島に着くと、すぐにゾロとロビンが船を下りた。
いつもはグダグダしているゾロが「行きましょう?」の
ロビンの一言で、さっさと支度をして姿を消した。
おかしい。
クルーの誰もがそう思った。
なにか二人だけの秘め事でもあるのか、それともロビンが
重たいものでも買いに行くのか。いずれにしても、
ゾロがやけに素直なのは、普通ではない。
「ま、ゾロが素直になってロビンと険悪にならなくなったのは
いいことだわ。あのまま、かわいいゾロになっちゃえばいいのよ」
ナミが心底たのしそうに言う。
「カワイイ?あのクソ剣士のどこがカワイイんですか、ナミさんっ」
一応、お決まりの反論をしてみるが、確かに素直なゾロというのは
男から見ても子供っぽい。普段の凶悪面が影を潜め、
素直にうなずく姿は「かわいい」と形容しても問題ない。
今までもクルーたちは何度もそのかわいいゾロを見たことがあるが、
ロビンの前だけはその顔をしなかった。
それが最近はロビンを仲間と認めたのか、あどけない顔でしゃべっている姿を
よく目にするようになった。
「さて!私たちも行きましょうか!サンジ君、荷物、頼むわね」
「はい!ナミさん、お任せをっvv」
ルフィたちを午後からのお出かけの組に分けたので
昼までには帰らなくてはいけない。
ゾロは、用事をさっさと済ませるために、ロビンの後を
迷わないように付いて歩いた。
「なぜ、後ろを歩くの?迷うわよ?」
ロビンが振り向いてゾロに言うと
「背後から攻撃されたら見えねーだろ?お前。オレは気配でわかるから後ろにいる」
なんとも戦闘員らしい答えが返ってきた。
「ふふっ。並んで歩けば、二人同時に気配を感じれて
早く行動できるじゃない。私は剣士さんの気配が強すぎて、かえって
敵の気配がみえないわ」
ゾロは立ち止まったまま、じっとロビンを見る。
この女はやはり、気配に敏感なのだ。後ろに目こそ出してないが、
能力のおかげで、死角というものが無いのかもしれない。
つくづく、苦手なタイプだ。自分と、、、似ている。
「わかった。並んで歩く」
素直なゾロの言葉にロビンは微笑を深くする。
「かわいいわね、本当に」
「あぁ?誰が?」
「あなたよ、剣士さん。もし弟がいたら、こんな感じかしら」
「げっ。ぜってーヤダね。お前の弟なんざ」
そっぽを向いて口を尖らせるゾロがまた可愛らしくて
ロビンは内心、本当は”弟”じゃなくて、”私に子供がいたらこんな子供か”と
思っていたことは胸にしまっておく。
にぎわう商店街につくと。ロビンたちは雑貨屋に入った。
そこには女がすきそうな小物がたくさん売っている。
まったく興味が無いゾロは、ただボンヤリとロビンの手にとるものを
目で追っていた。
「これくらいかしら、大きさ」
ロビンが手のひらに乗せた小さな木箱をゾロの前に差し出す。
「は?」
「バラの砂糖菓子の大きさ、コレに入るかしら?」
「!!!」
ゾロはその場で固まってしまった。
昨日、ロビンから貰った、サンジの芸術作品(ゾロにとっては)を
どこにしまっておけば良いのか困っていたのだ。壊れやすい砂糖菓子。
ルフィに見つかると食われる。荷物の中に入れておくと壊れる。
仕方が無いので、ウソップのガラクタ置き場から「ボトルキャップ」を
二個持ち出して、それをあわせた中にバラを入れて
今もハラマキのなかに隠し持っている。
このバラは本当にキレイだと思った。
サンジが心をこめて作ったのがわかる。自分へじゃなくて、ロビンへのモノだが
それでも、食われてしまうのがイヤで、恥をしのんで貰ったものだ。
サンジという人間の片鱗を見るような気がするこの砂糖菓子。
なんとバカバカしいと思いつつも、告げられない想いに苦しむゾロにとっては
サンジを感じれる宝物だ。
ロビンが持っている木箱は本当に小さく、バラを入れるのに
丁度良い大きさ。ボトルキャップのサイズだ。
何もかも、お見通しのロビン。
ゾロは、むかつくのを通り越し、切なくて苦しくなる。
「なんでもわかったような顔をしやがって、、、このっ、、」
それ以上言葉をだせば涙さえも溢れそうだった。
イカレているのは自分なのだ。この異常な想いをどうにかしたくて
ロビンにもついてきたのだ。
美しい彫刻のようなこのバラを木箱に納めて、自分の気持ちにもフタをするほうがいい。
新しい服でも着て、気分一新、また、最強だけを目指してがんばればいいんだ。
ゾロがうつむいて歯を食いしばっていると
ロビンが箱を買っていた。
「入れてみて?今、持っているのでしょう?」
ゾロはもう、言われるままに砂糖菓子をその箱にいれた。
そして、そっとバラをひと撫でしてからふたを閉じる。
「もう、これでいい。二度と見ねぇ」
「見たっていいじゃない。想うことが何故いけないの?」
「、、、、苦しいだけでいい事なんてない。それに邪魔な想いだ。
鷹の目はそんな乱れた気持ちで倒せるほど甘くはねぇ。」
「本当に不器用ね、あなたは」
「お前に言われたくねーよ。それより服でも買いに行くか」
ゾロは、ふっきるようにあえて明るく言った。
気分転換でもなんでも、サンジのことを考えないことなら
