小学一年生の頃、母親に怒られた私は家のリビングの窓から外に捨てられて、窓の鍵を閉められた。私の親は、私が言うことを聞かない時、容姿なく私を捨てた。夏も、冬も、裸足の私を屋外に投げ捨てた。ギャンギャン泣き続ける私に「反省しろ」と言い残して、母親は鍵を閉めた。その後、玄関の鍵を閉めるために玄関に向かうことを知っていた私は、ギャンギャン泣きながら玄関に向かって全力疾走した。そして、母親が玄関に着くよりも先に玄関に到着して、玄関先でギャンギャン泣いた。それを見た母は「はやっ！」と言って、思わず吹き出した。笑ってしまったことを契機に、母は私を許した。

幼少期の体験が人格を作ると言われている。この体験を通じて、私は「逃げっぷりの良さは時に人を救う」ことを学んだ。笑って、許して。笑わせることに成功すれば、殴られることもあるが、許されることもある。よし、逃げるぞ。その日から、私の中で「よし、逃げるぞ」は一種の合言葉のように定着をして、苦境に対しては、男らしく立ち向かうだけではなく、時には「よし、逃げるぞ」と勇猛果敢に逃げ出すことも有効であると学んだ。中途半端は良くない。逃げると決めたら、逃げる。全力で逃げる。振り返らない。徹底的に逃げる。前に、前に、前に逃げる。逃げた先に桃源郷があるのだと言わんばかりの勢いで逃げる。たとえ現実逃避だと言われようが逃げる。年甲斐もないと言われようが逃げる。逃げた先に笑いと許しがあることを信じて逃げる。盗賊団が「ヅラかるぞ」という感じで逃げる。生命の勝利を信じて逃げる。

過ちも繰り返せばそれなりにサマになる。一つのスタイルになる。罪悪感よりも早く、闇をすり抜けて行く。昼寝をしたら、変な夢を見た。「はっ！」と言いながら目覚めた。俺、三十八歳なのになにもしてねえという焦燥感に襲われて、正気を失い、ラーメンの大盛りを注文しそうになった。大丈夫大丈夫と言い聞かせて、お湯を沸かして、コーヒーを淹れて、自作の歌を歌っていたら平気になった。その後、好きな人と電話をした。好きな人と電話をしていると、地獄の底にいたはずなのに一発で元気になる。うだつが上がらないのも「全部冬のせい」という気分になる。冬だから、しゃーない。今、どれだけどん底にいるような気分だとしても、春になって暖かな日差しの中、そよ風なんて浴びてしまった日には一発で幸せになってしまう。私は、それほど単純な人間だ。一人になると深刻になる。だからこそ、我々は支え合うのだ。

我々はしばしば現実逃避をする。誰もが何かに依存をしていて、酒で憂さ晴らしをする人もいれば、運動で憂さ晴らしをする人もいるし、インターネットに誰かの悪口を書くことで憂さ晴らしをする人もいる。めちゃめちゃ普通のことを言うが、運動は良い。健康的だ。軽い散歩をするだけでも、心身が軽くなる。寒くなると体が閉じる。鬱は、案外、運動で突破できる。さっきまで地獄の気分だったのに「あれ、案外天国かも」となる。気分が世界を作るのである。現実逃避をすると「現実を見ろ」と自分や他人から怒られてしまいそうな気持ちになるが、現実逃避バンザイ。空想が世界を作るのである。たとえ一種の逃避だとしても、我々は、空想の世界からおみやげを持ち帰ることができる。そこから物語が生まれたり、新しい商品が開発されたりする。妄想と嘘が世界を作るのである。

死にたくなったらヅラをかれ。人間社会は割と殺伐としてしまいがちだが、人間を裁くのは人間の仕事ではない。それは、神の仕事である。逃げる時は逃げる。徹底的に逃げる。中途半端は良くない。愛の逃避行だ。美味しいものを食おう。運動しよう。掃除しよう。料理しよう。嫌いな人ではなく、好きな人と話そう。幸せになることをやろう。病気で体が動かない時は、空想しよう。妄想しよう。どのような生き方をしていたとしても、受け皿は必ずある。ネットの記事などは、表層に過ぎない。スマホを閉じて、体を開く。心を開く。なんでもいいから、何かをやろう。死にたくなったらヅラをかれ。罪悪感よりも早く、闇をすり抜けるのである。