以前の記事で、ハイニッカとブラックニッカ クリアを比較しましたが、今回はサントリーのエントリーモデルであるトリスクラシックとレッドを比較していきます。
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安全なお酒として生まれたトリス

トリスは1946年に本格的に発売されたウイスキーです。
それ以前に「トリス(Tory's)」というブランドは、サントリーの前身である鳥井商店のコーポレートブランドとして、紅茶やカレー粉にもブランド名としてつけられていました。

1907年に創業者の鳥井信治郎が海外からウイスキーの原酒を購入したものの、中身はただの模造アルコールで、そのまま放置をしていました。
しかし10年以上経過し、改めて模造アルコールの樽の中身を確認すると、熟成が進んでウイスキーのような香りや味に変わっていたため、これを1919年にトリスウイスキーとして販売、ヒットしたようです。

これをきっかけに鳥井はウイスキー作りを決断し、今のジャパニーズウイスキーのきっかけとなりました。

その後ウイスキー事業が稼働して角瓶がヒット、戦時中は海軍向けのウイスキーの製造と販売で大きな利益を得ました。

戦後に入って物資が不足する中で、闇市の中でカストリ、バクダンといわれる酒が流通したものの、中身は人体に有害なメタノール(メチルアルコール)が含まれていて、飲んだ人たちが失明したり死に至ったりしました。

そのような状況で、安価で安全な酒を提供しようと出されたのがトリスでした。
発売当時は3級ウイスキーの基準でモルト原酒が5%未満しか入っておらず、今の基準でいえばスピリッツのようなものでしたが、危険な密造酒が横行していた時代においては高品質でした。

その後全国各地にトリスバーが誕生し、そこで提供されるトリスのハイボール(トリハイ)が人気となりました。
また、キャラクターとしてアンクルトリスが誕生し、2020年代の現在に至るまで起用し続けられています。

しかし日本の経済が成長するにつれて、他のお酒の登場や同じサントリーのレッド、ホワイト、角瓶、オールドが人気になっていく中で、トリスの人気は下火になり、1980年代頃からその名を聞くことが少なくなりました。

そして2000年代後半に入って、角瓶を使った角ハイボールがブームになると、角瓶の原酒自体が足りなくなったことで、代替としてトリスが用いられるようになりました。
ここからトリスブランドが復権し、トリハイの缶もコンビニで気軽に買えるようになりました。

トリスも2016年にトリスクラシックとしてリニューアルし、香りや味わいが改善されました。

ハイニッカの対抗馬 サントリーレッド

サントリーレッドは1964年に誕生しました。

このボトルの前身は、1930年に発売された「赤札」で、サントリーとして2番目に誕生したウイスキーでした。
しかし、当時の壽屋の事情によって熟成が進んでいない原酒を使わざるを得なかったことで、あまり熟成感が少なく、当時の日本人がなれていなかった高いアルコール度数とピートからのスモーキーさが厭がられ、さほど経過せずに販売中止に追い込まれました。

その後1964年に、ニッカウヰスキーがハイニッカを発売、コストパフォーマンスに優れた点が評価されたことを受け、サントリーが対抗馬としてサントリーレッドを発売しました。

当時、トリスの次に安価だったサントリーホワイトが1本1000円の時代に、同じ容量で500円の値段で販売、さらにダブルサイズを900円で発売し、お得感を強く押し出す戦略を打ち出しました。
これによってエントリーモデルのウイスキーの座をトリスから奪う結果になりました。

その後も晩酌用ウイスキーの定番にすべく広告戦略を強化して、バブル景気の後半に至るまで誰でも知られるブランドになりました。
しかし消費税の導入と酒税における等級廃止、減税が加わって、かつて特急ウイスキーとして高い価格をつけていたボトルも安価に変えるようになったことで、レッドの知名度も落ちていきました。

ハイボールブームとともに復権したトリスとは異なり、レッドはその存在も危ぶまれています。

テイスティング

今回の2つのボトルはストレートで飲むことを前提にしていないので、ロック、水割り、ハイボールで飲み比べます。

ロック

まずトリスクラシックは、軽くピートとアルコールの刺激の後に、紅茶、ブドウ、リンゴ、カラメルの香りが続きます。
味わいは、多少アルコールの辛さがあるものの、全体的に甘みが強いです。

一方のレッドは、ラムネ菓子のような香りの後にレーズン、軽いウッディな香りが続きます。

味わいは、苦みが目立ち、甘さがあるものの人工甘味料のような不自然さが気になります。

水割り

トリスクラシックでは、カラメルの香りが先にやってきて、その後ブドウ味のラムネの香りが続きます。
味わいは、多少苦みが勝って、甘さは抑え気味の印象です。

レッドでは、ウッディな香りとブドウっぽさが多少感じられるものの、それ以上の香りの広がりがありません。
味わいはほろ苦さが目立って、あまり甘くはないです。

ハイボール

トリスクラシックでは、ほのかに紅茶の香りが先にやってきて、その後はカラメルの甘い香りが追いかけてきます。
味わいは、炭酸からの酸味は少なく、かなり甘みが増した印象です。

一方でレッドでは、香りらしい香りが吹き飛んでしまい、何とか樽香があるかな、という感じです。
味わいは、少し苦みがあるものの、全体的には甘いです。

香り、味ともに上回るトリス


全体的にみて、ブレンドが改められたのが新しいトリスクラシックのほうが、香り、味わいともに上回っていました。
濃厚さという点では37度のトリスクラシックよりも39度のレッドが上回るはずですが、それでもレッドは全体的に薄っぺらさを感じました。

今後サントリーがレッドのブレンドを改める聞がないとなると、ひっそりと販売終了しても文句は言えないかもしれません。

かつてレッドがトリスをエントリーモデルの主流から追い出したことを考えると、しっかりお返しされたように思えます。