やる夫は空に中指を突き立てるようです
(やる夫エッセンシャル さん まとめ)
時は2077年の未来。
やる夫は普通の高校生だったが、ある日宇宙人の気まぐれによって
円盤で連れ去られ、解剖の末冷凍されてしまう。
同じ頃、些細な原因により世界では核戦争が勃発、世界は一度滅んだ。
そして200年。またも宇宙人の気まぐれはやる夫を襲い、
冷凍から解かれ裸一貫地球へと降ろされることになった。
ミントドリンクさんによる、核戦争後の世界を舞台としたポストアポカリプス世界観のゲーム、
Fallout3を原作とした長編。(…のDLC、「mothership Zeta」がメイン)
主人公はやる夫。
絶体絶命・裸一貫・生きる知識なしのただの一般人だったやる夫が、
絶望的状況下から命を繋ぎ這い上がっていく物語。
作者による綿密な取材・ロケハンはFallout3のみならず、
前作前々作にあたるFallout、Fallout2にも及んでおり、
世界観構築においては原作ファン納得の重厚さを見せる。
全ての人間が信頼などできず、モノどころか命まで奪い取っていく核戦争後の世界で、
一体どのように生き延びていくのか、というサバイバル的楽しみと、
この境遇に蹴り入れた宇宙人に、一矢報いることができるのかという
雌伏からの復讐劇という楽しみ方が絡み合う名作。
また、この物語は終了後すぐに連載された番外編と、
時系列・物語・登場人物が絡み合っており
必ず両作品を楽しんでほしい。三倍楽しめること請け合いである。
ああ、作品自体のスレタイトルには注意タグが連載途中からついており、
18歳未満の方は回れ右で。Fallout3も18歳未満禁止ゲームだしね。仕方ないね。
やる実は求めるようです
(やる夫エッセンシャル さん まとめ)
リンクは上と同じ。作品はページ真ん中から。
核戦争が起こり荒廃した地上を捨て、一部の人間は地下核シェルター、
Vaultにその生活圏を移していた。
そのVaultでたった一人の医者の娘として産まれたやる実は、
狭い世界の中でも幸せな日々を送っていたが、
ある日父親が、シェルター外へ出たという報せを受ける。
ミントドリンクさんによる、fallout3原作の物語再び。長編。
主人公はやる実。
上記した「やる夫は空に中指を突き立てるようです」の番外編として描かれているので、
そちらを読破してから読んだほうがいいのは当然。
クロスしていた物語が、向こうの主人公達が知り得なかった登場人物が、
ストーリーの裏側でどのようなことをしていたのかが語られる。
もちろん前作の答え合わせだけなどではなく、
やる実という今作の主人公が荒廃した世界で、
父親を追いながらどのような生き方を見つけるのかは見所のひとつである。
彼女はレズビアンであり、重度のジャンキーであり、
彼女自身は悲愴感の欠片もなく、パートナーを求めて、薬物を採りながら
人生を楽しんでいるように見える。
が、一皮剥けば普通の一般人。滅んだ世界で受けるストレスはいかばかりか。
刹那的幸福を求めて、精神安定を求めて、
薬物に頼らざるを得ない生活・戦いを続けて行く姿は、涙さえ誘う。
果たして彼女が燃え尽きるのが早いか、目的に達するのが早いのか。
目を離せない戦いの日々を、読んで共に楽しんで頂きたい。
続きを読むの折りたたみ下に、
いつも通りのネタバレ込み感想を書きます。
下を読むときは、作品を読んでからお願いしますね。
うおおおぉぉ今回も密度の濃い物語の連続!
圧倒的な人間の命の軽さ!
「銃で撃たれれば人間は死ぬ」って当たり前のことを
感じさせてくれる世界観の厳しさがたまらないぜーっ!
