おねうじちゃん~前編

ちっぽけな林に実装石の一家族が住んでいました。

秋もそろそろ終わりになろうかという頃です。その家族が今日も集めたどんぐりを秘密の隠し場所に持ってきました。

「四女ちゃん、それも入れるデス。家族でずっと頑張ったので沢山貯まったデス、これで冬もゆうゆうデスー」

四女ちゃんと呼ばれた子が言いました。

「アマアマはそのときのお楽しみテチ」

ちいさい蛆ちゃんがダダをこねます。

「アマアマたべたいレフーいますぐたべたいレフー」

大きな蛆ちゃんがたしなめました。

「ちっちゃいウジチャわがままはダメダメなんレフー」

「オネウジチャのいうとおりテチ、ちっちゃいウジチャ後でプニプニいっぱいしてあげるから我慢テチ」

「プニフープニフー」

「おまえたちはほんとにイイコデスーママの誇りデスー」

この林はあまり食べ物がありませんでしたが、その貧相さ故に他に実装石はいなかったので安全でした。

少なくともこの日まではそう思っていました。


しかし翌日この家族がいつものようにどんぐりを集めて隠し場所にいってみると、知らない実装石が4匹、勝手に漁っているではありませんか。

その中の片目が焼き潰れた成体実装が言いました。

「デヒャヒャ公園を追い出されて仕方なく来たチンケな林デスが、早速こんなものを見つけるとはラッキーデス日ごろの行いが良いからに違いないデス」

四女ちゃんたち家族が冬の楽しみにと大切に取っておいたお菓子を4匹で遠慮なくパクついています。

「ママ、ママ、ワタチのアマアマ食べられちゃうテチ、やっつけて取り返すテチ」

「無理デス…争ったら絶対に死人が出るデス、命あっての物種デス…」

「そんなテチ…」

片目実装が3匹の中実装に命令するのが聞こえてきます。

「どんぐりも全部うちに持って帰って蓄えにするデス、お前ら手伝うデス」

家族は大切な蓄えが目の前で根こそぎ奪われていくのを物陰から見ていることしかできませんでした。


それからほどなく雪が降り始めて、丁度必要な時に蓄えを失った家族は連日ひもじい思いをしていました。

ママは仕方なく毎日寒い中ゴハン探しに出掛けますが、手ぶらで帰る日がほとんどでした。

子供たちはもちろんダンボールのおうちでお留守番です。

「ママとオネウジチャはここよりずっとずっとサムいオヤマのうまれレフ」

おっきい蛆ちゃんの声がダンボールの中から聞こえてきます。

「ママはきょねんのアキはじめて3ビキのコドモをうんだレフ。オネウジチャはスエッコだったレフ」

どうやら家族の昔のお話のようです。四女ちゃんは真面目そうな顔で聞いています。

「オヤマではアキのコドモはみんなカナシイコトされるオキテレフ。ウジチャはムラのゴハンになるレフ」

四女ちゃんは悲しそうな顔になりました。

「あるヨル、ママは3ビキのコドモをつれてヤマからにげたレフ。ヤマをカッテにおりることはオキテヤブリレフ。オッテがかかるレフ」


おっきな蛆ちゃんのお話は続きます。

「オッテはこなかったレフ。ママはオババサマがナサケをかけてくれたといってないたレフ」

「でも2ヒキのオネチャはトリとニンゲンのワナでシんじゃったレフ」

四女ちゃんは今にも泣き出しそうです。

「このハヤシでママとオネウジチャはフユをこしたレフ。」

「ハルになって4じょちゃんとちっちゃいウジチャがうまれたレフ。カゾクのサイコウのシアワセレフ」

四女ちゃんはうっとりした表情になりました。

「4じょちゃんはホントにこのオハナシがスキレフ~オネウジチャ、もう100ペンはオハナシしてるレフ~」

呆れた感じでおねうじちゃんが言うと

「だってだって大好きなお話なんテチィィィ…オヤマ生まれの実装のホコリを感じるテチィィィ…」

四女ちゃんはちょっと照れながら答えました。


「プニプニさいこうレッフンプニフープニフー」

四女ちゃんはお話を聞きながらちっちゃい蛆ちゃんをプニプニしてあげていたのでちっちゃい蛆ちゃんは上機嫌です。

そんな様子をおねうじちゃんがじっと見ているのに四女ちゃんが気が付きました。

