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歪んだパズルのつなげ方

悲恋姫†無双

後話 第十一話 刀華は星霜に霞まず

 
 日輪は地を離れ

 中天に差し掛かって尚

 鋼を打ち合う音は鳴り止まなかった

 しかし、それを見守る者達は、誰も武器振るう彼女に、掛けるべき言葉を持たず

 笑みを消した真剣な眼差しも

 獣の様に漏らす、力を腹に溜めた息吹も

 振るい続ける武器が上げる、唸る音も

 ・・・誰かに止められることを、拒絶していた。

 三年

 洛陽の街に鳴り響く、鋼の悲しげな響きが

 人前では明るく振る舞う彼女の・・・慟哭だと

 額を流れ、顎の先から、あるいは髪の先から散る珠の汗が

 決して見せることのない、彼女の涙だと

 知る者が止めることを躊躇った日々は重ねられた。



 掌を見せるように片手を上げ、相手の動きを押し止めてから、小さくはない息を漏らしたのは青髪の美女。
 肩を軽く回し、数度首をひねりながら、緊張に硬くなった身体をほぐしていく。
 あくまで訓練、練習ではあるのだが、実力の伯仲した者同士でのそれは、さながら実戦の様
 気を抜けば、あっさりと四肢の一本も失ってもおかしくはない。

「すまんが、少し休憩を挟ませもらうぞ。
 こう認めてしまうのは些か抵抗があるのだが・・・
 竜胆大姉はやはりバケモノだ
 華や霞の・・・皆の相手を汗ひとつかかずにやっていたのだからな」

 言いながら、保冷器に入れられていた水を湯飲みに注ぎ
 喉を鳴らして、一杯、二杯と立て続けに空け、喉の渇きを癒していく星。
 その白い喉の美しさを見せつけるように、顎を上げたまま視線を横へとながし
 僅かに眇めた目を向け、唇の端を僅かに楽しそうに歪める
 
「して北郷殿、何も女の乳や尻を眺める為にわざわざ参ったわけでもあるまい。
 貴殿から見て気がついたことがあれば、遠慮はいらん、存分に言ってはもらえないだろうか。
 それがしも霞も、丞相殿に恨みがましい目で見られる危険を犯してまで、そなたに此処に来てもらっているのは、伊達や酔狂ではないのでな」

 横で二人の剣戟の応酬を呆然と見つめていた一刀に声をかける。
 実戦で、一影を相手にしながら武の無い一刀が生き残ったという事実と・・・
 華琳から一影の戦闘法を見抜いたのは一刀だと聞いて、星が呼んだのだが。

 その際、華琳からはどうにも友好的とは言いがたい目を向けられているのは、月が一刀の子を妊ったという事実が無関係ではあるまい。
 星の皮肉に彩られたような、からかいの口調にも、場の空気は軽くなろうとはしなかった。

 話を振られた一刀は、静かに頷いて一つ大きく息をつくと、静かに首を振り



「全然、話にならない。
 それが『魔王』の模倣だというのなら・・・アイツへの侮辱だ」



 そう霞の三年間を、否定した。

 思いの外強い否定の言葉に、水を向けた星が言葉を失い、強い視線を一刀に向けるも
 一刀はといえば、むしろそんな視線を向けてくる星に、非難の色が強い瞳を向け返す。

「何故はっきりといってやらないんだ、趙子龍・・・それ以上続けても、無駄だと」

 俯いたまま、荒く肩で息を付いている霞の背が、その一言で小さく震え
 流石に反論のために口を開きかける星が、一刀の目に気圧される。

「張文遠の武の天稟は一流だろう。
 それは戦った俺達も、そして轡を並べた君達も・・・いや、この国の誰もが知っている。
 そして、弛まぬ努力を続けてきていることを、誰も否定できない、いや誰にも否定などさせない
 だが、それでも・・・いまやっていることは、唯の真似事だとはっきりと言える」

 一旦言葉を切り、奥歯をかみしめて、覚悟を決める。

 この先を口にすれば、張文遠に、或いは趙子龍と二人から、必殺の一撃が繰り出されかねない。

 だが、それでも・・・逃げる訳にはいかない。

 何しろ、『魔王』には借りがある

 一人の相手に受けるには大きすぎ、返し切れない程の借りが・・・それも二度もだ。
 


 『命の借りは、命で返せ』



 恩を受けて仇で返すのが当たり前の戦乱の最中
 あの『魔王』が、此方がそれを忘れないと一方的に押し付けた信頼。
 その重さを、一刀は今はっきりと感じていた。

「確かにフェイント・・・虚実は凄絶な程に巧妙で
 まるで掠めるような紙一重での見切りも、『魔王』のやっていたことのように見える。
 静と動の視覚での錯覚も、相手の意表をつけるだろう・・・
 それでも、そんなものはアイツのやっていたことじゃない、まがい物だ」