…失礼、取り乱してレイダーになってしまいました。
あまりに作品への感想を一言でも伝えたくて、
毎週毎週の投下終わりのミントドリンクさんへ、
覚えたてのtwitterで絡み感想を送りつけていました。その折は失礼しました。
でも、物語が面白くて感想を送らざるを得ませんでした、どうしても!
twitterでは投下直後に、その話毎の裏話ぽいコメントなども聞けて、
よければこれらの呟きを完結後ひとまとめにして、
一緒にまとめサイトに載せて頂きたかったほどでした。
その時にいろいろお聞きしましたが、ちょっと嬉しかったのが
「ギャル夫のイメージはジョン・マーストン(レッドデッドリデンプション)」で
イメージが一致したことでありました。
感想を細かく分けて、キャラたちのことから。
一番好きなキャラはボールでした。
「【Gearhead】やる夫は負け犬から這い上がるようです」(感想ページ下)でも、
人型ロボなのに人間くさくて、都合のいいところに融通の利かせながらも
ロボらしい頑なな部分のあるアイギスが大好きでしたが。
今作のボールは見た目も萌え所がない球体、
やる夫には絶対服従だけれど味方の晴香には敵愾心バリバリと
ロボらしいガチガチな思考をしているかに見えるというのに、
嘘はつく、独り言でボヤく、計算は得をするように間違う、と
全くロボらしくない部分が同居しているところが最高。
「なんか個人的に気になったので」とか、
デスレイ発射させといて「坊ちゃんが全て悪い」とか言うロボット、そうそういないよ!
物語途中でパワーアップを繰り返し、最後には宇宙を飛べるまでになるところも大好き。
あの最終決戦前の、「二人きりでの宇宙遊泳」は、実に良いシーンでした。
どことなく間が抜けてて実感のなさそうな、二人の掛け合いもステキ。
「味方なんていない」思考に堕ちていたやる夫の、
たった一人の絶対的信頼を寄せることのできる味方としても、いい相棒役でした。
二番目はやる実ちゃん。
レズビアンで薬物ジャンキー!こんなVault101のアイツ、二次創作でも見たことねぇ!
と、初登場時からのインパクトは充分。
よく考えたらこちらも、Pipboyが相棒のようなもの、
AIがパートナーという所はやる夫と同じでしたな。
薬物のためなら殺しや盗みもためらわない最序盤とか、
やる夫編の側で「ああ、やる実は原作ゲーム二週目の主人公ぽいな」と思わせるほど
効率的な行動、物凄いスピードで父親の背中を追う中盤までは
享楽的な普通のジャンキー…だと思っていたんですけれど。
レズも薬物も、荒廃した世界で父親を追う、
誰も信頼できない不安感とプレッシャー、ストレス払拭が根底にあると解ってからは。
彼女の心の内側が隠しきれず滲み出てくるようになり、
薬物の許容量がとっくに限界を超えても、使わざるを得ない戦いに突入する後半は。
彼女の脆さと儚さに心打たれるようになってしまいました。
大好きだったケーキも口を通らなくなる所なんて、涙なくしては読めない。
結局のところ彼女には、心から信頼できる人が最後の最後までおらず、
友人という関係、彼女が心を開けるまでに至ったのもたった二人、
会話を繋いで信頼を醸成できたスーパーミュータントのレオとフォークスのみだったことも、
その薬物依存に拍車をかけたと思う。
ウタさんとの関係も、友人とは違うものだと思うしね。
…やる夫の仲間たちに恵まれた境遇、その精神とは明らかに違うよなぁ。
同じ境遇・同じ目的の仲間たちに出会えたのみならず、出会った相手を信頼し、
信用する鈍感力が無いという所が、やる実の弱点でもあったなぁ。
fallout世界では無理のないところなんだけれども。
そんなギリギリ友人かそうでないかの関係、
望月との会話は実に楽しめるものでした。
言葉の裏全てに毒牙が、毒牙が見える!
父親ダディが原作fallout3の、
「あまり会話ができないので過去に何があったのか、
父親自身は一体何をしたのか全然わからない」けれども
なにか凄いことに関わって使命に燃える父親、などではなく。
やる実としっかり会話(格闘)をして、
やる実自身が父親が見つめるものに相対した上でその思いに納得し、
やるべきこととしてやる実自身の目的とする、
原作よりはるかに格好いい、父親と娘像として描かれていたのが本当に印象的でした。
そりゃあ、あの父親の思いを受け取ったからには、
立ち止まるわけにはいかなくなるよなぁ。
…父親との別れからの、ヨハネの黙示録21章8節を詠む姿と、
薬物過剰摂取を重ねて、より重ねて戦い続ける姿には涙が出ました。
ハッピーエンドで本当によかった。
原作的に考えて、犠牲となって終わりも充分にありえたから…!