「オネウジチャもプニプニしてあげるテチ、お話のお礼テチ」

「お…おねちゃをバカにしちゃだめなんレフ。プニプニなんてとっくにそつぎょうレップン」

「おねちゃもウジちゃんテチ、恥ずかしがらなくていいテチ。プニプニしてもワタチのおねちゃテチ」

「そ…そうレフ?それじゃおねがいするレフ…」


ママが帰ってきました。

「雪がどんどん降ってくるデス…ゴハンは…当分厳しそうデス」

四女ちゃんは「おなか空いたテチ」と言いたかったけど止めました。

お腹はすごく空いていましたが、こんなに頑張っているママに心配をかけたくなかったのです。

「でも今日はコレがあるデス」

ママが手に持っていた袋をあけました。

袋には2匹の蛆ちゃんが入っていました。

「うじちゃんテチ?かわいいテチ!」

四女ちゃんは1匹を抱き上げました。

「オネチャだれレフ?はじまちてレフン。うじちゃイイコにするレフかわいがってくださいレフン」

抱き上げられた蛆ちゃんがご挨拶しました。

「ちゃんとご挨拶できてとってもイイコテチー今プニプニしてあげるテチ」

「プニプニレフ?うれちいレフンだいちゅきレッフン」

「お顔舐めたらくすぐったいテチ~」

四女ちゃんは可愛くて素直な蛆ちゃんにすぐに夢中になりました。


「余計なことしなくていいデス」

ママが四女ちゃんが抱きかかえていた蛆ちゃんを奪い取りました。

ママは何かしてもらえるのかと嬉しそうな蛆ちゃんの首を掴み、そのまま引きちぎりました。


ママは首のない蛆ちゃんの体を四女ちゃんに投げて言いました。

「今日のゴハンはお肉デス。皮は剥いといたデス早く食べるデス」

「ママなんてことするんテチ!うじちゃんゴハンじゃないテチ!」

ママの顔が怒りの形相に変わりました。

「ママが食えと言ったら黙って食うデス!」

「食べないテチー!うじちゃんご挨拶のできるイイコだったテチー!ワタチのお顔ペロペロしてくれたテッチィィー!」

いつも優しいママのあまりの豹変振りに四女ちゃんは戸惑いながらも必死です。


「絶対食べないテチィィィィ!」

抵抗する四女ちゃんにママは馬乗りになって蛆ちゃんお肉を口にぐいぐい押し込んできます。

「食べ物を粗末にするのは糞虫デスー!さっさと食うデスー!」

見かねたおねうじちゃんが止めに入ります。

「4じょちゃんシんじゃうレフー!ママやめてレフー!」

しかしママは取り合わず、千切った蛆ちゃんの首を投げました。

「お前たちはこれでも食うデス!」


四女ちゃんは全部吐きました。ほとんど空っぽのお腹の中のものまで吐きました。

「情けない仔デス」

ママがボソリと言いました。

おねうじちゃんとちっちゃい蛆ちゃんは投げ与えられた蛆ちゃんの首を食べました。

「ひさしぶりのゴハンおいちいレフ~とくにこのキラキラがおいちいレフ~きっとコンペイトウレフ~」

ちっちゃい蛆ちゃんはおつむ空っぽなので、嬉しそうです。

「レフェェェェ」

おねうじちゃんは何も言わず泣きながら食べました。


翌日はドングリでした。

また蛆ちゃん肉だったらどうしようと思っていた四女ちゃんは2粒のドングリをほっとして受け取りました。

2匹の蛆ちゃんもママに寄ってきました。

「ウジチャもドングリだいちゅきレフーはやくちょうだいレフー」

「蛆ちゃんたちのドングリは無いデス。お前たちのゴハンは今日からウンチデス」

信じられないママの言葉にちっちゃい蛆ちゃんが泣き出しました。

「レフェェェェン!ウジチャもドングリたべるレフー!うんちなんかたべないレフー!」

四女ちゃんが助け舟を出しました。

「ワタチのドングリ1粒ウジチャたちに分けてあげるテチ、それならいいテチ?」

しかしママは低い声で言いました。

「ママの言ったことがわからないんデス?ママの言いつけが守れない仔は今すぐお家から出て行くデス」

四女ちゃんは黙るしかありませんでした。


それからも四女ちゃんだけドングリ2粒の日が続きました。ドングリ2粒は決して十分な量ではありませんでしたが、それまで何も食べない日が続いていたことからみたら遥かにマシでした。

