『想い』
ロビンが仲間になってから、サンジはさらに忙しくなったような気がする。
ナミだけに特別に出していたキレイなデザートも今や二人分だし、
おやつの時間もいつもより仕込みに時間がかかっている。
くだらないケンカから発展するゾロとの乱闘もずいぶんと
少なくなった。ナミやウソップは喜んでいるが
実のところゾロにとっては面白くない。
長い航海ではいくら鍛錬しても実戦の勘は、やりあわなければ
どうしても鈍る。サンジの超人的な蹴りは、ゾロにとって
格好の訓練だった。隙を見せればやられる。その緊張感は心地よく、
自分にはない身のこなしも、参考になるほどだ。
そのケンカもめっきりしなくなっている。
サンジは前にもましてキッチンに篭っている時間が長い。
遠くからラブコック調の甘えた呼び声が聞こえる。
昼食からずっとキッチンにいたサンジがようやく甲板に出たらしい。
「ナミすゎ~んvvロビンちゅゎ~んvvおやつの時間で~す♪」
ゾロはその声を聞くたびにムカついていたが、
最近では呆れた溜息しか出てこない。
仕方ないのだ。ヤツはラブコックなのだから。
思えば、二人のケンカは唯一サンジの目を見ていても不自然じゃない時間だった。
初めて睨みあった時。その目の青さに驚いた。
本当に透き通った青色。オールブルーとやらがあるのならば
きっとこんな色なんだろうな、と漠然と思ったりもした。
ケンカもしてないのにサンジの姿を目で追ってしまうことに気付いた時、
ゾロは自分の中の”異常”な気持ちを自覚した。
好きなのだ。あのサンジが。
何度もそんなはずは無いと思ってみても、サンジの行動が気になって仕方ない。
近づかれると胸が苦しくなる。その瞳を見ていたいのに
自分から目をそらしてしまう。
他人に興味なんてなかった。
特別な存在はくいな一人。そして目指すは世界最強。
だが、この船に乗ってからというもの、
知らずに自分の中で失いたくないものが出来てきてしまった。
ルフィはもちろん、他のクルーもすでにいるのが当たり前の家族だ。
そうなった今でもサンジだけはどうしても
家族のような気持ちになれない。
よほど嫌いなのかと自問しても背中を預けられるほど男を
嫌いな訳がないし、たまに二人きりになった時の
自分の意識のしようといったら、ただ事ではない。
どんどんハマっていく自分を止められないまま、
想いも心の奥に無理矢理しまいこんだままでいた。
それなのに、ここにきてロビンが現れた。
まるでゾロの心の中を知っているかのような
物知り顔の言葉には何度も冷や汗をかいた。
まさかこの想いを知っているはずがないとは思うものの、
からかうような物言いには、いい気がしない。
”コックさんなら倉庫よ?”などと、別に捜してもいないのに
いや、無意識に捜したのかもしれないが、ズバリ言われるとムカツク。
でも、、、そもそも自分が悪いのだ。男のクセに男を想う自分がバカなのだ。
自己完結しようとして、また、胸が痛くなる。
こうやって気持ちを押さえ込むのも、もう限界かもしれない。
島へ上陸するたびにナンパに行くアイツを見るのにも、
ナミやロビンに優しいアイツを見るのにも、
もう、、疲れてしまった。
必死で気持ちを悟られないように、ぶっきらぼうに接していたが
気を抜けば「好きだ」と言ってしまうかもしれない。
最近では顔もまともに見れないでいる。
もう、本当に忘れなければ自分はダメになる。
こんなに心を乱されていていては、鷹の目にだって勝てやしない。
「このクソ剣士っ!!何度呼べば返事するんだよっ、おやつだっつってんだろ!」
サンジがキッチンのドアを開けて呼んでいる。
(意識するな。意識するな。考えるな。見るな)
ゾロは、呪文のようにそう唱えてから、顔をあげてキッチンへ向かった。
キッチンでは可愛らしく切り分けた小さい二つのケーキと
大皿にドーンと丸いケーキがあった。
サンジは男用の大きなケーキを切り分けたり、女性たちに紅茶をセットしたりで
大忙しだ。そんなサンジを視界に入れないように
ゾロはひたすら遠いところを見ていた。
「剣士さん、こっちのケーキの方がいいの?ちょっと小さいけど」
「あぁ?」
「だって、あなた、じっと見ていたでしょ?このケーキ」
ロビンがクスクスと笑いながらゾロのそばにケーキを持ってやってきた。
たまたま目をそらしていた方角にロビンのケーキがあったらしい。
「いや、そーじゃねぇ、、、」
と、そのケーキをふと見ると、可愛らしい砂糖細工の花が乗っていた。
とてもキレイで繊細なバラの花を模ったそれに
ゾロの目は釘付けになった。多分、かなりの時間をそれに費やしたのだろう。
食べてしまうにはあまりにもったいないと思うほどの作りだ。
ナミの皿を見ると、オレンジの違う花の砂糖菓子になっていた。
「この花も食えんのか?」
「ふふっ。食べれるわよ?砂糖で出来ているもの。気に入った?」
