サマリー:三菱UFJ銀行は、デジタル金融の時代に即した組織再編を行い、データを駆使したワン・トゥ・ワン・コミュニケーションを加速させている。その先にどのような顧客価値を創造しようとしているのか。

2021~23年度を「挑戦と変革の3年間」と位置づけ、中期経営計画において「金融とデジタルの力で未来を切り拓くNo.1ビジネスパートナー」を目指すという基本方針を掲げる三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)。その中核会社である三菱UFJ銀行では、データを駆使したデジタルマーケティングによって、どのような顧客価値を創出しようとしているのか。同行データ・マーケティング室長の鎌田克志氏と、CX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を提供し、CXの革新にともに取り組んでいるプレイドの金田拓也氏の対話から、デジタル金融時代の顧客価値創造のあり方を探る。

“守り”と“攻め”のデジタルでエンゲージメントを高める

三菱UFJ銀行はマーケティング戦略において、「デジタル上でのコミュニケーション強化」「顧客軸でのLTV(生涯収益)向上」「ファーストパーティデータ・オウンドチャネルの活用促進」の3つの柱を打ち出し、顧客エンゲージメント向上にチャレンジしている。こうした果敢な取り組みを始めるに至った背景は何か。

鎌田 銀行は法令によって業務範囲が定められているため、商品・サービスの同質性が高いという業種特性があります。一方、個人のお客様にとって銀行との取引は、毎月の給与の受け取りやクレジットカードの引き落とし、将来に向けた貯蓄・資産形成、住宅購入のための資金調達、相続など、長期かつ多岐にわたります。

 そこで、私たちは「お金の不安の解消を通じ、顧客エンゲージメントを向上する」ことを、デジタルマーケティングの目指す姿に掲げ、デジタル上でのコミュニケーションの設計・改善に日々取り組んでいます。

金田 デジタル化が進む前は、店舗などリアルな接点における銀行員の皆さんと顧客の対話そのものがエンゲージメントの柱であり、差別化要因になっていました。

鎌田 そうですね。ただ、お客様のデジタル化が進むにつれて、デジタル上でのコミュニケーションがエンゲージメントの柱になりつつあると感じています。そうした中、デジタルを活用した顧客エンゲージメント向上のための取り組みには、 “守り”と“攻め”の2つの側面で考える必要があると思っています。

 守りのデジタルは、これまでリアルな接点でやってきたことをいかにデジタルの世界で再現するかということです。たとえば、私たちはインターネットバンキングサービス「三菱UFJダイレクト」を展開していますが、すでに利用者数は約1000万人となり、税金・公共料金などの支払いの80%、振り込みの60%がデジタル上で行われています。こうした守りのデジタルは、着実に進んできましたが、もっと簡単、もっと便利にご利用いただけるよう利便性を磨き上げ続けていきたいと考えています。

鎌田克志
Katsushi Kamada
三菱UFJ銀行
データ・マーケティング室長

 一方、攻めのデジタルは、これまでリアルで提供できていなかった新しい価値や体験をデジタルによって創り出していくということです。いまはテクノロジーが進化して、有人店舗や対面取引だけではできなかったことも、デジタル上であれば実現できるようになっていますし、そこに新しい価値を生み出せる可能性が大いにあると思います。その実現のドライバーとなるのがデジタルであり、データだと考えています。

 ところで金田さん、ATMの利用以外で最近、銀行の店舗にお越しになられたことはありますか。