三番目はやる夫。
改造人間にされたけれども、そんな実感のまるでない序盤に掘られるわ、
ほぼ全てを失った状態から始まるわ、再会したボールは破壊されるわ、
わずかな家庭の思い出のシェルターは宇宙人に完全破壊されるわと
不遇の主人公まっしぐらだった序盤が大好きです。
銃で自殺しようとして弾が出なくて、整備しているうちに自殺する気も失せる
エピソードが人間らしくて実にいい。
隣に居るのがあまり止める気もなさそうなボールというあたりも。
それでも同じ境遇である、過去からの生存者たちと仲間となってからは
それまでの不遇さも薄れて、
「友人とメシと銃さえあればポストアポカリプスも悪くない」という
ある意味幸せな日常が待っていた開放感もよかった。
仲間たちとすごく楽しそうにトランプやるシーンは好き。
その直後がバンカーバスターでも。
ものすごく仲間に恵まれた主人公だったなぁ。
ラストエピソードの、宇宙船乗っ取り軍団の一員として立派になった姿には
最初の頃にはない、成長した彼を感じることができました。
しかしやる実が苦難の末、きれいな水という名誉を手に入れたのに対して
やる夫は徹底して実利を手に入れたなぁ。
本編中で、やる実はやる夫のことをかなり下に見ていた感じがあったけれど、
エピローグでひっくり返された・足元を掬われた感があり、
すごく悔しそうだった印象があります。
後は…あーもう、どのキャラもどのイベントも大好きでたまりません。
晴香と新城の、アドラーとシュトロハイムとの、
二百年越しの邂逅なんて本当に好きな話で。
その直後にどうしようもない別れが来る点も良いのだけれど、
シリアスやっている当人達の周りの人間は、割とどうでもいいという
ドライなシビアさが本当に染み入る。
そうだよなー、自分に関係のない人間が二百年前どうこう言っても
「物資が手に入るぜヒャッハー」の方がでかいよなーと納得してしまった。
ラストエピソードで、しっかり死に別れたはずのシュトロハイムが、
蘇生までできそうなあたりの事を匂わせているのも
ミントドリンクさんならではの描き方を感じました。
普通の物語では、あれだけ壮絶に死んだものが
簡単に物語に復帰できるとは思えないぜ!エイリアン技術なら何でもできそうだが!
イベント各種について。
作者自身による原作ゲーム自体の取材どころか、
fallout(有志によって日本語化)、fallout2(現在もまだ日本語化できておらず)の
二つの前作を念入りにプレイしたということもあり、
登場人物の言葉の端々から匂う世界観の充実振りは美事の一言。
例えばボールの「水質濾過フィルター」のネタはfallout1からのものだし、
ダディが語る「G.E.C.Kの使用記録」というのも同じく。
その他、BoSとエンクレイブの確執の歴史など、濃いfalloutファンにも納得のできる
世界観の重みを感じる物語に仕上がっていた。
エピローグ後の話にも、続編fallout:NewVegasに繋がる話があったりと
原作ファンは頬が緩みっぱなしのはずだ。
…fallout、私自身は途中で積んでるな。プレイしないとなー…。
襲撃の被害者の生死をダイスで決めた、というイベントも実にこの作者らしく。
銃弾が身体に当たれば大怪我は当然、こんな荒廃した世界では大半が死ぬ。
登場人物も例外ではなく、弾丸の通り道に居れば死ぬのだとということを
容赦なく叩きつけてくれる現実感が、たまらなく好きだ。
死ぬことを物語内で予定されているようなMOBではなく、
生きていれば役割があっただろうキャラたちが、
ダイス目という運命ひとつで存在が掻き消える。
ああ、本当に、ここは命の重さ軽さが銃弾一発で吹き飛ぶ未来荒廃社会。
痺れるほど感動した。
総評。
中弛みもせず、開始からエピローグまで一気に駆け抜けた名作。
