完了しました
はるか西に富士山を望み、東側には湘南の海が広がる神奈川県藤沢市の丘陵地帯。その一角に学びやを構えるのが、カトリックの中高一貫女子校、聖園女学院中学校・高等学校(神奈川県藤沢市)だ。
同校では毎年6月上旬に球技大会を開催している。梅雨空をものともせず、3日間にわたり、生徒たちが熱戦を繰り広げる。
取材に訪れた6月6日は大会3日目。普段は鳥のさえずりが聞こえる閑静なキャンパスも、この日ばかりは「ごきげんよう」という、いつにも増してはつらつとした挨拶を交わす声が響きわたり、非日常の趣があたり一面に漂っていた。
学年ごとにそろいのTシャツ、生まれる一体感
この日は冷たい雨の降るあいにくの天候だったが、大会会場である体育館は、外の寒さが吹き飛ぶほどの熱気に包まれていた。2面あるコートでそれぞれバスケットボールとバレーボールの試合の真っ最中。真剣な表情でボールを追う生徒たちの気迫はもちろんだが、特筆すべきは、1フロア上にコートを囲むようにして設置されているジョギングコースに列をなした生徒たちからの熱烈な声援。学年ごとにそろいのTシャツに身を包み、自分たちでアレンジしたはやりの曲を歌って踊って、選手にエールを送る。
その迫力に驚いていると、「こうした応援は、いわばわが校の風物詩。女子パワーってすごいでしょう」とは、球技大会の運営に携わる新村美紗子教諭。
「以前は、替え歌を歌ったり、ダンスを踊ったりすることはなかったのですが、みんなで声援を送るという伝統は昔から変わりません。自分のクラスが負けてしまっても応援は終わりません。今度は同じ学年のチームを応援するんです。最後には、優勝チームと先生チームが親善試合を行うのですが、その試合では、生徒全員で応援します。ここで、クラスを超えた結束が生まれるのはもちろん、学年を超えて生徒同士の絆も強くなるんです」
応援の輪は回を追うごとに大きくふくらみ、やがて一つの輪となって、生徒たちの間に一体感が生まれるというわけだ。
優勝チームと先生チーム対戦…心の距離が縮まる
先生と生徒が戦う親善試合の効果も実に大きい。「先生と真剣勝負をして、距離が縮まったように思います」「ミスをする姿を見て、先生も私たちと同じなんだと思いました」という生徒たちの声が、その意義深さを物語っている。
こうした感想は生徒に限ったことではなく、親善試合に参加した教師陣からも聞こえてくる。
「普段はおとなしい生徒が、ボールを取ろうと必死で向かってくる姿を見て、この子にもこんなエネルギーがあるんだと気づかされました」「生徒は、球技大会を通して、みんなで一つの目標に向かって頑張ることの素晴らしさ、楽しさを身をもって学んだと思います。こうした経験は、今後の学校生活や受験にも生きていくでしょう」
この大会は生徒のみならず、教師にとっても、今後の指導のヒントを得る絶好の機会となっている。
審判、メンバー表整理…大会の運営も生徒が担当
これだけの大会となれば運営するのも一仕事だが、試合の審判やメンバー表の整理など、その大部分は生徒たちが行っている。とりわけ、運営の中核を担った高校2年生たちの得る高い達成感は、次に紹介する感想でも明らかだ。普通の学園生活では得られないものだ。
「審判を担当する生徒に試合時間や規則、各チームのキャプテンに細かなルールを伝えるなど、伝達事項がたくさんあってパニックに陥ったこともありました。そんな調子ですから、話をちゃんと理解してもらえたか不安で、何度も確認するなど気苦労が絶えませんでしたね。また、みんなをまとめる立場だったので、自分のことだけでなくまわりに常に気を配らなければいけないという責任も重かったですね。それでも、そうしたことを乗り越えた分、以前に比べて落ち着いて周囲を見ながら行動できるようになったと思います」
球技大会は、運営に携わった生徒にとっては、コミュニケーション力やリーダーシップを身につける絶好の機会にもなっている。
生徒も先生も一緒に「反省」…互いを高め合う
一丸となって試合に臨み勝利を重ねたチームに絆が生まれ、生徒同士の仲が深まるのは分かりやすいが、負けてしまったチームはどうなのだろうか。球技大会の責任者である高橋祥太教諭はこう語る。
「負けてしまったクラスでは、当然、『もっとうまくできたんじゃないか』『あそこであの子が決めていれば』といった話が出ることもあります。そんな時には、生徒と同じ目線で、それぞれの気持ちを聞き、教師も生徒と一緒になって話し合います。こうしたことを乗り越えることで、生徒は人を思いやることを学び、他者を認めた上でより建設的な意見を出し、互いを高め合える関係作りをしていきます」
雨降って地固まるを体現する聖園女学院の球技大会は、生徒に成長のきっかけを与え、協調性を育み、クラス、学年を超えた学校全体の絆を強める絶好の機会。子どもから大人に差し掛かる中高生にとって欠かすことのできない大切な行事といえよう。
(文と写真:葛西由恵)
聖園女学院中学校・高等学校について、詳しく知りたい方はこちら