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初めに
今回の話はネットで営業の人を初め多くの蘊蓄を語っている人達が、なんかちがう(^◇^;)「インピーダンス・マッチング」(Impedance Matching)理論を展開していたので、以前作成したケーブルで音が変わるかなんて些細or枝葉末節(^◇^;)な事で慢心している場合じゃないと思い書いてみました。

そんなわけで、ケーブルで音が変わるかより先に読んで頂く事を勧めます。


インピーダンス・マッチング
インピーダンス・マッチングとは、早い話、送信側の出力インピーダンスと受信側の入力インピーダンスが等しい時に、受信側が最大電力を受信すると言う話です。
この話は高校の物理の教科書にも載っているので、皆さん良く理解しているようです。
もし理解したいのであれば、Googleでインピーダンス整合Impedance_matching検索してみたり、教科書をもう一度読んだら良いと思います。

L性出力の場合
唐突ですが、0.1Hのコイルのインピーダンス(正確にはリアクタンスと言いますが…)がどれ位か計算してみましょう。
純粋にL成分だけなので計算は簡単です。
Z=ωL
ここで、は位相を表し、ωは角周波数です。
角周波数と周波数の関係はω=2πfの関係が成り立ちますから
Z=2πL
で、リアクタンス成分しかないので
|Z|=2πfL (ここで|Z|はZの大きさを表します。)
が成り立ちます。
で、L=0.1Hでf=1kHzを入力すると…
|Z|=2πfL=2*3.14*1000*0.1=628Ω
もうおわかりだと思いますが、0.1Hのコイルを音響機器としてみた場合、 ほぼインピーダンスは600Ωになります。(^◇^;)

普通のエレキギター、普通に使うダイナミックマイク、レコードのMM、MCカートリッジはコイルを巻いて作っているので、 アクティブの物を除いて大概L性の負荷になっています。
L性の負荷を持つ機器は簡単に等価回路を書くと以下のようになります。

L out put ここで、Viは無限の負荷をつないだ時の出力電圧です。Rはアンプの入力負荷抵抗です。
左に書いてある式から分かるとおり、実際にアンプで増幅される信号のVoはLとRで分圧された形になります。
L out put response この回路はLR一次回路ですから左のような周波数特性になります。


ここで、L=0.1Hの時にインピーダンスはだいたい600Ωですから、
R=600Ω
としてインピーダンス・マッチングさせたとします。
で、上の式に、L=0.1HでR=600Ωを代入すると だいたいf=1kHzという答えが出てきます。(^◇^;)

リアクタンスが1kHzで600Ωで抵抗成分が600Ωで90°位相がずれているわけですから1/√2で、-3dB点になるのは当然と言えば当然です。
この事から分かるように、L性の負荷に合わせて抵抗でインピーダンス・マッチングを取ってやると、
大概f=1kHzのLPFになり、高域が全く減衰してしまいます。

皮肉な事に、このようなインピーダンス・マッチングをさせた状況を指して、
入力インピーダンスが不適切なのでハイ落ちした。
と言います。(^◇^;)

で、どうするかというと、
この場合、Rを20倍、f > 20kHzとして、fを音声帯域外に出して、音声帯域内でフラットな特性を得られるようにします。(音響-機械変換、機械-電気変換で高域強調特性を持つ場合は調整が必要です。)

だから、L出力で600Ωだったら、600*20=12kΩ程度の入力抵抗で充分な計算になります。

L性出力の例(ギターの場合)
うちで扱うネタはギターが多いので、L性出力の代表のエレキギターで、回路と周波数特性がどう言う関係があるか見積もってみましょう。

Guitar L-R simulation 左はトーン、ボリュームをMAXにしてアンプに接続した場合の回路です。
普通、トーンの回路には可変抵抗とコンデンサーが直列につながっていますが、今回のように高い周波数を対象にしていて、つながっている可変抵抗と比べてリアクタンスが小さいので無視して考えます。

そうすると、ギターのピックアップにトーン回路とボリュームとアンプの入力抵抗が並列につながったシンプルな形になります。

ここで、数値を入れてみましょう。

ピックアップのL[H]トーンの抵抗[kΩ]ボリュームの抵抗[kΩ]アンプの入力抵抗[kΩ]合成した抵抗値[kΩ]fc[kHz]=R/2πLの値
ハムバッカー5.0 50050010002006.4
シングル3.0 25025010001115.9

簡単な回路に、ピックアップのインダクタンスやアンプの入力インピーダンスにおおざっぱな数字を入れている割に結構、良い線を行っているように思います。

ハムバッカーとシングルとピックアップが違っても、ポットの違いがそれを吸収する方向で働いて fcは似たような感じになっている所が面白いですね。

さらに同じハムバッカーを使って、回路を替えたらどうなるか計算してみます。

ピックアップのL[H]トーンの抵抗[kΩ]ボリュームの抵抗[kΩ]アンプの入力抵抗[kΩ]合成した抵抗値[kΩ]fc[kHz]=R/2πLの値
ハムバッカー5.0 50050010002006.4
ハムバッカーのタップ2.5 500500100020012.7
ハムバッカーのパラレル接続1.3 500500100020025.5
ハムバッカーのホットロッドチューン5 ---5001000333.310.6
ハムバッカー+Fender系アッセンブリー5.0 25025010001113.5
ハムバッカーのタップ
+Fender系アッセンブリー
2.5 25025010001117.1

まあ、色々計算していますが、実際の所、それぞれのパラメータは個々の場合で異なりますから、
程度の感覚で傾向としてつかんでおいたらよいと思います。
また、各パーツの諸元はそれぞれの目的で決定されているので、
帯域を広くしたいから、すべての抵抗値を大きくすればよいと言うほど、簡単にはならない場合が多いです。


