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ワンオペ育児の解消へ「ボイス(発言)」と「イグジット(離脱)」で考える 2024年1月18日

  • 電子版連載【駒崎弘樹の「半径5メートルから社会を変える」】〈64〉

 連載「駒崎弘樹の『半径5メートルから社会を変える』」では、認定NPO法人フローレンス会長の駒崎弘樹さんに、さまざまな社会課題について聞きます。

 今回は、いまだ社会課題である“ワンオペ育児”(ほぼ全ての家事や育児を一人で担うこと)について考えてみたいと思います。

 ※今後、取り上げてほしいテーマを募集します。記事の最後に記載したメールアドレス宛てにお送りください。

■ワンオペ育児の政治学

 ――子育てへの考え方が社会全体で変わってきてはいるものの、依然として“ワンオペ育児”で大変な思いをして悩む人もいます。

 駒崎 今回は、“ワンオペ育児の政治学”という観点から少しお話したいと思います。

 20世紀のドイツの政治経済学者であるアルバート・ハーシュマンが掲げた理論に、「Exit Voice(イグジット・ボイス)理論」というものがあります。これは、組織に所属する個人が直面する問題に対して取れる行動として、ボイスとイグジットがあるというものです。

 ――どういうことでしょうか。

 駒崎 ボイスは「発言」で、イグジットは「離脱」を意味します。
 例えば、自分が所属している自治体に不満があった場合に、自治体に対して意見を伝えるのがボイスで、別の地域に引っ越すのはイグジットです。自分が勤めている企業に何か不満がある場合などにも同様の行動が考えられます。そして……。

 ――家庭でも同じことがいえる、と?

 駒崎 そうなんです。例えば、妻がワンオペ育児の状態なのであれば、まず妻がすべきはボイスの行動です。
 「なんで共働きなのに、自分だけが育児をしているの?」とパートナーにしっかりと伝えて話し合うことが大事になります。

■イグジット①夫婦関係からの離脱=離婚

 ――イグジットについては?

 駒崎 ワンオペ育児の状況に対するイグジットには2つ可能性があると思います。
 一つは、夫婦関係からのイグジットです。共働きであるのに、妻だけが育児をしている状態はフェアではありません。いくら話し合ってもそのようなアンフェアな状態の夫婦関係が続くということであれば、そこから離脱をすることもあり得ると思っています。

 ――なるほど。離婚ということですね。

 駒崎 今の日本では、ひとり親になると、さまざまな困難に直面することが想定されるので、夫婦関係から離脱することのリスクはあります。

 でも本来、子どもは社会全体で育てていくべき存在です。ですから、子どもを一人で育てている人がいれば、社会がたくさん支えてあげる。僕は、そんな社会をつくっていきたいと思います。

■イグジット②会社からの離脱=転職

 駒崎 もう一つのイグジットの仕方は、仕事が忙しいことを理由に夫が育児に携わらないという場合、夫を今いる会社からイグジットして転職させるというやり方です。
 
 本当は家事や育児を夫婦がともにシェアすべきなのに、それができないというのは、夫の時間とマインドを、会社が搾取していることになります。それは、妻の時間と労力に、夫が勤める会社が“タダ乗り”しているともいえるでしょう。

 ――タダ乗り……ドキッとする言葉です。

 駒崎 もちろん会社側が全て悪いというわけではありません。
 出世や収入のために、“これくらい働くのは必要なんだ”と、夫側も自ら望んで搾取されている場合もあるので、その関係を断ち切るためにも、転職をしてみるというのは一つのイグジットの仕方としてあるといえます。

 ――育児のために転職するというのも大きな決断ですね。

 駒崎 確かに転職は大きな決断かもしれません。でも、社会の中で“イクメン”と言われだした10年ほど前と比べると、会社をイグジットするリスクは年々低くなってきています。
 僕も仕事と育児の両立について相談を受けた時に、「仕事を変えてみたら?」とアドバイスすることがありますが、かつてより相当言いやすくなったと感じています。

■担ってきた役割を手放してみる

 ――離婚や転職の話が出ましたが、家事・育児から期間限定で妻がイグジットすることも、ワンオペの大変さを夫に知ってもらうという意味で効果があるような気がしました。

 駒崎 イグジットには、「一時的なイグジット」と「恒久的なイグジット」があるので、一時的に離脱してみるというのもいいでしょう。ワンオペ育児を夫自らも経験すれば、考えも変わっていくと思います。

 ワンオペ育児が定常化している場合、そこには「甘える夫」と、それを「受け入れている妻」のような均衡がつくられています。
 その均衡を崩すためにも、それまで「こうあるべき」と思いこんで担ってきた役割(家事をする妻、子育てをする母親という役割)を、多少強引にでも一時的に手放してみるのはありだと思います。

■最適化がもたらす「望まない均衡」

 駒崎 ちなみに、Exit Voice理論の反対にあるのは「最適化」です。
 つまり、ワンオペ育児を解消するのではなく、受け入れてしまうということ。「家事代行サービスやベビーシッターなどを利用して、どう効率的にワンオペで日々を回していくか」と発想し、行動することです。
 
 皆さんのご家庭はどうでしょうか? 夫婦間で話し合いの場を持とうとしても、結局、最適化してしまっているというケースが多くないですか。

 ――それが実際のところ現実的な行動なのかもしれません。

 駒崎 ただ、頑張って最適化すればするほど、「ワンオペ育児は可能なもの」として、結局、妻の側にしわ寄せがいってしまう。そうしてまた、望まない均衡がつくり出されていくのです。
 しかし、もし妻が病気になったらその均衡は維持できません。

 ワンオペ育児は本当に過酷です。心身ともに消耗します。家族みんなの幸せのために、一人だけが我慢をする、というような状態に陥らないよう、夫婦であるべき形を模索していってほしいと思います。

 ●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想、取り上げてほしいテーマなど、ぜひお寄せください。youth@seikyo-np.jp

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