何でも出来そうな気分だ。
二人はまるでデートのように服を選び、ロビンがあまりに絶賛して
着て帰れと強く言うので、買った服の中からラフなものを選んで
着てみた。
「別人ね。ふふっ。思ったとおり、かわいいわ」
ロビンもいつになく楽しそうだ。
ゾロはどこが別人なんだかさっぱりわからないが
とりあえず、気分転換には違いないのでそのまま二人で店を出た。
船への帰り道、大荷物を持ったサンジはナミの後をついて歩いていた。
いったん船へ戻って、荷物を置いたらまた、食材を調達しに
市場へ戻らねばならない。ナミの買い物に付き合いながらも
ちゃんとめぼしい店のチェックはしてきた。
アレコレと考えていると、突然、ナミが立ち止まる。
「ナミさん、どうしたの?」
聞いてもナミは答えない。不思議に思ってナミの目先を追うと
そこには誰もが振り返るような美男美女のカップルがいた。
美女の方はロビン。
そして膝までの黒いカーゴパンツに
上はラフなTシャツを重ね着した、今どきのカッコいい男。
ベルトに3本の刀を携えて、、、、
「、、、ゾロ!?」
ナミがようやく口を開く。
「ちょっと!どこぞのアイドルかと思ったらゾロじゃない!!」
たしかにゾロだ。しかし、ロビンと楽しげに歩いている姿は
「ロロノア・ゾロ」とはだれも気付きはしないだろう。
魔獣どころかナミのいうようにアイドル級だ。
現に周りの通行人が振り返って二人を見ていく。そうとう目立っている。
「ゾロー!ロビンー!」
ナミははしゃいで彼らの方に走っていく。
サンジはいまだゾロからめをそらせず、呆然と立ち尽くしていた。
偶然とはいえ、ゾロは、ここでサンジを見たくは無かった。
まだ、さっき、気持ちを入れ替えようと決心したばかりだ。
この顔を見たらまた胸が痛くなる。
帰り道、女二人が盛り上がっている後ろを
無言の二人がとぼとぼとついて歩いた。
サンジはサンジで頭がグチャグチャに混乱している。
なんでオレが動揺しているんだっ。ゾロが違う服を着て笑って歩いていただけなのに。
ロビンと歩くゾロにヤキモチを焼いたのか、
ゾロを手なずけたロビンにヤキモチを焼いたのか、、、いずれにしても嫉妬だ。
このイライラは、この焦りは嫉妬以外には考えられない。
サンジは行き場の無い怒りを抱えていた。
「うおぉ!ゾロ!かわいいぞっ、お前!!」
帰りを待っていたルフィがメリーの頭から叫ぶ。
ウソップも馬子にも衣装だと手を叩いている。
そんなクルーたちを見て、さらにサンジはイライラが増幅していく。
あんなカワイイ格好をしているゾロもいけないのだ。
服もそうだが、無防備にもほどがある。いつものしかめっ面はどこに消えた?
あんな、、、顔立ちの整ったかわいい男。男でも女でも、、、惚れてしまいそうに、、、
惚れて?
自分の思考がとんでもないところに行ってしまって我に帰る。
アホか。オレまでおかしくなるところだった。
サンジは慌てて頭を振り、こんな時はナンパだ!と思い立って、
出かける準備をしようと、男部屋に向かった。
バン!と突然ドアを開けると、
そこには慌てた様子のゾロがいた。
後ろには何か隠している。
「な、なんだっ」
ゾロが緊張気味に聞いてくる。サンジはイライラの頂点に達した。
「剣豪さん、ずいぶんと可愛らしくなりましたねぇ。ロビンちゃんに
骨抜きにされたか?ん?」
わざとイヤミを言ってしまう。
いつもなら怒鳴り返すはずのゾロはもういない。黙ってそっぽを向いているだけだ。
「そんなに具合がいいのか?ロビンちゃんって。へぇ~、オレも
味見しとけばよかったなぁ。」
一瞬、キッとサンジを睨んだゾロだったが、
「あの女とはそんなんじゃねぇ。勘違いすんな」
そう言って、また暗い影を落とす。
なんなんだ、なんなんだ!!!コイツはゾロじゃねぇ!!
ただのカッコかわいい、そこらの19のガキだ。
イライラする。コイツをフヌケにしたロビンにも
こんな、、、、色気を振りまくような儚いゾロにも!!
サンジはソファに座っていたゾロを突然押し倒した。
そのせいでゾロの手に握られていた小さな木箱が床に落ちる。
「はっ。もう指輪でも交換したのか?あぁ??見かけによらず
手が早いなお前。戦闘以外では能無しだと思っていたのによぉ!!」
サンジにはもう、自分の行動すらも制御できないほど
頭に血が上っていた。あの木箱をみて、キレてしまった。
「離せっ。テメェには関係ないだろう!?どけっ!どけよっ!!」
ゾロが必死で抵抗する。
”関係ない”といわれてサンジは逆上した。
ゾロから一瞬手を離し、足を振り上げ木箱に向かって振り下ろす。
『ヤメテクレ!!!!』
ビュンという風の音、そしてその後に
グチャという何かがつぶれた音。
サンジの靴の下には血だらけのゾロの手と、
その下につぶれた木箱があった。
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想い 3 へ
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