我々の世代では「テープレコーダーのMIC入力にギターつっこんだ」けど、
なんか音がしょぼいorz
っていう体験がよりリアルですね。(^◇^;)
でも、アンプは高くて買えないから比較的安価だったトレブルブースターを通して 「それっぽく」してってのが良くある話でした。
こういう歴史がギタリストのトレブルブースタ好きの伝統を生んだと私はかんぐっているのですが


C性出力の場合
C性の出力と言えば、ギターだったらピエゾピックアップ、オーディオだったら、クリスタルピックアップがその代表です。
アコースティック楽器につけるコンタクトピックアップなんかで時々見かけますが、多くの場合は プリアンプを内蔵して、C性の出力をR性の出力に変換して(ついでにゲインを調整して)出力しているのであんまり気にしなくても良い場合が増えた気がします。

ピエゾピックアップの場合は、インピーダンスを規定している場合が少ないのでL性の場合のような 悲劇を生む事は少ない気がしますが、どういう理屈で入力インピーダンスが重要なのかを説明します。

C out put L性出力の時と同様に、Viは無限の負荷をつないだ時の出力電圧です。Rはアンプの入力負荷抵抗です。
今回のVoはCとRで分圧された形になります。
C out put response この回路はCR一次回路ですから左のような周波数特性になります。


L性出力の場合は高域が削られたのに対して、C性出力の場合は低域がバッサリと削られます。
ここで、R(プリアンプ等の入力インピーダンス)が小さい場合、シャリシャリしたボトムの不足した音になってしまいますから、理論的な解決策としてはf < 20Hzとしてfを音声帯域外に出して、音声帯域内でフラットな特性を得られるようにします。

ぶつけたり、こすれたりした時の雑音の除去や、聴感上でクリアなトーンするために 積極的周波数特性を調整する場合も多々あります。

R性出力の場合

特に図や式を書いてはいませんが、R性出力の場合、良く見る分圧の式と同じ形になるため、 インピーダンス・マッチングさせた場合、周波数特性は変化せずに電圧が全体的に-6dB下がります。
インピーダンスは規定されているので、レベルをそろえる時には便利です。

ただし、大概の場合-6dB下がった分を、どこかで増幅してやる必要があるので、その分S/Nが低下するのは自明です。またフロアノイズは変わりませんから、ダイナミックレンジも-6dBになります。
ちなみに、無くなってしまう6dBのエネルギーは熱として消費されます。


ロー出し、ハイ受け

L性、C性、R性の出力と説明してきましたが、結局の所、
オーディオ機器は1kHzを基準としてインピーダンスを規定しているので、 Rで終端してインピーダンス・マッチングさせようとすると、1kHzにカットオフを持つフィルターになってしまうか、S/Nを低下させるという結果しか出ません。

L性にしろC性にしろ、負荷抵抗Rを大きくすれば、大きくするほど使用可能な帯域は広がっていきます。R性の場合はダイナミックレンジで有利になります。
そんなわけで、オーディオ帯域ではロー出し、ハイ受けするのが常識になっています。

ハイ・インピーダンス入力のアンプはハム等の誘導ノイズを拾いやすいと言う人も沢山いるので、あえて書きますが…
ロー出し出力と接続してあれば、ロー出し出力とハイ受け入力間の系は、ロー出しの出力の方がインピーダンスを決めている(低抵抗と高抵抗の並列接続になる)ので、誘導ノイズの影響を受けにくくなります。

インピーダンス・マッチングが必要な場合
大概の場合、オーディオ帯の場合はロー出し・ハイ受けの方がメリットが多いのですが、 次のような場合はインピーダンス・マッチングを考える必要があります。
私の考えでは以下の場合位ではないかと思います。

うちあけ話
今回の話は実は更に前置きがあって、話せば長いのですが(^^ゞ
アイディアとしては結構面白いんじゃないかと思うので、ちょっとおつきあいお願いします。 m(__)m
ことの起こりは、Gibson Les Paul Recording ModelやGibson Lespaul Signature Model(本人の(^◇^;))の話をblogでしていて、 ロー・インピーダンス・ピックアップ(Low Impedance Pick Up)のギターを使ってみたくなった事に始まります。
しかし、レスポール レコーディングやレスポール シグネーチャーは、 それがどんな形か知っている人が少ない位の不人気モデルです。当然出荷数も少なく、中古価格も 良いお値段です。(^◇^;)。
それほど、Gibsonにこだわりは無いので、試しに作ってみようか?と思いました。
しかし、ロー・インピーダンス・ピックアップって売っているのを見た事有りませんね。
まあ、自分でピックアップ巻く気合いがあれば巻いても良いのですが、正直言って、自分が満足するような物を作る自信はありません。(^◇^;)
そこで、代わりに巻き線数が少なくても充分な出力の取れそうな、エレアコ用のネオジム(Neodym:Nd)を使ったハム・バッキング機能を持ったマグネチック・ピックアップをGoogleで探していました。
そしたら、なんか変な記述を散見したので■はじめにの話に続きます。


おわりに
高周波帯での話の多くはキャリア周波数と比較して信号周波数の帯域は無視できるほど狭いため、 キャリア周波数でマッチングを取れば、信号帯域もほぼマッチングした状態で伝送されます。
それと比較して、オーディオ周波数帯では、高周波で言う所のキャリア周波数は0Hz(DC:直流)ですから、インピーダンス・マッチングの話はそのまま適用できず、信号周波数ではフィルターがかかってしまいます。

言葉とか用語を憶えるよりも、必要な時にその意味を考える方が重要だと思います。


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Original '11/02/19