□【闘牛士】サンラク
『で、どこへ行くんだ』
「ついてくればわかるわよ。悪いようにはしないわ」
俺の目の前をすいすいと歩いていく、うさ耳少女こと、ステラはつっけんどんに言い放つ。
正直無視したいところなんだが、腕のいい職人に合わせる、と追加で言われてしまえばついていくしかない。
ひょっとすると、何かしらのイベントが発生するフラグを踏んだのかもしれないし。
もし罠だったら、まあその時考えよう。
「ここよ」
「……え?」
彼女が指したのは、建物の壁だった。
いや、こんなところどうやって、ってすり抜けたあ!
彼女に続いてはいると、そこで見たものは。
『鍜治場?』
「それ以外の何に見えるの?」
鍜治場、あるいは工房。
炉が一つあり、そこから少し離れたところに、巨大な箱がいくつか置いてある。
おそらくあれはすべてアイテムボックスで、中身は全部素材ってところか。
『今のって……』
「幻術発生と、隠蔽の効果があるマジックアイテムよ」
『幻術?』
「天属性の、光魔法と音魔法によるものよ」
『ひょっとして、さっきも?』
「正解。鳥頭にしては賢いようね。私は【高位幻術師】についてるの」
ふむ。
デンドロの幻術、というのは精神に作用するとかではなくそっちらしい。
まあ、フルダイブでは設定はともかく実態はそうであるパターンがほぼすべてだけどな。
それはともかく。
『んで、腕のいい職人ってのはどこにいるんだ?』
「ほへひゃ、にゃにすんほひょ!」
「よう、俺のこと呼んだかい」
ちょっとイラっとしたので、ステラの頬を引っ張って遊んでいるといつの間にか、小さい男が目の前にいた。
ひげ面の筋肉質な小男。ドワーフか?
黒と青が混ざった、奇妙な色合いのマントを手に持っている。
さっきまで、それの装備スキルで身を隠してたのか?
「パ、父さん!」
え?親子?
あーそうか、ドワーフと獣人のハーフで、それで幼女体型、もとい背が低いのか。
しかし、ベタではあるが、ドワーフってことはつまり。
『もしかして、ステラの言ってた腕のいい職人って……』
「それほどでもねえさ、俺は超級職を一つ持ってるにすぎねえからな」
『……超級職』
聞いたことあるな。
確か、上級職の先にある最上位職にして、ただ一人しかつけないユニークジョブ。
おいおいおいおい、これは大当たりを引いたんじゃないか?
間違いなくイベントNPCと言い切っていい存在。
それを味方につけられれば、ずいぶんなアドバンテージになる。
ーーさっきの入り口を見る限り、どうやら門は狭いみたいだからな。
「ステラ、こいつか?お前が言ってた見込みのあるやつってのは」
「ええ、そうよ、パ、父さん」
見込み?
まさか、先ほどカモられかけていたことではないだろう。
となると、おそらくこっそり戦闘しているところを見られてたってところか。
「ふうん。お前、名前はなんていうんだ」
『サンラクです』
あれ、なんか固まった?
地雷踏んでないよな?
