人間と話したいと思うのだが、人間と話しても人間と話していると思えない時がある。大体、勝率は五分五分で「ああ、今日もまた何も伝えられなかったな」と思うことが半分を占める。昔から愛想笑いが苦手で、世間話も苦手で、思ってもいないことを言うことができないから、社会生活に向いていないのだろうなと思っていた。だが、社会はダメでも世界はある。生活はダメでも人生はある。社会の中で行き詰まった時、広い世界の存在に助けられた。生活が破綻した時、生活の傷口から、人生が噴き出した。

昨日、女性二人組が見舞いに来てくれた。色々な食材を持ってきてくれて、みんなでランチをしましょうと言われた。気持ちは嬉しかった。だが、会話が噛み合っていない気がして、空間が微妙な中で食うメシはまずいと思った。だから、どうにかこうにかちゃんと話せるように、あれこれ試行錯誤をしてみたのだが惨敗した。何が微妙だったのか考えた。看護マウントを取られているように感じて、病人の牢から脱獄することもできず、対等なコミュニケーションが成立をしなかった。誤解されると困るが、私は女性二人組を責めたいわけではない。逆だ。仲良くやりたいのに、仲良くやれないことってたくさんあるよねと、その原因を探りたいのだ。

私は、多分、社会に弱い。友達同士と言えど、女性二人組は立派な社会だ。社会的な仮面が邪魔をして、個人的な内面を語れない。ネタに変えてしまったり、上っ面になってしまう。彼女たちの話を聞きながら、ずっと嘘をつかれているような気持ちがした。悪意はないのはわかるし、優しい人なのは重々承知しているのだが、嬉しさよりも悲しみと疲労を感じた。食糧はありがたいが、一番の贈り物はその人自身を与えることだと思った。だから、私は「何か隠していませんか？」と聞いた。すると、一人が言った。自分は自己開示が苦手だ。この年になっても未だに親のことをあれこれと憎んでしまう、と。これを聞いた時、何かが開いた気がした。

だが、結局、その場はなあなあで終わった。女性二人は「疲れさせてしまってごめんなさい」と言って帰った。謝られて、余計に疲れた。なぜ、こうなってしまうのだろう。何かあるとすぐにごめんなさいと言う人がいるが、謝ることでなかったことにされている気がする。謝ることで清算して、チャラにして、終わる。あとには何も残らない。関係性も残らない。資本主義に毒されている。等価交換は関係性の清算。贈与交換は関係性の継続。清算って、冷たい。離婚する前の夫婦と同じだ。友達にはなれない。自分の話はつまらないだろうなとか、思ってくれるな。それが一番面白いんだ。それが一番元気になるんだ。謝るよりも本当に言いたかったことを言おうよ、一時的には衝突してしまっても構わないから、カネやモノでごまかすのではなく、自分を贈り物として与えてくれよと思ったが、結局、微妙な感じで終わってしまった。

食糧も要らない。土産も要らない。一番嬉しいのは、自分自身を贈り物として与えることだ。それが一番元気になる。社会を置いてこい。マウントを取らずに、マウントを取らせずに、普通に話したい。看護マウント、弱者マウント、取っ払う。釈迦は言った。他人の間違いに目を向けるな。他人がした事、しなかった事に目を向けるな。ただ自分がやった事、やらなかった事だけを見つめよ。怒らないことによって怒りに打ち勝て。善いことによって善からぬことに打ち勝て。布施することによって物惜しみに打ち勝て。真実によって嘘つきに打ち勝て。と。前回の記事にソファーベッドのことを書いた。すると、家にソファーベッドが届いた。手紙に「ちょうど捨てる予定だったので送ります」と書かれてあった。気持ちはありがたいのだが、大き過ぎて部屋に入らず、結局私が粗大ゴミとして出すことになった。結果、所持金もなくなったのでソファーベッドは諦めた。良かれと思ってやったのに、誰も幸せにならないことがある。答えは止まっている。大事そうに抱えているそれは、干からびたう○こみたいなものかもしれない。問いは生きている。切れば血が噴き出す。答えではなく、問いになりたいと思う。