□【闘牛士】サンラク
「ま、悪くはねえな、合格だ」
たった今の闘争を、というか逃走をティックはそうやって締めくくった。
やっぱり負けても合格だったのか、よかった。
まあ八割型そうだろうとは思ってたけどな。
「ステータスはひよっこだが、技巧は悪くねえ。【
ロウファンやらイオリというのが誰かは知らんが、それなりに俺は評価されてるらしい。
後半については、痛覚がOFFってのもあるんだろうけどな。
……俺の場合、ONでもOFFでも変わらないんだが、わざわざ設定を変えるのがめんどくさいんだよなあ。
というか、俺より技術の高いNPCがいるのか、まあいるだろうな。
TASに勝てるとは思わんし。
「<マスター>ってのは強いって昔から知ってたけどよ、レベルも碌にあげてねえのに面白い奴がいるとは思わなかったな」
『それはどうも……あれ?』
「どうしたの?」
なんか紋章が光ってる?
え、なんで?
<エンブリオ>関連なのはわかるけど、どういうこと?
なんでだ、まさか進化か、進化なのか!
<エンブリオ>は孵化した後も時々進化する、とは聞いてたけど。
え、もしかしてマジでこのタイミングで進化するの?
ちょっと待ってまだ心の準……あっ、発光が終わった。
これで進化したってことだろうから、とりあえずステータスを見て確認を。
『あれ?』
何か足に違和感が、ってなんか増えてる。
というか、履いてる。
『靴?』
触ってみると顔はそのまま、足元を見れば靴が生えていた。
ふむ、ステ補正は特に変化なし。
あ、でも《脱装者》のスキルレベルが二になってて、AGIは上がってるな。
んで、ちょっとだけ装備防御力が上がってるな。
他は、あ、なんか新しく増えている。
【水蛇皮靴】
装備攻撃力:10
装備防御力:50
『保有スキル』
《配水の陣》
周囲に結界を展開する。
アクティブスキル。
《回遊する蛇神》
戦闘時間に比例して速度を上げる。
なお、加速により発生する空気抵抗を無視できる。
パッシブスキル。
『防御スキル?』
速度と機動力特化だと思ってたのに、ここで防御スキルってのはよくわからん。
下手に防御スキルなんてあっても使い道がないと思うんだけどな。
二つ目のスキルは、有用だと思えるだけになおさらである。
まあとりあえず使ってみるか。
『というわけで、ステラ、何でもいいから攻撃してみてくれ』
「……ほんとにあんた変態だったの?」
おい、ちょっと待て。
なんで俺が変態みたいに言われなきゃならんのだ。
ただちょっと、普通の服着てなくて、半裸で、鳥の覆面をつけてて、たった今蛇革のブーツを身に着けているだけで、ああすいません変態にしか見えませんね。
『そういうことじゃなくて、強度を試したいんだよ。結界の』
「結界?ふーん、とりあえず出してみなさいよ」
『それもそうだな』
《配水の陣》、展開っと、お。出てきた。
ただ、なんというか……。
「なにこれ。小さくない?」
そう、目の前に現れた結界は小さかった。
バックラーという円形の盾や、あるいは扇風機の丸いところくらいの大きさしかない。
青色の魔法陣みたいな見た目はすごくいいと思うし、ステータスを見る限りMPの消費もほとんどない。
悪くはないけど、これあんまり使い道がないような。
出した後動かせるわけでもないみたいだし。
いやいや問題は強度だ。
『まあいいんだよ。とりあえず、ちょっと叩いてみてくれ』
「……わかったわ」
まあ、割れることはないと思うけどな。
デンドロって魔法職は物理ステータスほぼ伸びないらしいし。
ぽかっ
パリンッ
「「『は?』」」
いやいやそんなはずはない。
何かの間違いだろう。
とりあえず、もう一枚出して……あ、これある程度出す位置決められるんだ。
ぺちっ(デコピンの音)
パリンッ
「「『…………』」」
も、もう一枚出して。
つんっ(指で軽くつく)
パリンッ
はああああああああああああああ!?
◇
『マジでなんなのこれ……』
結局色々調べたが、結界の強度はカスという結論にしかならなかった。
一瞬何かに防がれている感覚はあるものの、普通に壊れてしまう。
STRの上昇はほぼない魔法職のステラでさえ、ワンパンであっさり壊せてしまう。
いやほんとマジでどうしよう。
「ところでよ、サンラク。武器の話をしてもいいか?」
『え、あ、はい』
嫌なことが続いたが、新装備ってなると話が変わる。
さて、どんな武器が手に入るのかな?
「まあ、結論から言うとお前の武器を作るのにはかなり時間がかかる」
『…………』
イイハナシ、ドコ?
俺の態度が顔には出ずとも表に出ていたのか、ティックは説明を続ける。
「いいか、俺の実力ならお前のスタイルに合った装備品や、すごい装備品を作ることはたやすい。それだけならそう時間はかからん」
そうなの?
「だが、お前が使える装備を作るのに時間がかかる」
『……なんで、ですか?』
「レベルがまだ低いからな。お前のレベルでも使えるようにカスタムしなきゃならねえから手間がかかる」
『なるほど』
そういえば、このゲーム装備品はレベル制限あったっけ。
アクセサリーはレベル制限ないらしいけど。
「……済まねえが、アクセサリーは専門外でな。作れねえわけじゃねえが、上級奥義程度のもんしか作れねえよ」
なんかさらっと俺の心に受け答えしてるな。
やっぱり、こっちの思考とか読み取ってるのか?
あと上級奥義程度って、十分じゃないのか?
「まあ、レベル上げはやったほうがいいと思うわ。レベルが低いと、ステータスや装備品の他にもデメリットあるし」
『例えば?』
「わかりやすいので言えば、ここの結界ね。レベル五十以下はすり抜けちゃうから、決闘に参戦できないのよ」
ふむ、決闘に参加できない、か。
それは確かにデメリットっちゃデメリットだよな。
結界がすり抜けるってのはあれかな。
つまり弾き飛ばされたら壁のシミにはならずに、リングアウトするってことで……ん?
『この結界、触れるタイプなの?』
「レベル五十超えてればね。というか、攻撃の余波とか、闘士本人が飛び出すのを防ぐ壁の役目も担ってるのよ」
『なるほどな』
それもそうか。
元来闘技場は、観客が絶対安全な高みの見物ができるという前提に立って初めて運用できる娯楽だ。
……高みの見物ができる状況を作ったうえで、あえて闘士を煽り、結局自爆してすべてを吹っ飛ばす外道からの受け売りだけど。
ユナイトラウンズ第三弾作るのやめーや。
閑話休題。
そんでもって、ようやく合点がいった。
理解できた。
つまり……あれは
『ティックの旦那、ちょっとお願いしたいことがあるんですが』
「……なんだよ?」
あ、やべ、ついに口に出しちまった。
まあいいか。
これからいうのは、まああれだ。
こうしたほうが、結果を示したほうが、好感度が上がるかもしれないし。そうそう今後のため今後のため。
--だから。
『もう一回あいつらにリベンジしたいんですけど、いいっすか?』
やられっぱなしっていうのはさあ、やっぱ腹立つんだよなあ!
◇
【ブリザード・スターリング】五羽。
勝利までの、挑戦回数五回。
所要時間、合計一時間三十八分。
…………やったぜ。
To be continued