それが10日ほど続いた日のことです。

「ウンチおいちくないレフーもうウンチイヤイヤレフ…」

ちっちゃい蛆ちゃんが泣きながらウンチを食べています。

「ちっちゃいウジチャわがままはダメダメレフ…」

それをおねうじちゃんがたしなめましたが、ちっちゃい蛆ちゃんは止めません。

「オネチャだけドングリずるいレフ…ウジチャもドングリたべたいレフ…」

そんなやり取りはこのところ毎日のことでしたが、四女ちゃんは良心がとがめるのに遂に耐えられなくなりました。

「ひとかけだけあげるテチ…」

四女ちゃんはちょっとだけ身のついたドングリの皮を蛆ちゃんたちに差し出しました。

「ありがとうレフン!オネチャだいちゅきレフン!」

「ダメレフー!ママのいいつけはまもらなくちゃレフー!」


「大丈夫テチ、ママはさっき出て行ったばかりテチ見つからないテチ」

「おいちいレフッおいちいレフッおねちゃありがとなんレフ」

ちっちゃい蛆ちゃんは涙を浮かべながらほとんど皮だけのドングリのカケラをちっちゃなお手々で押さえて食べはじめました。

四女ちゃんがいつの間にか後ろに立っていた影に気づいたのはそのときでした。

「ママレフー!?」

「ママテチー!?」

音もなく背後に仁王立ちになっていたママにびっくりした四女ちゃんはちょっとだけお漏らしをしてしまいました。

「おいちいレフ、おいちいレフ」

ちっちゃい蛆ちゃんはドングリのカケラに夢中のままです。


「ごめんなさいテチ!ごめんなさいテチ!ほんとにちょびっとだけだったテチ!ゆるしテチ!」

四女ちゃんはちっちゃい蛆ちゃんを抱きしめながらママに謝ります。

「量の問題ではないデスゥゥゥ」

「オネチャなんでないてるんレフ~?ドングリおいちいレフ~」

ママは全然状況がわかってない蛆ちゃんを四女ちゃんから乱暴に奪いました。

「いたいレフーいたいレフー!ママどうちたんレフ~もっとやさしくしてレフ~!」

ママは暴れる蛆ちゃんを手早く裸にすると、躊躇することなくかじりつきました。

「いたいレフたちゅけてレフ~!ママうじちゃのことたべないでレフ~!レピィィィィィ」

命乞いを気にすることなくママは蛆ちゃんを食べてしまいました。

「これでもう迷わないデス?もっと早くこうしておけばよかったデス」

このところやせこけてきているママの顔は悪鬼のようでした。


その夜、四女ちゃんはちっちゃい蛆ちゃんの空っぽのおくるみを抱きしめて寝ました。

「ちっちゃいうじちゃん血だらけになって食べられちゃったテチ…もうプニプニしてあげられないテチ…」

四女ちゃんはおくるみをぎゅっと抱きしめながら声を殺して泣きました。

おねうじちゃんも一緒に寄り添って泣きました。


翌朝、ママはいつものように出かけて行きました。

「行くテチ!」

釘を手に四女ちゃんが立ち上がりました。

「そんなものもってどこいくんレフ?」

釘は家族のただ一つの武器。ただ事ではないことはおねうじちゃんもすぐにわかりました。

「あのママは偽者テチ!昨日のちっちゃい蛆ちゃんを食べた時の顔を見たテチ?悪魔の顔だったテチ!動かぬ証拠を押さえてやっつけるテチ!」

「ちっちゃいうじちゃんのアダウチレフ?おねちゃもいくレフ!」

2匹は家の外に出ました。雪は一時的に止んでいました。

「寒いテチー!あんよ冷たいテチー!」

「おなかつめたいレフー!」

雪が降るようになってからウンチ以外には一度も外に出ていなかった2匹は寒さにくじけそうになります。

「こんなことにまけてられないレフ!あとをつけるんレフ!」

「そうテチ!こっちのほうテチ!」

2匹は足跡を辿って歩き始めました。


普通なら仔実装の足で成体の歩みに追いつくはずはないのですが、ママ?はすぐに見つかりました。

「テッテレー♪」

ママは家からそれほど離れていないところにしゃがみこみ、左目の上から血を流しながら蛆ちゃんを産んでいました。

「い…妹ちゃんテチ?!」

四女ちゃんの考えでは目の前にいるのは偽者ママのはずなのに思わずこうつぶやいてしまいました。

ママが左目をこすると出産は終わりました。生まれたばかりの2匹の蛆ちゃんがママの元に寄ってきます。

「ママはやくべたべたとってレフ~」

「おっぱいちょうだいレフ~」

ママは1匹を抱き上げて言いました。

「わたしはママだけどママじゃないデス。なめなめもおっぱいもしてあげられないデスごめんなさいデス」