原作世界観を念入りに調査した上で、魅力的な登場人物たち。
FalloutのストーリーとDLCの魅力を、作者独自の観点で組み混ぜ合わせ、
文明の荒廃した世界を生きる二人の主人公を描ききった。
ただ拍手を送りたい。おつかれさまでした、ありがとう。
(やる夫エッセンシャル さん まとめ)
時は2077年の未来。
やる夫は普通の高校生だったが、ある日宇宙人の気まぐれによって
円盤で連れ去られ、解剖の末冷凍されてしまう。
同じ頃、些細な原因により世界では核戦争が勃発、世界は一度滅んだ。
そして200年。またも宇宙人の気まぐれはやる夫を襲い、
冷凍から解かれ裸一貫地球へと降ろされることになった。
ミントドリンクさんによる、核戦争後の世界を舞台としたポストアポカリプス世界観のゲーム、
Fallout3を原作とした長編。(…のDLC、「mothership Zeta」がメイン)
主人公はやる夫。
絶体絶命・裸一貫・生きる知識なしのただの一般人だったやる夫が、
絶望的状況下から命を繋ぎ這い上がっていく物語。
作者による綿密な取材・ロケハンはFallout3のみならず、
前作前々作にあたるFallout、Fallout2にも及んでおり、
世界観構築においては原作ファン納得の重厚さを見せる。
全ての人間が信頼などできず、モノどころか命まで奪い取っていく核戦争後の世界で、
一体どのように生き延びていくのか、というサバイバル的楽しみと、
この境遇に蹴り入れた宇宙人に、一矢報いることができるのかという
雌伏からの復讐劇という楽しみ方が絡み合う名作。
また、この物語は終了後すぐに連載された番外編と、
時系列・物語・登場人物が絡み合っており
必ず両作品を楽しんでほしい。三倍楽しめること請け合いである。
ああ、作品自体のスレタイトルには注意タグが連載途中からついており、
18歳未満の方は回れ右で。Fallout3も18歳未満禁止ゲームだしね。仕方ないね。
やる実は求めるようです
(やる夫エッセンシャル さん まとめ)
リンクは上と同じ。作品はページ真ん中から。
核戦争が起こり荒廃した地上を捨て、一部の人間は地下核シェルター、
Vaultにその生活圏を移していた。
そのVaultでたった一人の医者の娘として産まれたやる実は、
狭い世界の中でも幸せな日々を送っていたが、
ある日父親が、シェルター外へ出たという報せを受ける。
ミントドリンクさんによる、fallout3原作の物語再び。長編。
主人公はやる実。
上記した「やる夫は空に中指を突き立てるようです」の番外編として描かれているので、
そちらを読破してから読んだほうがいいのは当然。
クロスしていた物語が、向こうの主人公達が知り得なかった登場人物が、
ストーリーの裏側でどのようなことをしていたのかが語られる。
もちろん前作の答え合わせだけなどではなく、
やる実という今作の主人公が荒廃した世界で、
父親を追いながらどのような生き方を見つけるのかは見所のひとつである。
彼女はレズビアンであり、重度のジャンキーであり、
彼女自身は悲愴感の欠片もなく、パートナーを求めて、薬物を採りながら
人生を楽しんでいるように見える。
が、一皮剥けば普通の一般人。滅んだ世界で受けるストレスはいかばかりか。
刹那的幸福を求めて、精神安定を求めて、
薬物に頼らざるを得ない生活・戦いを続けて行く姿は、涙さえ誘う。
果たして彼女が燃え尽きるのが早いか、目的に達するのが早いのか。
目を離せない戦いの日々を、読んで共に楽しんで頂きたい。
続きを読むの折りたたみ下に、
いつも通りのネタバレ込み感想を書きます。
下を読むときは、作品を読んでからお願いしますね。
うおおおぉぉ今回も密度の濃い物語の連続!
圧倒的な人間の命の軽さ!
「銃で撃たれれば人間は死ぬ」って当たり前のことを
感じさせてくれる世界観の厳しさがたまらないぜーっ!