「、、、すげぇ、、、」
この会話をサンジも聞いていればさぞ喜ぶだろうが
あいにくルフィを叱るのに忙しい。
呆然と小さな砂糖菓子を見ていたゾロの手に、ロビンはそっと花をのせた。
「あげるわ。コレはしばらく腐ったりしないから取っておいても大丈夫よ」
ゾロははっとしてロビンを見上げるとやわらかい笑顔と目が合った。
「い、いらねっ。お前の為に、あいつが作ったんだろっ。」
顔から火が出そうだ。ロビンは知っているのかもしれない。
サンジを好きだという、馬鹿げたこの想いを・・・・・・
逃げ出してしまいたいほどに恥かしく、そして悲しかった。
「美しいものを美しいと感じるのは当たり前のことだわ。
あなたには、、、いいえ、私にとってもその感情は不慣れなものだけれど」
ロビンはからかっているように見えなかった。
むしろ、彼女はゾロも何もかもを理解しているような気配すらする。
ゾロは、真相はどうあれ、開き直って素直にロビンに言った。
「、、、、、。これ、くれ。」
うつむいて、それはそれは小さな声で。
あまりに不器用なゾロにロビンは優しくうなずいた。
皆がケーキを食べ終わり、お茶を飲んでいると、
サンジがナミが着ている新しいTシャツを誉め始めた。
「ナミさんって洋服のセンスもバツグンだよね~。何着ても似合うけど
この色、最高に似合うよ♪」
「ありがと、サンジ君。次の島でもお買物するから、荷物もってね♪」
「モチロンです~vv食材買ったらただちにお供します~vvあ、ロビンちゃんの
荷物もちもするからね~~♪」
サンジは相変わらすのご機嫌だ。目はハートになっているし
メロメロ状態だ。そんな姿は一刻もはやく視界から消そうと
ゾロが立ち上がった。手には大事な砂糖菓子。見つからないようにしまっておきたい。
そのときロビンが意外なことを口走った。
「あら、私はいいわよ、コックさん。ちょっと剣士さんを借りて
別行動をさせてもらうわ」
「あぁ?何言ってんだっ!オレはいかねぇぞ!」
キッチンから出ようとしたゾロは慌てて叫んだ。
ロビンと出かけるなんて冗談じゃない。それでなくても
なんとなく避けたい相手なのに。
「あら、いいじゃない♪付き合ってあげなさいよ、ゾロ。
ついでにアンタの服も見立てて貰ったら?そろそろ
ハラマキも卒業しなさいよ、ゾロ。あんた本当はかなりいい男なんだし?」
「ナミさん、何をおっしゃるんですかっ!このクソマリモのどこが、、、」
サンジがとんでもない、というように反論すれば、
「別にハラマキでもゾロはカッコいいぞ!」と船長。
「確かにキレイな顔立ちには間違いない。睨んでなければ」とウソップ。
「ゾロはあったかくて、やさしいぞ♪」と、チョッパー。
そして、「そうね。服を買ってあげるわ。変身しましょう?剣士さん」
そのロビンの言葉に、”ふざけるな!”と叫ぼうとしたゾロが
口を開けたままとまる。
「変身?」、、、今の自分を変えれるかも知れない?
「えぇ、そうよ。目指すものは変わらないけど、服を変えると
気分も変わるわよ?どんな服を着ていても最強を目指せるでしょう?
気分転換にちょっといつもと違うことをするだけ」
やけに説得力のあるロビンの話にゾロも心を動かされた。
「、、、あぁ。そうだな。たまにはいかもしれねぇ」
ポツリとつぶやいてゾロはキッチンを後にした。
「なんかゾロ、変じゃない?いつもならザケンナ!とかいって
怒る場面だったのに。ま、でも、ゾロの着せ替えって楽しそう!
ロビン、何枚か買ってあげて?お金あげるわ♪」
ナミもゾロの変身が楽しみなのか、「あの」ナミが金を出すことになった。
後片付けで一人キッチンに残ったサンジは、どうにも納得いかない。
ゾロの様子がおかしいし、ロビンがやけにゾロにかまう。
いつもなら警戒心丸出しで不機嫌になるはずのゾロも、
素直にロビンの言葉にうなずいていた。
「まさか。ロビンちゃん、アイツを落としたのか!?」
普通なら、ゾロがロビンを、と考えるだろうが、それはゾロを知るならば
ありえないと思って間違いない。あの天然ボケのゾロが女を口説き落とせるはずが無い。
だとすればロビンが、、、、、。それならばありえる。
ロビンは初めからゾロを同類を見るような目で見ていたからだ。
はっ。だからって別にどーでもいいけどなっ。
そうは思ってみるものの、ジワジワと焦るような、追い立てられるような
おかしな感覚にとらわれる。
「なんでオレ、イライラしてんだ。くだらねぇ。」
ロビンがゾロと出かけるからどうだと言うのだ。
自分だってナミと出かけるのだ。ゾロがロビンの荷物もちをしても
おかしくはない。ロビンがゾロを気に入っているのなら、
至極当然のなりゆきというものだ。
サンジは深く考えないように、仕事に集中した。
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