 その信頼に応えるために、たとえ斬られてでも

 もう止めさせなければならない、こんなことは・・・

「張文遠、アンタはどんなに足掻いても・・・『魔王』にはなれない」



 骨の軋む不快な音が、霞の握りしめた拳から漏れ響く。
「・・・な・・・と、・・・っとる」

 漏れでた声は、怨嗟の響きと、慟哭の調べの・・・

 一体どちらに似ていただろうか。

「それでもなっ、アイツが一影が此処に居たて
 どんだけ凄いやつやったかってっ
 どんだけの・・・泣き言呑み込んで逝ったかって・・・
 ウチには、こんな事でしか・・・残せないやんか」

 霞のその想いがわかっていただけに、星も黙って霞の訓練に付き合い
 仲間も霞を止められずに、霞のやりたい様にやらせていた・・・

 距離が近い分だけ

 思いが理解できる分だけ

 止めなければと思う分だけ、止められずに。

 霞の頬に光るものを認めた星が、そっと一刀の視線から霞を守るように身を割りこませる。
 


 一刀が尚も言葉を続けようと口を開いたが、その言葉が唇を離れる前に・・・
 力強い快活な声が、真っ向からそれに割ってはいった。
「それは違うぞ張遼」

 近寄ってくるなり、一刀の背を・・・あくまで本人にとっては、軽く叩き。
 一刀が余りの強さに数歩よろけ、顔を苦痛にしかめる。
「良く言った北郷、多少は腰が引けた物言いだが・・・
 それでも、『神速の張遼』に真正面から喧嘩を売るとは少々見なおしたぞ。
 しかし、そんなつもりでこの三年を過ごしていたのか張遼・・・
 あまり、我が友を馬鹿にするなよ」

 振り向き、霞に・・・その前に立ちはだかる星に向けた表情は、怒り。

「お前もだ趙雲。
 張遼がこんな事で悩んでいたのなら、すぐにも教えてくれればいいものを・・・
 何故三年間も黙っていた」
 その物言いに、目をまんまるにしていた星が・・・
 こみ上げてきた笑いに耐えられず、思わず吹き出す。

 よもや、これほどわかりやすく悩んでいた霞の姿を見ていながら

 華が、その原因に思い至っていないとは思わなかった・・・

 その想いを言葉にすることは出来ず、湧き上がる衝動に逆らい得ずに
 腹を抱え、喉の奥で人の悪い笑い声を上げる。

「いや、済まない・・・慣れない仕事をしている華に、余計な負担をかけまいという
 皆の心遣いであったが、どうやら無用であったな」
 とっさに口からでた誤魔化しだったが、華雄はすんなり納得し、うなづいてのけた。

「一影が此処に居た証を、どれだけの男であったかを残したいという気持ちは私も同じだ
 名も、墓も、命すらも擲って、董卓様に治世を託し、戦乱を打ち止めた男だぞ・・・
 だがなっ、その掴んだ先の平和な世で、お前が俯いた表情で過ごし
 前を向けないでいてまで、自分の事を後世に残す・・・そんな事を望む男では、決してないっ
 お前の中の一影は違うのか、張遼っ」

 強引に霞の顔を上に向けさせ、鼓膜の破れんばかりの大声で、真正面から怒鳴りつけ

 次の瞬間には、あっさりその襟元から手を放し、不敵な笑みを浮かべてみせた。

「大体にして、お前がそんなしおらしい真似をしても似合わん。
 馬鹿笑いして酒を飲み、大騒ぎをする姿を洛陽の民に見せてやれ」



 華雄が拳で軽く霞の胸を突く。



「『神速の張遼』が、丞相のふれ回った法を犯し、街中で酒を飲む。
 洛陽の民がこれ以上喜んで酒の肴にする話題はないぞ
 我が友を、過小評価するな張遼」
 





   

~ Comment ~

NoTitle 

久々に覗いたら更新されていてうれしさがこみ上げました。

みんな悩んでるな・・・・・・

そして一刀よく言った。

NoTitle 

この時代には無い武器・無い防具を前提とした戦場に在らざる理念、流派を元とするゆえ、例え達人といえども形を模倣しきれぬのは道理。
とは言え、現実の剣道の試合で、竹刀に重りを入れた不正改造(重さを変えず重心を変える)ですら、熟練者になれば動きを見て分かるモノなのですが、重さの無い得物を振っていたことに気がつかなかったものなのか……。

という無粋な感想が真っ先に思いついてしまいました。


それはさておき、
朧タソはまーだーーーーーかーーーー!!!
何ヶ月でも全裸待機で待っております!!