…失礼、取り乱してレイダーになってしまいました。
あまりに作品への感想を一言でも伝えたくて、
毎週毎週の投下終わりのミントドリンクさんへ、
覚えたてのtwitterで絡み感想を送りつけていました。その折は失礼しました。
でも、物語が面白くて感想を送らざるを得ませんでした、どうしても!
twitterでは投下直後に、その話毎の裏話ぽいコメントなども聞けて、
よければこれらの呟きを完結後ひとまとめにして、
一緒にまとめサイトに載せて頂きたかったほどでした。
その時にいろいろお聞きしましたが、ちょっと嬉しかったのが
「ギャル夫のイメージはジョン・マーストン(レッドデッドリデンプション)」で
イメージが一致したことでありました。
感想を細かく分けて、キャラたちのことから。
一番好きなキャラはボールでした。
「【Gearhead】やる夫は負け犬から這い上がるようです」(感想ページ下)でも、
人型ロボなのに人間くさくて、都合のいいところに融通の利かせながらも
ロボらしい頑なな部分のあるアイギスが大好きでしたが。
今作のボールは見た目も萌え所がない球体、
やる夫には絶対服従だけれど味方の晴香には敵愾心バリバリと
ロボらしいガチガチな思考をしているかに見えるというのに、
嘘はつく、独り言でボヤく、計算は得をするように間違う、と
全くロボらしくない部分が同居しているところが最高。
「なんか個人的に気になったので」とか、
デスレイ発射させといて「坊ちゃんが全て悪い」とか言うロボット、そうそういないよ!
物語途中でパワーアップを繰り返し、最後には宇宙を飛べるまでになるところも大好き。
あの最終決戦前の、「二人きりでの宇宙遊泳」は、実に良いシーンでした。
どことなく間が抜けてて実感のなさそうな、二人の掛け合いもステキ。
「味方なんていない」思考に堕ちていたやる夫の、
たった一人の絶対的信頼を寄せることのできる味方としても、いい相棒役でした。
二番目はやる実ちゃん。
レズビアンで薬物ジャンキー!こんなVault101のアイツ、二次創作でも見たことねぇ!
と、初登場時からのインパクトは充分。
よく考えたらこちらも、Pipboyが相棒のようなもの、
AIがパートナーという所はやる夫と同じでしたな。
薬物のためなら殺しや盗みもためらわない最序盤とか、
やる夫編の側で「ああ、やる実は原作ゲーム二週目の主人公ぽいな」と思わせるほど
効率的な行動、物凄いスピードで父親の背中を追う中盤までは
享楽的な普通のジャンキー…だと思っていたんですけれど。
レズも薬物も、荒廃した世界で父親を追う、
誰も信頼できない不安感とプレッシャー、ストレス払拭が根底にあると解ってからは。
彼女の心の内側が隠しきれず滲み出てくるようになり、
薬物の許容量がとっくに限界を超えても、使わざるを得ない戦いに突入する後半は。
彼女の脆さと儚さに心打たれるようになってしまいました。
大好きだったケーキも口を通らなくなる所なんて、涙なくしては読めない。
結局のところ彼女には、心から信頼できる人が最後の最後までおらず、
友人という関係、彼女が心を開けるまでに至ったのもたった二人、
会話を繋いで信頼を醸成できたスーパーミュータントのレオとフォークスのみだったことも、
その薬物依存に拍車をかけたと思う。
ウタさんとの関係も、友人とは違うものだと思うしね。
…やる夫の仲間たちに恵まれた境遇、その精神とは明らかに違うよなぁ。
同じ境遇・同じ目的の仲間たちに出会えたのみならず、出会った相手を信頼し、
信用する鈍感力が無いという所が、やる実の弱点でもあったなぁ。
fallout世界では無理のないところなんだけれども。
そんなギリギリ友人かそうでないかの関係、
望月との会話は実に楽しめるものでした。
言葉の裏全てに毒牙が、毒牙が見える!
父親ダディが原作fallout3の、
「あまり会話ができないので過去に何があったのか、
父親自身は一体何をしたのか全然わからない」けれども
なにか凄いことに関わって使命に燃える父親、などではなく。
やる実としっかり会話(格闘)をして、
やる実自身が父親が見つめるものに相対した上でその思いに納得し、
やるべきこととしてやる実自身の目的とする、
原作よりはるかに格好いい、父親と娘像として描かれていたのが本当に印象的でした。
そりゃあ、あの父親の思いを受け取ったからには、
立ち止まるわけにはいかなくなるよなぁ。
…父親との別れからの、ヨハネの黙示録21章8節を詠む姿と、
薬物過剰摂取を重ねて、より重ねて戦い続ける姿には涙が出ました。
ハッピーエンドで本当によかった。
原作的に考えて、犠牲となって終わりも充分にありえたから…!
