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文部科学省から理科・数学教育を重点的に教育するSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されている市川高等学校(千葉県市川市)。生徒が日々の勉強の成果を発表する場として、毎年、地域の小学生を対象にした「高校生が教える理科・算数体験講座」を開催している。
重点校の底力…30以上の講座を高校2年生が担当
同校恒例の「高校生が教える理科・算数体験講座」の開催日である7月12日、朝からたくさんの小学生とその保護者が同校に集まった。開講講座のリストをもとに、物理、化学、生物、算数の4ジャンル34講座を自由に体験して回れる。
この日、生物室で開講されていたのは「アンモナイトを作らナイト」という講座。熱を加えると柔らかくなるゴムを使ってアンモナイトのミニチュアを作るというもので、指導役は高校2年生。ミニチュア作りのコツを説明し、自分で作るように促すと、小学生たちはカラフルなゴムを型に押しつける作業にすぐさま熱中。高校生はその様子を見て回りながら、アンモナイトとは何か、いつ生きていた生物かといった説明をし、時には小学生に質問を投げかけていた。
講師役の高校2年生に話を聞くと、いかにして興味を持ってもらうかというところに一番心を砕いたという。
「ただミニチュアを作っただけで終わってしまってはつまらないと思ったので、アンモナイトに関するクイズを出して、それに正解できたら2種類の色のゴムを使っていいということにしたんです」
また、化学室での「Rainbow Water」という講座では、赤や青に色付けされた濃さの違う食塩水を混ぜ合わせ、試験管内に虹を作り出すという実験を実施。目で見て分かる変化なだけに、色を追加していくごとに歓声が上がった。狙い通りになったことで、高校生も指導する
どうすれば面白くなる?…教えるために学び、考える
高校生たちは、どうすれば講座の内容がより面白くなるか、興味を抱いてもらえるか創意工夫を重ねている。このようにあれこれと頭をひねってもらうのもひとつの狙いだと語るのは、SSHの授業を担当する冨永蔵人講師。
「人に教えるためには幅広い知識が必要になりますから、ときには授業で扱う範囲外のことについても調べなければいけません。より深く調べたり、ちょっと脇道にそれたりすることは理科や数学の面白みに気づいたり、より奥深いところまで知りたいという好奇心を持つきっかけになるんです」
また、小学生に実験のどの段階から参加してもらうか、どのように説明するかといった見せ方を考え、実際に発表するのも生徒にとっては大きな経験になるという。
「切り口を考えることは、ひとつの現象をさまざまな視点から見ることですから、その科目についてより深く考えることになりますし、自分が分からないところを見極めることにもなります。さらに、講座を経験した生徒は発表がぐんとうまくなるんです。人前で話すことに慣れるというのはもちろんあると思いますが、理解してもらうとか興味をひくという点では、小学生は、大人よりも難しい相手といえますから、その分、生徒たちも話し方や言葉遣いに気をつかうのでしょう」
生徒にとって「高校生が教える理科・算数体験講座」から得るものは非常に多いが、地域や学校にとっての利点も少なくない。
学内の雰囲気、生徒たちの姿勢…地域の人に知ってもらう
今回の「高校生が教える理科・算数体験講座」には地域の小学生200人とその保護者が参加。実験に没頭している子どもを見守っていた保護者に話を聞くと、学校のことを知る絶好の機会だという声が聞かれた。
ある保護者は「さまざまなテーマがコンパクトにまとまっているので、子どもはアトラクション感覚で楽しんでいます。学内の雰囲気を見られるのはもちろん、実験を指導してくれる生徒さんたちの姿勢から、学校の教育方針とか教育が行き届いていることが分かったので、来たかいがありました」と語った。
同講座は、学校のことを広く地域の方々に知ってもらう場としての意味合いも大きいと冨永講師は語る。
「SSH指定校だということを知ってもらっていても、実際にどんなことをしているかはなかなか学外には見えません。理系授業の実態を知ってもらうと同時に学校の雰囲気も体験してもらえる非常に良い機会だと思っています。また、SSH指定校として、一人でも多くの理科好き、数学好きの子どもをつくることが使命だと思っていますから、そのきっかけになればとも思っています」
SSH指定校として、地域にその成果を紹介するために行われている「高校生が教える理科・算数体験講座」は、実験を体験する小学生だけでなく、市川中学校・高等学校に通う生徒にとっても意義深いイベントになっている。
(文・写真 葛西由恵)
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