「廃棄物=ゴミ」と「有価物=価値のあるもの」のボーダーラインがどこにあるか、みなさんは説明できるでしょうか。一見簡単そうに見える両者の違いですが、実は法律上はっきりとした区別は難しく、形を変えて様々な裁判になっているくらいの問題なのです。
ここでは国が提示している定義や、その違いを判断するための考え方を解説するとともに、有価物に思えるものが廃棄物とされた判例や逆に廃棄物に思えるものが有価物とされた判例から、より具体的に廃棄物と有価物のボーダーラインを考えます。
それはゴミか否か?廃棄物と有価物の定義
廃棄物は「自分でも使えないし、売れないから要らなくなったもの」
昭和52年3月26日に公布された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正について」という国の通知によれば、廃棄物とは「占有者が自ら利用し、又は他人に有償で売却することができないために不要になつた物」とされています。つまり自分でも使えないし、他人にとっても価値がなくて売れないから要らなくなったもの、ということです。例えば鼻をかんだ後のティッシュや、冷蔵庫の中で腐ってしまったお肉などは明らかに廃棄物に該当します。
では動かなくなった冷蔵庫や、デザインの古いスーツなどはどうでしょうか。これらは持ち主から見れば廃棄物ですが、不用品回収業者などから見れば「扱い用によっては売れるもの」です。このとき、持ち主にとっての廃棄物は第三者にとっての有価物となります。
有価物は「廃棄物ではない、誰かに売れるもの」
すなわち有価物とは「自分で使える」もしくは「他人に売れる」のどちらかに当てはまるものを指します。したがって現役で使っているスマートフォンは当然有価物ですし、古着屋などで買い取ってくれるような自分ではもう着ない服も有価物です。また持ち主が「要らないから捨てたい」と考えている家電も、メンテナンスをしてリサイクルショップで売りに出せるようなら有価物に分類されます。
廃棄物と有価物の違いが重要になる理由
廃棄物と有価物の違いが重要になるのは、廃棄物を取り扱うには取得が難しい様々な許可がいるのに対し、有価物を取り扱うには比較的取得が簡単な古物営業などの許可を取得するだけで済むからです。
例えば一般家庭から出る廃棄物を料金を受け取って回収する場合は、一般廃棄物収集運搬業許可が必要です。もし材木工場から木片を料金を受け取って回収する場合は、産業廃棄物収集運搬業許可が必要になります。これらの許可を持たずに廃棄物の収集運搬業を行ってしまうと、5年以下の懲役か1,000万円以下の罰金、あるいはその両方を科せられる場合があります。
一般廃棄物収集運搬業許可は取得が非常に難しい許可です。そのため仮に当初廃棄物とされていたものが、考えようによっては有価物だといえるのであれば、この難しい許可を取得せずに一般家庭から家電や家具などを回収できるようになります。
あるいは産業廃棄物とされていたものに価値を見出して、それを材料として仕入れて加工品として販売できるのであれば、これもまた産業廃棄物収集運搬業許可は不要になります。
だからこそ、「それはゴミか否か?」の違いに重要性が生まれるというわけです。
廃棄物と有価物のボーダーラインはどこにある?
では廃棄物と有価物のボーダーラインはどのようにして決まっているのでしょうか。
従来廃棄物は「排出実態等からみて客観的に不要物として把握することができるもの」、つまり見れば判断できるものとされていました。しかし昭和52年3月26日に公布された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正について」で、次のような考え方が提示されたため、判断が難しいものとして認識されるようになります。
占有者の意思、その性状等を総合的に勘案すべきものであつて、排出された時点で客観的に廃棄物として観念できるものではない
引用:「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正について」
これは「総合判断説」と呼ばれるもので、「行政処分の指針について」(平成25年3月29日)によれば全部で以下の5つの判断基準が設定されています。
判断基準
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その内容
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その物の性状 | 品質が利用用途に合っており、かつ飛散や流出、悪臭等がないか |
排出の状況 | 計画的に排出されており、適切な保管・品質管理がされているか。 |
通常の取扱い形態 | 製品として市場が成立しているか。 |
取引価値の有無 | 受け取る側に対し、有償で引き渡されているか。* |
占有者の意思 | 占有者に適切な利用、または他人に有償で引き渡す意思があるか。 |
※処理料金に該当する金品の受け渡しがあると廃棄物とみなされる。また引き渡し時の価格が、輸送費用などを差し引いても引き渡し側に損失がある場合も、廃棄物の収集運搬とみなされる。
廃棄物か有価物かは、原則的にこれら5つの要素を総合的に判断されます。しかし難しいのはこの「総合的に判断する」という点です。
例えばある家具工場で木材を加工する際に大量のおがくずが出ていたとします。おがくずはちょっとした風でも舞い上がるため、「物の性状」のうち飛散の可能性があります。しかしおがくずはプレスして固めるとMDF(Medium density fiberboard)と呼ばれる木工部材として利用できます。
