筆者は、ここ1年間の試行錯誤のかいあってか、ToDoリストの使い方がだいぶうまくなりました。
一方で、「ToDoリストをタスクで埋め尽くすことは、無条件に喜んでいいものなのか」という疑問も頭をよぎるように…。
タスクをたくさんこなしている割には、総体的に生産性が上がっているとまでは言えず、「なにか問題があるのではないか」と思いはじめたのです。
午前中だけ仕事して、午後は「何もしない」?
そんな折に知ったのが、「ニクセン(Niksen)」という言葉。
オランダ語で「何もしない」という意味ですが、単に無為に過ごすということではなく、もう少し積極的な意味合いでオランダ人は使っているようです。
「天気の良い日は、近くの公園の芝生でしばらく寝そべる」
「金曜夜に仕事から帰った後は、あえてだらだら過ごす」
…といった時間の過ごし方を、「ニクセンする」と言うのだとか。
そういえばオランダは、OECD(経済協力開発機構)の「ワークライフバランス・ランキング」や国連の「世界幸福度ランキング」で世界トップクラスの国。オランダ人にとってニクセンは、幸福度を高める一要素なのかもしれません。
2020年に刊行された書籍『週末は、Niksen(ニクセン)。 “何もしない時間”が、人生に幸せを呼び込む』(山本直子著/大和出版)には、オランダ人のホーフ・バッカーさんの例が紹介されています。
彼は大学卒業後、アムステルダムの大手広告会社でコピーライターとして勤務していましたが、「会社では『ワーカホリック』であることを求められるわりに、すごく生産性が低い」ことに気づき、フリーランスに転向しました。
今は朝8時ごろ働き始めて、午後1時には仕事が完了。
会社に勤めていた頃は8時間勤務の上、通勤時間に2時間かかっていましたが、仕事量は現在と変わらなかったそうです。
彼は「午前中は仕事、午後は自分の時間」と決め、午後は近所のスナックバー(フライドポテトやコロッケなど軽食を専門とするカフェ)で過ごします。
お気に入りのスナックを食べながら、行き交う人々をボーッと眺めるのです。
(本書より抜粋)
この「ボーッと眺める」のがまさにニクセン。それでいて、会社員時代と仕事量は変わらないというのですから、うらやましいとしか言いようがありません。
さすがに一足飛びにこの境地には行けず、筆者はまず、1日数回、数分間ずつ「ボーッ」とするニクセンタイムを設けるようにしました。
実践する日本人起業家に聞いた「ニクセンのすごい効果」
さて、ニクセンの概要を紹介したところで、ニクセンを実際に活用している日本人起業家に話を聞いてみましょう。国際交流プログラムの企画開発などを手がけるWTOC(ウトック)の代表・堂原有美さんです。
堂原さんは、広告代理店勤務を経て、人々が幸福になる理由を知るため「世界幸福度ランキング」の上位国を巡る旅へ。訪れた国は30カ国近くに及ぶそうです。
そこで得た知見をもとに、今の事業を立ち上げました。『脱!しあわせ迷子 ―世界の幸福国を旅して集めた幸せのヒント―』(いろは出版)の著者でもあります。
そんな堂原さんは、ニクセンを大いに活用しているそうです。多忙な業務の合間に、どのようにニクセンしているのか、うかがいました。
──「ボーッとして何もしない」ことの効用は、学術的にも解明されつつあるようですが、具体的にどんな効用があるのでしょうか?
堂原有美さん(以下、敬称略): 主に2つあります。
1つは、幸せホルモンが分泌され、モチベーションが高まること。ニクセンすると、幸せホルモンともいわれる「セロトニン」が分泌され、自律神経が整います。
結果、ストレスが軽減され、免疫力が高まるのです。最終的には活力が沸き、よりパワフルになります。
もう1つは、「閃き」が生まれやすくなること。ボーっとしているときも脳は活動していて、その活動は「デフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれます。
この状態の脳は、記憶の断片をつなぎあわせたり、情報を整理するのに役立ちます。脳内の処理能力に余裕が生まれ、ペンディングになっていた問題が処理され、突然いいアイデアが浮かぶこともあるのです。
お風呂でいいアイデアが生まれたりするのも、それが理由だそうです。
ニクセンすることで、やる気が沸いてきたり、アイデアが生まれやすくなったりすることが解明されているのであれば、やらない手はないですよね。
オランダの人たちはたくさん休んでいるように見えますが、生産性は日本人より高いことも考えると、尚更そう感じますね。
──普段、堂原さんはどのようにしてニクセンを取り入れていますか?
堂原:私は日光浴が大好きで、自身をこのうえなく幸せにしてくれるものなので、たくさん取り入れるように心がけています。
お昼は仕事場近くの芝生のある公園に行き、ランチをしたり、寝っ転がったりもします。カフェのテラス席のヘビーユーザーでもあります。
また、仕事に集中できる時間は限られるため、2~3時間ごとに外に出たり、気分転換も兼ねて場所を移動したりして、仕事から離れる時間をつくるようにしています。
誰でもやる気が起こらないときがあると思います。そんなとき、これまでは焦っていましたが、今は自分の心に逆らわず、大事なニクセンの時間だと考え、日光浴をしたり、好きなカフェに行ってボーっとすることにしています。
ニクセンした後は、必ず大きなやる気が沸いてくることを知っているので、そんなときでも余裕を持てるようになりました。
──ニクセンが生活の一部になって、日常にどのような変化が起きたでしょうか? また、これからニクセンを取り入れる方に、アドバイスがあれば教えてください。
堂原:自分の心により素直に生きられるようになったので、常に心が穏やかな状態でいられるようになりました。また、常にやる気が高まった状態で仕事に向き合えるので、仕事をより楽しく感じ、生活にもメリハリができたと思います。
心の声に従って、休みたいときは休む、自分をリラックスさせてあげることで、自分自身が本来持っているパワーや能力をより発揮できるのではと思います。
堂原さんの話を聞くまで、オランダ流の「何もしない」が、これほど奥深いものとは思いませんでした。皆さんも記事を参考に、自分なりのニクセンを実践してみてはいかがでしょうか?
きっと、仕事も暮らしも良い方向へと変わるはずです。