EU「難民締め出し」新協定合意のウラで、ドイツが移民法改正を閣議決定「難民→移民→帰化」が最短3年に

川口 マーン 惠美 プロフィール

「国境付近」をどこにするか

いずれにせよ、EUの目的は「難民を減らすこと」であるため、どのみち難民資格を取れる見込みの少ない安全な国(チャンスが20%以下の国)からの申請者は、できれば7日間で審査を終え、母国に戻す方針だ。

これまではどこが安全な国かという明確な規定がなかったが、今後は、モロッコ、チュニジア、バングラデシュなど、完璧な民主主義とはいえなくても、別に人権蹂躙などが起こっているわけでもない国を正式に安全と規定し、さっさと帰ってもらう予定だという。

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ちなみにオーストラリアは、すでに10年以上も前から、船でたどり着いた難民は全部、飛行機に乗せてパプア・ニューギニアに運び、そこに移住させるという方法をとった。これにより、オーストラリアを目指す難民が激減したことは言うまでもない。しかし、その代わりに、オーストラリア政府は国連の選んだ“本当の”難民を、上限を決めて受け入れている。

やはり多くの難民を抱えて困っている英国は、今月の初め、アフリカのルワンダ政府と協定を結び、英国に違法で入ってきた難民をルワンダに移送すると決めた。ルワンダはそれらの難民を人権の守られない国に再移送しないという約束で協定を締結し、1.4億ポンドを受け取るという。将来、この協定が本格的に作動すれば、もちろん、難民にかかる経費の全ても英国が負担する。

英国もオーストラリアもEUの縛りがないので、国益と人権擁護の兼ね合いを見ながら、自分たちで良いと思った政策を行使できるというメリットがある。そしてEUはというと、この英国方式を非難しつつも、実は、自分たちの「国境付近」も、チュニジアやアルバニアといったEU外の第3国にできないものかと思案中だ。

チュニジアは、地中海を渡ってくる難民の積み出し港だし、アルバニアは2009年から延々と続いていて一向に進まないEU加盟交渉に、何らかの突破口が欲しい。EU側はどれだけお金がかかっても難民を減らしたいと思っているから、どちらも意外とスムーズに交渉が進むかもしれない。

 

今回、EU28ヵ国の意見がなかなか纏まらなかったのは、イタリアなどの負担を軽減するため、各国が難民をそれぞれの人口や経済力に応じて平等に引き受けようという取り決め。これは以前より求められているが、絶対に嫌だという国がある。そこで今回は再度の決裂を防ぐため、難民を引き受けない国は、難民一人につき2万ユーロのペナルティを支払えば良いことになった。

しかし、ハンガリーの外相は、「何ぴとであっても、我々に、我が国に誰を入国させるかを指図することはできない。ましてやそれを拒絶したからといって罰せられることは断固拒否する」と、今も強硬。ただ、EUでは各国の主権よりもEUの決定の方がレベルが上なので、ハンガリーはおそらく逃げきれない。なお、スウェーデン、オーストリアなども、難民よりもペナルティを選ぶことになりそうだ。

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