投手と打者の二刀流で大リーグでも活躍する大谷翔平(時事通信フォト)
実は新庄さん自身、周囲から「女っぽい」と言われて、傷つくどころか「狙ってやっていたかもしれない」と今はいう。
「思春期って、男っぽくしてみたいとかその逆だってあるじゃないですか。僕の場合は、途中から女の子ぽくしてるとモテることに気がついたのでやっていただけ(笑)。そうやって色々試して、子供から青年になって自己が形成されてという流れだと思うんです。そんな時期に、あなたはこうだからこうしなさいとか指導されても面倒なだけだし、もし僕が本気で先生の言うことを聞いて、あとから後悔するようなことになっていたら……。例えば、若いうちに性転換手術をしてしまい後悔している海外の方のニュースなどを見ると、背筋が寒くなる思いです」(新庄さん)
多様性を理由に大谷のような「二刀流」を主張
こうした「多様性の押し付け」は、何もジェンダー界隈だけで起きうるものではなくなっている。「多様性」を言い訳にした親たちの暴走が目に余ると筆者に打ち明けるのは、都内の少年野球チームでコーチを務める中村伸治さん(仮名・50代)だ。
「(米・大リーグの)大谷の影響からか、うちの子はピッチャーもバッターもやりたい、なんて言ってくる親御さんが多いこと多いこと(笑)。本人の希望もあれば、プレー適性だってあるのでその都度そう説明するんですが、今度は”多様性”などと仰るので、こちらは閉口するしかない。他にも、野球の他にバスケや水泳を子供に習わせている親御さんもいて、今は多様性が重視されるとか、一つのスポーツに偏るべきでない、海外はそうだ、という主張なんですが、子供への負担がものすごい。哀れで見ていられません」(中村さん)
確かにアメリカでは、アメリカンフットボールと野球に平行して取り組み、まず選手寿命が短いNFL選手に、その後、大リーグに挑戦という例もある。だが、それは学生スポーツにシーズン制を導入しており、たとえば春は野球、秋にアメリカンフットボール、という取り組み方をしているため同時に2つの競技の選手として育成が可能になっているからだ。2つの競技のためのトレーニングを、一年中、同じ負荷でかけ続けているわけではない。だが日本ではこのような仕組みになっていないため、慎重な配慮をせず子供に複数競技を習わせると、負担が倍増することにしかならない。
「多様性」の重要さは、今さら説明するまでもないが、その言葉が一人歩きするどころか暴走し「多様性」というルールに逆に縛り付けられているのが現代の我々ではないのか、改めてそう考えざるを得ない。また、こうしたムーブメントに大人も疲弊しているが、一番戸惑っているのが子供たちで、すでに被害が出ていることも決して傍らに置いておけない事実だろう。