三番目はやる夫。
改造人間にされたけれども、そんな実感のまるでない序盤に掘られるわ、
ほぼ全てを失った状態から始まるわ、再会したボールは破壊されるわ、
わずかな家庭の思い出のシェルターは宇宙人に完全破壊されるわと
不遇の主人公まっしぐらだった序盤が大好きです。
銃で自殺しようとして弾が出なくて、整備しているうちに自殺する気も失せる
エピソードが人間らしくて実にいい。
隣に居るのがあまり止める気もなさそうなボールというあたりも。
それでも同じ境遇である、過去からの生存者たちと仲間となってからは
それまでの不遇さも薄れて、
「友人とメシと銃さえあればポストアポカリプスも悪くない」という
ある意味幸せな日常が待っていた開放感もよかった。
仲間たちとすごく楽しそうにトランプやるシーンは好き。
その直後がバンカーバスターでも。
ものすごく仲間に恵まれた主人公だったなぁ。
ラストエピソードの、宇宙船乗っ取り軍団の一員として立派になった姿には
最初の頃にはない、成長した彼を感じることができました。
しかしやる実が苦難の末、きれいな水という名誉を手に入れたのに対して
やる夫は徹底して実利を手に入れたなぁ。
本編中で、やる実はやる夫のことをかなり下に見ていた感じがあったけれど、
エピローグでひっくり返された・足元を掬われた感があり、
すごく悔しそうだった印象があります。
後は…あーもう、どのキャラもどのイベントも大好きでたまりません。
晴香と新城の、アドラーとシュトロハイムとの、
二百年越しの邂逅なんて本当に好きな話で。
その直後にどうしようもない別れが来る点も良いのだけれど、
シリアスやっている当人達の周りの人間は、割とどうでもいいという
ドライなシビアさが本当に染み入る。
そうだよなー、自分に関係のない人間が二百年前どうこう言っても
「物資が手に入るぜヒャッハー」の方がでかいよなーと納得してしまった。
ラストエピソードで、しっかり死に別れたはずのシュトロハイムが、
蘇生までできそうなあたりの事を匂わせているのも
ミントドリンクさんならではの描き方を感じました。
普通の物語では、あれだけ壮絶に死んだものが
簡単に物語に復帰できるとは思えないぜ!エイリアン技術なら何でもできそうだが!
イベント各種について。
作者自身による原作ゲーム自体の取材どころか、
fallout(有志によって日本語化)、fallout2(現在もまだ日本語化できておらず)の
二つの前作を念入りにプレイしたということもあり、
登場人物の言葉の端々から匂う世界観の充実振りは美事の一言。
例えばボールの「水質濾過フィルター」のネタはfallout1からのものだし、
ダディが語る「G.E.C.Kの使用記録」というのも同じく。
その他、BoSとエンクレイブの確執の歴史など、濃いfalloutファンにも納得のできる
世界観の重みを感じる物語に仕上がっていた。
エピローグ後の話にも、続編fallout:NewVegasに繋がる話があったりと
原作ファンは頬が緩みっぱなしのはずだ。
…fallout、私自身は途中で積んでるな。プレイしないとなー…。
襲撃の被害者の生死をダイスで決めた、というイベントも実にこの作者らしく。
銃弾が身体に当たれば大怪我は当然、こんな荒廃した世界では大半が死ぬ。
登場人物も例外ではなく、弾丸の通り道に居れば死ぬのだとということを
容赦なく叩きつけてくれる現実感が、たまらなく好きだ。
死ぬことを物語内で予定されているようなMOBではなく、
生きていれば役割があっただろうキャラたちが、
ダイス目という運命ひとつで存在が掻き消える。
ああ、本当に、ここは命の重さ軽さが銃弾一発で吹き飛ぶ未来荒廃社会。
痺れるほど感動した。
総評。
中弛みもせず、開始からエピローグまで一気に駆け抜けた名作。
原作世界観を念入りに調査した上で、魅力的な登場人物たち。
FalloutのストーリーとDLCの魅力を、作者独自の観点で組み混ぜ合わせ、
文明の荒廃した世界を生きる二人の主人公を描ききった。
ただ拍手を送りたい。おつかれさまでした、ありがとう。