奇声を発したり奇行（奇妙な動き）をすると、ストレスが緩和されるという研究報告がある。意味不明な言葉を発したり、あ、こいつ頭がおかしくなったなと思われるような動きや踊りをすると、心も体も軽くなるのだ。絵を描いたり歌を歌っていると「これにはどんな意味があるの？」と聞かれたりするが、逆だ。意味は体を硬くする。意味から自由になるために描いているのであり、歌っているのである。意味に疲れた大人は、何が楽しくて生きているのかが自分でもちょっとわからなくなる。そして、周囲に「何をしている時が楽しいですか？」などと聞くようになるのだが、この症状は末期である。遊んでいるこどもに「何が楽しくて遊んでいるの？」と聞いたら、キョトンとされるだろう。

年末からの体調不良で、熱海から出ることができない。日常生活は支障なく過ごせるが、長距離の移動が難しい。誰か遊びに来て欲しい。体調を崩してわかった。心配をされると疲れる。多くの人から「大丈夫ですか？」と心配されるが、大丈夫と返信するエネルギーで削られる。私は、元気な時も元気じゃない時も、面白いことが好きなのだと思った。楽しいことが好きなのだと思った。変な人が好きなのだと思った。見舞いに来てくれた女性が、見舞いに来てくれたはずなのに「私のためにコーヒーを淹れろ」と言って、こたつに入って横になった。私は、この瞬間、一番元気になった。誤解されると困るが、私は別段Ｍっ気が強い訳ではない。病人を顎で使う彼女を見て、愉快になっただけだ。

正論に負けそうになる時がある。働かなければやばいとか、この年齢ではこれくらいできなければやばいとか、一般常識に負けそうになる時がある。正論は手強い。正論を聞いていると、なんだかその通りにしないと生きていけないような気持ちになる。だが、正論に負けるな。私のような男は、正論を真に受けると鬱になる。この世の中には、大丈夫な世界と、大丈夫じゃない世界がある。大丈夫な世界では「人生はどうにかなるから本当に好きなことをやりなよ」的なムードに満ち満ちているが、大丈夫じゃない世界では「このままではやばい」と煽られ焦らされ追い詰められる。定職に就けとか、夢を持てとか、志を抱けとか、意識高い系のマインドでいないと劣等生の烙印を押される。だが、私は、もう、劣等生で構わない。長年自分と付き合ってみて確信した。私は、簡単に凹むが、簡単に直る。あらゆる感情に、長居できない。空の模様と同じように、毎日、毎日、変わる。私に筋はない。あるとしたら、矛盾だけだ。矛盾に生きる。それが私の筋であると言いたい。

女性Ｔ様と、熱海駅前のキャッフェに行った。Ｔ様は言った。文章を書く時に気をつけていることが一つだけある。それは、自分を軸にして書くことだ。人の文章を読むと、あ、これは他の人もよく言っていることだと思うことが度々ある。相手は変えられない、変えられるのは自分だけだとか言われても、本当なのかもしれないが、聞き飽きた。二番煎じや三番煎じの言葉に興味はない。こんな言葉は十番煎じである。私はフレッシュな言葉を使いたいのだ。一番煎じを出したいのだと。素晴らしい言葉である。誰かの言葉の二番煎じや三番煎じばかりを出す人の精神を「煎じメンタル」と言ってディスることにした。どうせなら、自分の言葉で語ってみやがれ。一番煎じを出してみやがれ。あ、いけない。私は、こうしてすぐに煽ってしまう。もう、誰のことも悪く言わないと決めたのだ。

簡単に凹んで、簡単に直っちゃう我々ピュアなホモルーデンスは、周囲の影響を受けやすい。引き摺られやすいからこそ、何に引き摺られるかに注意深くある必要がある。闇に交われば闇になる。呑気に交われば呑気になる。どうせならば、愉快な方がいいじゃないかという点に同意してくださるのであれば、是非、熱海に遊びに来て欲しい。暇だ。大概、暇で、さみしい。正論派の人々は「そんなんじゃ生きていけないぞ」と我々を脅すが、冷静になって考えよう。私もあなたもダメ人間かもしれないが、でも、生きてる。この「でも、生きてる」に勝る説得力を持つ論理などというものが、この世に存在するだろうか。そんなんじゃ生きていけないよと言われても、現に生きて存在してしまっていることの凄み。やばさ。乾杯。わかるかい。私たち全員「でも、生きてる」ことの凄み。やばさ。乾杯。生きていることに、乾杯をしよう。