「なんでそんなイジワルいうんレフ?ウジチャいまさっきママのおまたからでてきたんレフ、ちゃんとおぼえてるレフェェェン」

「ウジチャむずかしいことわかんないレフ~なめなめしてレフ~おっぱいちょうだいレフェェェン~」

泣きだした2匹の蛆ちゃんをママはベタベタするのも構わずそっと抱きしめました。

「ママを許してデス。でもあなたたちはおねちゃんの役に立つデス」

「ウジチャたちにオネチャがいるレフ?!どんなオネチャレフ?」

「お前たちみたいにとっても賢くて優しいおねちゃんデス。」

「はやくオネチャにあいたいレフ~プニプニしてもらうんレフ~」

「ウジチャ、オネチャのためにがんばるレフ~」

2匹の蛆ちゃんを抱きしめるママの顔はやせこけてはいても優しいママの顔でした。


生まれたての蛆ちゃん達を抱えて歩き出したママのあとを付けていくと、みたことのないダンボールの家の前にやってきました。

「誰のおうちテチ?まさか…」

中にママが入ったのを見計らって2匹はこの家に近づきました。

「…ここから中が覗けそうテチ…」


中を覗いた2匹はびっくりしました。

中にはいつか自分たちの蓄えを盗んだ片目実装達4匹と沢山の蛆ちゃん達がいて、蛆ちゃん達は皆酷い目にあっていました。

まるで蛆ちゃん達の地獄でした。

中にはどんぐりもありました。自分たち家族がせっせと秋口から集めたあのどんぐりに違いありません。

片目実装がママに話しかけます。

「べたべたは付いたままデス?何も食わせてないデス?」

ママは黙ってうなづきました。片目は急かすように続けました。

「さ…さっさとそれを寄越すデス!」


片目実装が蛆ちゃんを1匹、ママから奪い取るように受け取りました。

「おばちゃん、ママのママともレフ?かわりにナメナメしてくれるんレフ?おっぱいくれるんレフ?」

「おめめコワイけどウジチャさべつしないレフほんとはやさしいおばちゃんなんレフ、ウジチャしってるレフ」

蛆ちゃんは一所懸命に片目実装に話しかけます。

けれど片目実装が何も答えないまま持ち方を変えた瞬間、蛆ちゃんは体をこわばらせました。

「プニプニレフ?おばちゃんプニプニまちがってるレフ、いたいレフ!」


片目実装は両手で蛆ちゃんを縦に開くように力を入れていきます。

丁度肉まんの具を確認するような手つきです。

「おばちゃんナニしてるんレフー!ウジチャおなかスースーするレフー!イタイイタイレフー!」

生まれたての蛆ちゃんの体はなんの抵抗感もなく、ちいさなミチミチという音をたてて縦に割れていきます。

「出てきた出てきたデス~生まれたて蛆のプリプリ活き肝デスゥ~」

蛆ちゃんのお腹から出てきたピンクや緑のハラワタをうっとりと眺めて片目実装は言いました。

蛆ちゃんはもう小刻みにプルプル震えるだけです。


「ちゅるっ」

人間が生牡蠣を食べるような仕草で、片目実装は蛆ちゃんのお腹の中身を一口ですすってしまいました。

蛆ちゃんは、ぴくん、としただけでした。その音で、うつむいていたママもちょっとぴくん、としました。

「ジューシーデス~!フルーチーデス~!産まれたて蛆の活き胆とベタベタのハーモニー最高デッスゥー!」

片目実装は旨さの興奮を隠せないようです。

「お前の仔は特に旨いデスがこうやって食べると格別デス~!今まで何で試さなかったのかと地団太踏んじゃうデス~!」

…と、肝をすすられた蛆ちゃんがまだピクピク動いていることに片目実装が気づきました。

「お石が頭にあったデス?お前の仔は皆根性あって美味しくなるデス」

それまで黙ってうつむいていたママが取り乱しました。

「…お願いデス!早く楽にしてあげてくださいデス!」

しかし片目実装は取り合わず、

「うるさいデス!これはワタシのオヤツデス!三女、こいつを干し蛆にするデス!」

と近くで物欲しそうに見ていた中実装に言いつけました。


「何ぼさっとしてるデス!早くおかわりを寄越すデス!!」

片目実装がママからもう1匹の蛆ちゃんをひったくりました。

「ママなんでウジチャのことわたしちゃうんレフー!このおばちゃんこわいこわいレフー!!」

蛆ちゃんは助けを求めますが、ママは何もしようとしません。

中を覗いていた2匹はその時になってようやく気づきました。レフレフうめいているだけと思っていたダンボールの中で酷い目にあっている他の蛆ちゃん達も口々にママに助けを求めていたことを。

