写真:AP/アフロ
イスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区への激しい爆撃が続く中、同地区の病院に収容されていた36人の未熟児の赤ちゃんの「命」が世界中の関心を集めた。病院は電気や燃料が止められ、保育器が使えなくなっていた。
No food, water, electricity or baby formula, babies in Al-Shifa hospital can only cry until they die, & I doubt @JoeBiden will try to count them pic.twitter.com/l7sRcqtOmb
保育器が使えなくなり、急ごしらえのベッドに寝かされる未熟児たち
10月7日にあったハマス(パレスチナのガザ地区を実効支配する武装組織)によるイスラエル奇襲から一カ月以上も経った11月15日、ガザ地区最大の病院、アル・シファ病院にイスラエル軍が突入した。病院の地下にハマスの本部もしくは司令部があるというのが突入の根拠だった。
それ以前よりガザ地区は電気、水、燃料、食料などの供給が停止され、保育器も使えなくなっていた。医師たちは体温維持のためにアルミホイルを敷き詰めた仮のベッドを作り、極めて小さな赤ちゃんたちはそこに寝かされていた。
ガザへの容赦ない爆撃が開始されて以降、ネットには連日、現場の生々しい写真や動画がアップされ続けている。爆撃を受けて血まみれとなった子供の写真。それを抱えて号泣する親。切断された腕や脚の写真もある。瓦礫の埃にまみれて石膏像のように白くなっており、現実味を伴わない。崩壊した建物の瓦礫の山から、やはり真っ白になった腕や足だけが突き出ており、そのサイズから子供だとわかる動画もある。大人たちは素手で必死に瓦礫を掘り起こそうとしている。
This photojournalist dug through the rubble with his bare hands to find his children after an Israeli airstrike hit their home in Gaza. pic.twitter.com/zbNh1DfcAq
フォトジャーナリストの男性。イスラエルの爆撃によって5人の子供のうち4人を亡くした。
病院には家族全員が死亡し、ケガをしながらも独りだけ生き残った子供だけが送り込まれてくるという。年長の子供は自分の名前を言えるが、小さな子供は身元が分からないと報じられている。
こうした映像を毎日見つめ続けていた全世界が、保育器から外されて死にゆく赤ちゃんたちの映像を見てしまった。未熟児ゆえに片時も目を離せない脆弱さとはいえ、電気さえ通じていれば保育器の中で成長できる小さな命だ。その命が消えつつあるのを世界は救えず、できることはネット上でひたすらに見つめ続けるだけなのだ。この焦燥感、無力感たるや。
生き残っても、精神に深い傷
ガザ地区はわずか365km²の狭い土地に220万人が暮らしており、うち半数が子供だ。10月7日以降の犠牲者数は11月20日現在で約13,000人。パレスチナ赤新月社は、そのうち5,600人が子供であり、さらに3,500人の子供が瓦礫に埋もれたまま行方不明になっていると発表している。
イスラエル軍は住宅だけでなく学校や病院への爆撃も続けており、生き残った子供の多くが精神的な傷を負っている。ニューヨークタイムスの記事は、爆撃を避けてシェルターに移った一家の子供たちが夜に怖がって「ボクたちは死ぬ!」「死にたくない!」と叫ぶのだと記している。何千人、何万人の子供が今、同じ状態にある。ユニセフは今回の戦乱状態になる以前でさえ、ガザの子供の4分の3、80万人にメンタルヘルス支援が必要と見積もっていた。
The children of Gaza have dreams too, even while living in a nightmare…
「戦争だから」医師になって人々を助けたいと語るガザの少女。
ハマスの人質に30人の子供
現在、世界中でイスラエルに即時停戦を求めるパレスチナ支援のデモが起こっている。その一方、シオニスト(ユダヤ教徒/ユダヤ系のうち、イスラエルをユダヤの国とする主義者)による、イスラエル支援デモも起こっている。両者の対立は激しく、逮捕者も出ている。
特に問題を引き起こしているのが人質のポスターだ。ハマスは10月7日にイスラエルを襲撃して1,200人(*)を殺害し、約240人を誘拐して今も人質としている。人質となった人々のポスターが作られ、ユダヤ系アメリカ人の多いニューヨーク市など、米国各地の街頭にも貼られている。そのポスターを「イスラエル側のプロパガンダである」として、パレスチナ支援者が剥がす姿があちこちで撮影され、SNSにアップされている。
*当初1,400人とされていたが、うち200人はハマス戦闘員の遺体であったとイスラエルが公式発表
You have to be a special kind of evil to rip down posters of women and children being held hostage (all with a big smile on your face).
ニューヨーク市。人質のポスターを剥がす女性。撮影はイスラエル出身の男性。
イスラエル側の犠牲者1,200人+人質240人に対して、パレスチナの犠牲者はすでに13,000人。しかも爆撃が続く限り、犠牲者は増え続ける。イスラエルの攻撃が「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼ばれる所以だ。
イスラエルの最終的な目標はガザの全人口をエジプトの難民キャンプに移すことだとも言われている。自国から特定の民族を消滅させる「民族浄化」とも呼ばれる所以だ。
イスラエルに、ネタニヤフ首相に、「爆撃を今すぐ停止しろ」と訴え続ける義務が全世界の市民と、米国を含む国々にあると言える。
だが、イスラエルの計画がなんであれ、さらに誘拐された当人の政治思想がなんであれ、誘拐から45日が経っている。イスラエルとアメリカ、特にニューヨークを行き来するイスラエル人、ユダヤ系は多く、あるニューヨーク在住の女性は乳幼児3人を含む親族5人が人質となっている。
人質には生後9カ月、3歳児の双子、5歳児など、約30人の子供が含まれている。また、タイからの農業労働者の約50人を含む、140人程度の外国人も含まれる。これまでに計5人が解放、またはイスラエル軍によって奪還されている。ハマスは人質約70人がイスラエルの爆撃によって死亡と発表しているが確認は取れていない。
30人の子供たちはいまだに人質のままであり、しかも生死は不明だ。世界はハマスに「人質を即時解放しろ」と訴えなければならない。
イスラエルは即時停戦せよ
イスラエル軍の病院突入から4日経った11月19日、WHOの主導により、ガザ北部にあるアル・シファ病院の未熟児たちはガザ南部にある別の病院に移送された。移送までに5人の赤ちゃんが亡くなり、31人のみが救出された。全員が深刻な感染症にかかっており、11人は重体。救出側は赤ちゃんの近親者を見つけることが出来ず、どの赤ちゃんも家族の同伴はなかった。翌日には28人がより良い医療環境を求めて隣国エジプトの病院に移された。
アメリカを筆頭に、イスラエルに即時停戦を求めない国々のリーダーに怒りが湧く。ガザの子供たち、人質の子供たちをこれ以上死なせないためにも、私たちは、世界は、イスラエルに即時停戦を求めていくしかない。
追記:11月22日、イスラエル政府とハマスの間で人質交換の交渉が成立した。人質50人(女性と子供)と、イスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人150人(女性と19歳以下)が4日間で交換され、その間は停戦となる。
Today, 28 of the 31 premature babies, who were evacuated from the Al-Shifa hospital yesterday, were safely transferred in Al-Arish to receive medical treatment in #Egypt. From there, 12 babies were flown to Cairo.
ガザからエジプトに搬送される28人の未熟児の赤ちゃん。
テドロス・アダノムWHO事務局長によるポスト。