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【離婚後共同親権】一定配慮も、双方に不安 「世界の潮流」実態は

2023.12.20

 離婚後の共同親権導入に向けた法制審議会の要綱案原案が示された。ドメスティックバイオレンス(DV)被害者らの抱く懸念に一定の配慮が示されたものの、なお当事者の不安は強い。一方で共同親権支持者からは「骨抜き」と不満の声が上がる。共同親権は一般的に「世界の潮流」と言われ、推進派の根拠の一つになっているが、その実態は、識者により見解が分かれるのが現状だ。

法務省で開かれた法制審議会の部会=19日
法務省で開かれた法制審議会の部会=19日
元夫からのDVで離婚し、共同親権への不安を語る40代女性=11月
元夫からのDVで離婚し、共同親権への不安を語る40代女性=11月
法務省で開かれた法制審議会の部会=19日
元夫からのDVで離婚し、共同親権への不安を語る40代女性=11月

 ▽不安と疑問  原案は、父母が合意で共同か単独かを決め、合意できない場合は家裁が決定できる従来案を維持。その上で、家裁の決定時の考慮要素に(1)子への虐待など心身に害悪を与える恐れがある(2)父母間の身体的・精神的DVの有無―などを明記した。共同親権では子どもの安全を守れないとの声に対し「危険な場合はしっかり除かなければならない」(法務省幹部)と「配慮」した形だ。  ただ、当事者の不安は消えない。40代女性は、突き飛ばす、壁を殴るといった元夫のDVが原因で離婚した。子どもは元夫との面会交流に「行きたくない」と泣き、面会後に指や爪をかむ自傷行為をするように。それでも家裁には面会を続けるよう言われた。「裁判所は適切に判断できない。DVや虐待を考慮すると言われても、全く安心できない」  共同親権導入を求める立場からも不満が漏れる。ある当事者は「原則が共同親権で、単独親権は例外だと明示すべきだ」。元夫が子どもを連れて出て行き、親権と監護権を失った女性は「このまま法改正されても実効性はないと思う」と疑問を呈し、不安を隠さない。  ▽逆行  共同親権推進派から主張されるのが、世界の多くの国が採り入れているとの言説だ。法務省が2020年に公表した24カ国対象の調査結果は「インドとトルコは単独親権のみだが、その他多くの国では共同親権も認められている」とする。  だが、そもそも親権の在り方自体が異なる国が多い。大阪経済法科大の小川富之教授(家族法)は、最近では親権という表現を使う国はほぼなくなり「親責任」や、より中立的な「養育」などに変わっており「共同親権が世界の潮流というのは誤解だ」と話す。  最近になり方針転換するケースも。中でもオーストラリアでは制度が大きく改正され「離婚後の交流に肯定的な親が子の養育を担うのにふさわしい」との規定を、面会交流中の子の殺害事件を機に廃止。子の安全を重視する見直しが進み、今年10月にはさらに、同居する親の判断をより重視する方向で改正された。  小川氏は「オーストラリアを含め欧米の改正は日本の単独親権に近づいている。日本の共同親権導入は世界の流れに逆行し、海外の一昔前の経験をしようとしている」と指摘する。  一方、立命館大の二宮周平名誉教授(家族法)は、ひとり親世帯対象の調査で、離婚後の養育費受給や面会交流実施が約3割にとどまる点を問題視し「子どもに、父母双方の養育を受ける権利を保障することが重要だ。共同親権はそのための制度だ」と説く。  選択制の韓国では、単独・共同にかかわらず、父母に対し家裁での「親ガイダンス」の受講と、養育計画の作成を義務付けているとし「韓国のような制度的担保をし、子どもを中心に据え、実効性のある共同親権制度にすべきだ」と求めた。

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