なんで学食のメニューで特製オムライス頼んだらバッドエンドなんだよ。
こだわりとか言って、ピザソース使ってんじゃねえよと言いたい。
マジであんときは切れそうだったからな。血管が。
しかし、どうやら杞憂だったらしい。
固まっていたのはほんの一瞬。
ドワーフは、穏やかな笑みを浮かべていた。
「サンラク、か。いい名前だな」
『……どうも』
自分でつけた名前褒められて悪い気はしないんだけどさ、多分あの変態みたいなクソネーム付けても同じセリフ吐くのかなって思うと微妙な気分になっちゃうんだよね。
だが、俺の内心など知るはずもなく、小男は言葉を返す。
「俺は【
『よろしくお願いします、ルナティックさん』
「おう。早速だが、お前の適性を見てえ」
そういって、ルナティック……長いな、ティックでいいか、ティックは手前に置いてあったアイテムボックスを取り出し。
「ちょっとここじゃ何だから、場所変えるぞ」
そんなことを言って、工房から出て行った。
え。まじで。
ここじゃなくてわざわざ場所変えるの?別にいいけど。
さて、俺の実力を見るための試験なんだろうが、どんな感じなんだろうな。
そんなことを考えながら、俺とステラもティックの後を追った。
◇◇◇
□■アムニール・闘技場
レジェンダリアは王国ほど決闘が盛んというわけではない。
しかし、その質は現時点では王国より高い。
それは、亜人の国だからだ。
適性や素質の偏った亜人が、己の全力をぶつけ合う戦い。
のちの闘技場でランカーの多くが一芸特化であることからわかるが、
どこかの脳筋をはじめとして、心躍らせるものが多いのは無理のない話である。
ちなみに、サンラクが【闘牛士】に転職したきっかけもこの闘技場だ。
サンラクは闘士達の試合を見たわけではないが、試合を見ずともどういうカードが組まれるかを知ることはできる。
闘技場だけあって闘士系統を取るものはそれなりに多く、(レジェンダリアは多腕の亜人がいるので、なおさらである)その派生である【闘牛士】を修める者も稀にいた。
サンラクがたまたまそんな人物を目にし、『これ、俺にピッタリでは?』と思い、転職した次第である。
さて、そんな闘技場だがお金を払ってレンタルすれば、訓練場として使用できる。
レジェンダリアはギデオンほど闘技場の数に余裕がないため手続きが複雑だが、ごく一部の特権を持った者はその手続きを省略できる。
マジックアイテムの生産で、レジェンダリアに貢献している、魔法武器生産特化超級職【神器造】ルナティックもそのごく一部の一人だった。
「俺は武器や、マジックアイテムを作るんだが、量産はしねえ」
『なるほど』
「一人一人の要望や適性、スタイルに合わせた武器を作っていく。それが職人ってもんだ」
『そうですね』
サンラクは内心、「俺の要望聞くつもりがあるならさっさと武器作ってくれねえかな」と思ったが、こういう職人気質の手合いは機嫌を損ねるとまずいことが多いと、彼の経験が訴えるので口には出さなかった。
「というわけで、お前の実力と適性、スタイルを見極めるためにこいつと模擬戦してもらう」
『なるほど』
そういって、ティックは右手の甲にある宝石を掲げた。
宝石と戦う、というわけではない。
多分、あの中にモンスターが入ってるパターンか、とサンラクは推測したし、それは正しかった。
【ジュエル】と呼ばれるアイテムであり、モンスターを格納することができる。
昔、モンスターをボールの中に入れて育成するゲームがあったらしいが、それに近いものだろうと推測した。
今でも、それをパクったVRのクソゲーがポンポン出て来ているから、彼もそのゲームの存在は把握していたのである。
なお、クオリティの低さと権利関係の問題から、それを発売したゲーム会社はすべて消えている。
何なら、検索してもデータが残っていない会社さえある。
そんなことをサンラクは思い返していた。
「まあ、ステータスと適性の有無はもう見てるからな。あとはスタイルと、技術ぐらいだな。覚悟はいいか?」
『もちろん。いつでもどうぞ』
覆面の中で誰も見えていないが、サンラクは不敵な笑みを浮かべる。
戦闘の結果次第で、ルナティックが何を作るか決まる。
場合によっては、作ってもらえない可能性すらあるだろう、とサンラクは推測した。
基準ははっきりとはわからないが、一つだけわかっていることがサンラクにあった。
こういうシチュエーションは、非常に
そんなサンラクの様子を見てか、あるいは関係がないのか、ルナティックも笑みを浮かべ。
「じゃあ行くぜ、《喚起》、
『え?』
サンラクは、そういわれた時、反応が遅れた。
目の前に現れた、五羽の怪鳥に驚いたからだ。
場所が場所だし、思い浮かべたゲームがゲームであるだけに、完全に一対一の決闘だと思い込んでいたのである。
「「「「「GYAAAAAAAAA!」」」」」
『マジでか』
ネームは全員、【ブリザード・スターリング】であることを把握し。
飛行モンスター、たくさん、名前からしてブレス攻撃持ち。
そんな思考が、彼の頭の中を駆け巡り。
『せめてまず一対一でうおおおおお!』
開戦からわずか五分後、サンラクのHPは削り切られたのだった。
To be continued