないので彼女の存在はとてもありがたかった。

 レベルもだいぶ上がってるしな。

 ……ちなみに、『俺の迷彩もできないか?』と思い訪ねたのだが、回答は「速すぎて追いつけないし、そもそもMP消費がやばいから無理」だった。

 仕方ないね。

 

 

「それでもすごいわ。普通上級職相当のモンスターなのよ、これ」

『そうなんか』

 

 

 まあ、俺の場合は《回遊する蛇神》の戦闘時間比例速度強化のおかげだけどな。

 モンスターとの戦闘を行い、一度戦いが終わるや否や、すぐにステラのナビ通りに別のモンスターのところに走って、また戦闘開始。

 そんなことやってるせいか、あの焼き鳥とやりあうときには、速度がすさまじいことになっていた。

 まあ、あまり調子に乗りすぎると自分で制御できなくなって、地面の血のシミになるわけだが。

 闘技場では何回かそれで死んだからなあ。

 あ、血で思い出した。そういえばあの鳥なんでケガしてっ!

 

 

『ステラ!』

 

 

 とっさに抱えて横に跳んだ。

 直後、俺たちがいたところを、矢が通り過ぎた。

 そして、矢がそのまま近くの木を貫通して、大穴を開けた。

 今の矢の速度は、俺より速かった(・・・・)

 クールダウンして《回遊》がリセットされたとはいえ、只者ではない。

 クソ、誰だ?プレイヤーか?

 光の霞のせいで相手はよく見えない。

 

 

 現れたのは、一人の男。

 金色の長髪と糸目が特徴の、整った穏やかな顔立ちをしていた。

 それでいて、どこか肉食獣の獅子(・・)のような雰囲気を身にまとっていた。

 しかし、むしろそれ以外の部分のほうが特徴的であるだろう。

 左手に装着した、クロスボウが付いた手甲。

 両手にはそれぞれ俺と同じ【スティールソード】が握られている。

 手にはいくつかの指輪がはまっており、モノクルをつけている。

 そして、ボクサーパンツを履いており。

 

 

 --それ以外は、何一つ身に着けていなかった。

 先刻俺を攻撃したのであろうその男に対し、俺が言うべき言葉は一つしかない。

 

 

『「変質者(・・・)」』

 

 

 なぜか、お互いに発した言葉は同じだった。

 解せぬ。

 

 

「……どっちもどっちでしょ。っていうか早く下ろしなさいよ!」

 

 

 お姫様抱っこされたまま、顔を赤らめたステラの叫びがあたりにこだました。

 

 

 ◇

 

 

『つまり、俺をモンスターと間違えた、と?』

「……うん、本当に申し訳ない」

 

 

 俺の目の前で今、体をくの字に折っている男ーーフィガロというらしいの説明によると、こうだ。

 フィガロは狩りをしている最中に、【クリムズン・ロックバード】に遭遇した。

 弓矢を使って手傷は負わせたが、飛行モンスターゆえに逃げられてしまった。

 探していたところ、いかにもモンスターらしい人影が見えたので攻撃した。

 《透視》のモノクルをつけていたが、距離があったためはっきりとは見えなかったようだ。

 

 

 ちなみに、今モンスターはこの辺りには来ない。

 モンスター除けの結界アイテムをステラが使用しているからだ。

 ちなみに、先ほどまでの狩りでも使用していたとのこと。

 というか、普段からモンスター除けアイテム、《気配操作》付きのマント、幻術による視覚、聴覚的な隠蔽で身を守り、罠を仕掛ける、同士討ちさせるなどでレベル上げしているそうだ。

 ……性質(たち)悪くない?

 閑話休題。

 

 

『いや、別にいいよ。それより、武器を三つ装備してたのは何かのスキル?』

「うん。【闘士】のスキルでね、武器スロットを増やせるんだ」

『へえ……』

 

 

 これはいい情報を聞いたな。

 装備枠が限られている俺にとって、装備スロットを増やせるジョブは貴重だ。

 そんなスキルがあるなら【闘牛士】カンストしたら取ってもいいかな。

 

 

 その後も、しばらく三人で話していたが、フィガロはもう戻るつもりらしく、狩りを続けるつもりだった俺達とはそこで別れることになった。

 それにしても、いろいろ有意義な時間だったよ。

 NPCはティアンって呼ぶとか、<アクシデントサークル>とか知らなかったからなあ。

 危ない危ない。

 ステラとか「そんなことも知らないって、あんたほんとに人間?」みたいな目で俺のこと見てたからな。

 そういう「知っていて当たり前」のことはNPCは説明してくれないっぽい。

 人に近いAIっていうのも考えもんだよな。

 

 

 そのあとは、暗くなるまで狩りをして。

 陽が落ち始めたタイミングで、ステラが「夜になると魔法によるサポートが難しいし、危ないからもう帰りたい」と言い出したので、俺もステラを送るために町に戻ることにした。

 二人で門をくぐり、そのあと門の前でログアウトした。

 

 

 

 □■???

 

 

「……誰ですか?」

 

 

 一人の女性がつぶやいた。

 銀色の髪につり目。

 魔法職が着るようなローブを羽織り、体の線が見えにくいようになっている。

 ……それでも、隠しきれてはいなかったが。

 キャラメイクで容姿を自由に変えられる<Infinite Dendrogram>であったが、それでも彼女の見た目は美しい部類に入るだろう。

 付け加えれば、リアルの彼女もそうなのだが。

 だが、容姿に優れているからこそ、違和感と怖気が先に立つ。

 街中で、なにを狙うでもなく長大な狙撃銃を構えている。

 加えて、銃口は地面に向けられている。

 地面に獲物でもいるのか、重すぎて支えられないのか。

 --あるいは、狙撃が目的ではなく、何か別の用途で持っているのか。

 彼女はどこか、蛇を連想させる狙撃銃のスコープをのぞき込み、固まっていた。

 なぜなら、彼女にとって信じられないものを見てしまったから。

 スコープ越しにスキルを使って、サンラクと、その近くにいたステラを見ていたから。

 

 

「……あの女は、誰、ですか?」

 

 

 その呟きを聞く人間も、答える人間もいない。

 なぜなら、彼女が放つ、女性特有の威圧感を百倍に濃縮したような怨念が、人間を遠ざけてしまったから。

 

 

『不明瞭。ティアンか<マスター>かの区別も困難。人間であることは確定』

「そんなことはわかっています」

 

 

 だが、その言葉を聞き、答えるモノ(・・)はいる。

 それに返す女性の声にはいら立ちが混ざっていたが、それを気にした様子もなく。

 

 

『提案。門の手前まで赴き、ログアウト地点をターゲットと同じところに設定するべきと愚考します』

「……そうですね」

 

 

 そうして、彼女はサンラクがいた門のところまで歩いていき、そこでログアウトした。

 彼女の手には、狙撃銃と、魔法カメラ(・・・・・)が握られていた。

 

 

 To be continued




やらかした。
プロットよりフィガロの出番が減ってる……。

武器とアクセサリー、ボクサーパンツのイケメン半裸&鳥の覆面と蛇革のブーツはいた半裸。

どっちが不審者っぽいんだろう。
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