NoTitle 

更新お疲れ様です。
毎日楽しみにチェックさせていただいておりますw

相変わらず華雄は人の裏を読めない分人の奥をしっかり覗いていますね。
遠慮や察することに苦手でも核心を突いてくる華雄は一影のよき理解者であったんだと改めて感じました。

次回も楽しみにしていますのでごゆっくり執筆ください。

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Re: patishinさん 

コメントに感謝を。

もう読んでいる人もおるまいと思っていたので、コメントを貰えて嬉しい限りです。
今回は、華雄さんと一刀の男らしさ
霞の可愛らしさが出ていると思ってもらえれば成功かなと思っています。

Re: NoNameさん 

コメントに感謝を。

正直に言いますと、予想通りのと言うと言い過ぎですが、くるかなぁ~という内容のコメントでした。
武器の重さが無いことと、一影の戦闘法はほぼ無関係で、また一刀の知っている剣術とも罰ものです。
霞が再現しようとしていたこともやはり違います。

一影の戦闘法ですが、根本原理は四十五話辺りを読んでもらえれば解るかと想いますが・・・一影に多少手解きを受けた朧や幽であっても再現はできません。
原理的に、人を捨てないと成り立たないものですので。

先の方はある程度頭の中で出来ているのに、そこに至るお話がイマイチ浮かんでこないと言う現状
気楽に気長に覗いていただければと思っております。

Re: chaloffさん 

コメントに感謝を。

華雄さんは、小細工や裏を読めないですが、相手の本質をちゃんと理解できる
それ故に、一影の理解者になり得たと読んでいただけたこの感想は、とても嬉しいです。

迷わず突き進む華雄さんとは逆に、なんでも出来る霞は悩みこんで、『自分は何も出来ない』と
引っかかってしまう、今回はそんなお話でした。

のんびりまったり、書きたい衝動に身を任せての執筆で
頭の中にはある程度の筋道がありながら、お話の核となるインスピレーション待ちで・・・
『もう続きはいいだろう』とも半分思っていたのですが

何時になるとは明言できませんが、頑張ります。

Re: 鍵付きコメントさん 

コメントに感謝を。

後話はあくまでおまけで蛇足と、私自身も思っております。
悲恋姫は二百九話で完結なのは、物語的にもそして、私の心情的にも事実であろうと。

実は後話を書くにあたって、後話の最終話はキーワードをつけて、それを解けた方だけが読めるようにしようかと
そんないたずら心とともに始められたお話だったりします。
ですので、先のそのあたりは、ある程度頭の中には出来上がっているようなかんじなのですが・・・
そこへ至る道筋のお話が、なかなかに衝動が沸かず手こずっているような現状です。

読んでいただいている方も気長に、のんびりと構えていていただければと、願っております。

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Re: 鍵付きコメントさん 

コメントに感謝を。

そのあたりの解釈は、実際の所書いた者が口を出さないほうがいいのかなぁとも思ったりします
読み手の方の中で、納得の行く解釈が出来ているのであれば、それが読み手の方の真実ではないかなと。
それでいいと、私としては思っております。

仰るとおり、武器の重さ云々は下駄です。
下駄を履かなければ、武器を振るう速さもスタミナも、気が狂うほどの鍛錬と、何度も死にかけるほどの実戦を積んでも、元一刀である一影が将を相手にすることなどむりであろうと思っております。

その上で、戦闘法は技術でも武力でもない所を根幹にしていて

戦術レベルの策を戦闘レベルで巡らせ、相手の呼吸や間を外し~というところまでが、作中のキャラも見抜ける辺りで。
その本質は、人体という共通するアーキテクチャーによる、無意識の共感能力を逆手に取る
『技』でも『術』でもなく、相手が人型であるということを無理やり弱点にするために、自分の共感能力を捨て去っているので、端から見ると、『不気味で』『気色悪い』と見える動きになる・・・という、十重二十重に理解できなさを塗り重ねたもので
『自然の中に不自然を混ぜる』とか、虚実というものは、あくまで作中の第三者視点による評ですよ、と。

本当であれば、読んでいただいたお話の中で、読まれた方がそう思っていただけるようにかければいいのですが、その点はひとえに私の文才のなさ故なので、ひらにご容赦を。

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