「ママ…たちゅけてレフー…」

「どうちてママ…たちゅけてくれないんレフ…」

「ウジチャいいこにするレフ…ママつれてってレフ…」

「イタイレフくるちいレフ…ママ…なんでつれてってくれないレフ…」

死んだようになっている蛆ちゃんも、ちっちゃな手を必死にママの方に向けて助けを求めていました。

「…もしかしてここのうじちゃん、全部妹ちゃんテチ?…」


片目実装につかまった蛆ちゃんは必死に体を丸くして抵抗しました。

「だめレフーコワイおばちゃんレフーおなかぜったいみせないレフー」

しかし蛆ちゃんの抵抗など成体の力の前には何の意味もありません。

「こいつ生意気に抵抗する気デス?大人しく腹を見せるデス」

簡単に腹を出させられてしまいました。

「いやレフいやレフー!おなかみせたらイタイイタイでチュルンされちゃうレフーダメダメレフー!イヤイヤレフーーー!」

パキン。

小さな乾いた音がして蛆ちゃんは静かになりました。


「言った端からこれデス?!この糞蛆、パキンしやがったデス!」

片目実装は怒ってパキンした蛆ちゃんを床に叩き付けました。

「ほれ、お代デス」

片目実装がママにドングリを1つ差し出しました。

「そんな…蛆ちゃん1匹にドングリ1つの約束デス!2つ下さいデス!」

「ワタシはグルメデス!パキンしたのはまずくて喰えないデス!だからドングリは1個デス!」

「お願いデスお願いデス2つ下さいデス…ワタシ2匹持ってきたデス…」

ママは土下座して頼みました。

その様子に優越感を刺激されたのか片目実装はもう1つドングリを投げて寄越しました。

「ワタシは寛大デス今回は多めにみてやるデス。今度は根性のある生まれたて蛆を持ってくるデス」

2つのドングリを大事そうに抱えてやっとママはこのダンボールの家を出ました。


2匹はママの後を追いましたが、もう来た時のような元気はありません。

毎日の2つのどんぐりの意味が2匹に重くのしかかっていました。

「ママはヤサシイ4じょちゃんをカゾクのダイヒョウにえらんだんレフ、2つのどんぐりはそのしょうこレフ…」

おねうじちゃんの言葉にも四女ちゃんは何も言いません。

「テチーーー!」「レフーー!」

2匹はもう隠れてつけていることなどどうでもよくなってママに駆け寄りました。

ママに抱きつく2匹。

「ワタチなんでも食べるテチー!もうコワイおばちゃんのトコ行っちゃイヤテチーッ!テェェェェンテェェェェン」


テステステス。

その時、背後から中実装が3匹現れました。

「マヌケな仔実装テス。糞ママは騙せても高貴で賢いワタシは騙せないテス」

「肉がたっぷりの蛆と仔が2匹もテス…じゅるり…辛抱たまらんテス」

「旨いところはいつもママがひとり占めでムカツクテス、その2匹はワタシらのオヤツにしてやるテス、ほれ寄越せテス」

さっきのところの3匹につけられてしまっていたのでした。


「この仔らには指一本触れさせないデス!」

ママは3匹と勇敢に戦いました。

皮肉なことに四女ちゃんの持ってきていた釘が役に立ちました。

ママは3匹を倒しましたが、両腕を失いました。

「テェェェンママのオテテが無くなっちゃったテチィィィィ」

「オテテはまた生えてくるデス、それより早く家に帰るデス、片目に見つかったら今度こそ助からないデス」


前編あとがき

「レフちゃん」が終わってからすぐに書き始めたのですが絵に手間取り今まで掛かってしまいました。

山実装の設定は過去スクから拝借しています。

もしよかったら後編もごらんいただけるとうれしいです。

通勤


引用元:http://jissou.pgw.jp