つまり「取引価値の有無」に照らして考えてみると、取引価値があるのです。板材として使えるのであれば客観的な利用価値が認められるので、「通常の取扱い形態」においても問題ありません。以上のことからおがくずは有価物として考えることができます。
このように5つの判断基準のうち、1つの基準で廃棄物だったとしても、他の基準に照らした場合に有価物になる可能性があります。逆も然りです。この判断はケースバイケースで変わりますが、以下ではその具体的な例として1993年3月10日に最高裁判所の判決が下された「おから裁判」と、2004年1月16日に水戸地方裁判所の判決が下された「水戸木くず裁判」を紹介します。
食べ物なのか産業廃棄物なのか?「おから裁判」
<事件概要>
豆腐を作るために大量に排出される大豆のしぼりかす「おから」を、都道府県の許可なくお金をもらって引き取っていた業者が、産業廃棄物収集運搬業および処理業の無許可営業として検挙されました。これに対し、業者は「おからは飼料や肥料として活用されている資源であり、しかも産業廃棄物業許可の例外とされている『専ら物』であるから、無許可営業には当たらない」と主張しました。
<結果>
最高裁は以下の2点からおからは「廃棄物」であると判断し、業者を無許可営業者としました。
1.おからは非常に腐敗しやすく、不適切な処理をすれば悪臭などを放つ。
2.有効活用されているおからは全体のごくわずかで、大半は有料で産業廃棄物業者に処理を委託されている。
<ポイント>
この裁判は司法が「総合判断説」を持ち出した初めての裁判でした。最高裁は「その物の性状」と「通常の取扱い形態」からおからを廃棄物と判断しています。したがっておからを取り扱うには、産業廃棄物業の許可を取得しなければなりません。
確かに不法投棄の危険性を考えると、こうした廃棄物か有価物かの判断は必要不可欠です。しかしこれは本来再利用ができるようなものでも、一度「廃棄物である」と判断されてしまえば許可を取得するまでは有効活用できないということでもあります。おから裁判には白か黒かを決めなければならない司法が抱える、ひとつのジレンマが現れていると言えるでしょう。
材木なのか木くずなのか?「水戸木くず裁判」
<事件概要>
排出業者が家屋の解体工事から出る木くずを選別し、ある業者にお金を払って引き取ってもらい、チップに加工・販売する事業を展開していました。しかしこの引き取った業者の工場は産業廃棄物処理業許可を取得していなかったため、無許可営業者として起訴されてしまいます。
<結果>
10回以上も公判が重ねられた結果、水戸地方裁判所は以下の2点から、このケースにおける木くずは廃棄物ではないという判決を下しました。
1.排出業者が選別して引き渡していた木くずには、チップの原料としての価値が認められる。
2.木くずのほとんどがリサイクルされている。
<ポイント>
水戸地方裁判所はこの判決で「受け入れた側の業者が有料で引き取ったからといって、必ずしも産業廃棄物とはいえない」「やり取りされているもの(この場合は木くず)が、当事者間で価値や利益を生むものと考えられているかを検討するべき」という見解を示しました。
これは総合判断の重要性と、通常の取引形態・占有者の意思を考慮に入れた結果といえます。また同時に「リサイクルされている=有価物である」という単純な判断が下せないということも、この裁判で明らかにされています。
廃棄物を有価物に転換すればビジネスチャンスになる?
このように廃棄物か有価物かの判断は、法律的にもグレイゾーンが多く、ケースバイケースで変化する可能性があります。しかし本来廃棄物だったものを有効活用し、有価物にすることができれば、ビジネスの観点からもリサイクルの観点からもチャンスが生まれます。実際これまで廃棄物として処理されたり、放置されていたりしたものを、有価物として活用して成功した事例は数多くあります。以下でそのうち3つを見ておきましょう。
1.「天ぷら廃食油」を使ったカーシェアリング事業
日本カーシェアリング協会は使用済みの天ぷら油などの廃食油を集め、それを燃料として活用できる車「てんぷらカー」を使ったカーシェアリング事業を展開しています。同協会は2015年に東日本大震災の被災地石巻市を舞台に、天ぷら廃食油で走る「てんぷらキャンピングカー」のレンタカーを作るためにクラウドファンディングを利用し、見事目標額15万円を超える15万3,000円を集めています。
3.ビール酵母を使った健康補助食品
今でこそ様々なメーカーから販売されているビール酵母を使った健康補助食品ですが、もともとはビールを作ったあとに出る産業廃棄物として処理されていたものでした。それをアサヒビール株式会社が今も販売されている「エビオス錠」として活用。いまや様々な効能のある健康補助食品として認知されています。
4.チョコレート用オイルの残りかすを使った食用油
今は販売を停止されている花王の「エコナクッキングオイル」は、元来廃棄物として扱われていたチョコレート用オイルの残りかすを原料にした食用油です。残念ながら2009年に発がん性物質が発見され、以降市場に出回らなくなりましたが、この問題さえなければ廃棄物を有価物に転換した成功例のひとつです。
このように「廃棄物か有価物か」の問題には、判断も難しければリスクもありますが、うまくいけば新たなビジネスチャンスとリサイクル技術を生み出すことができるのです。
廃棄物?有価物?見極める視点が必要
何も知らないまま無許可営業をしてしまったり、せっかくのビジネスチャンスをみすみす逃してしまったりしないためには、廃棄物か有価物かの判断を自ら見極められる視点を持つ必要があります。ここで解説した内容をよく理解したうえで、現在行なっている事業について改めて考え直す機会を作りましょう。