2023/11/09 (木) 18:00 79
和歌山FIはさておき、地元記念に始まり九州地区プロ、500勝記念祝賀会と10月はそれなりに多忙の日々を送った中川誠一郎。昔話でお茶を濁していたここ数か月と違い、今月は珍しく本人の話を中心に競輪の魅力を紐解けそうです。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】
ーー先日、web上のネット記事にも上がっていましたが、10月29日に熊本市内で「中川誠一郎500勝記念祝賀会」が行われました。
265名ものお客さんが来てくれました。競輪ファンの人は北日本から九州まで、80〜85人ぐらい。心より御礼を申し上げます。
ーーファンの数がすごいですね。
コロナの影響もあって、最近はなかなかファンの人とジカで話す機会がなかったですからうれしかったです。
ーーいい交流ができましたか。
はい。その中で、東京から来たっていうものすごいファンの方がいて。二次会にも来てくれたので話していたら、「当選したのがうれしすぎたし、参加できて幸せでした!」ってうるうるしだしたんです。
ーー相当、熱狂的な方ですね。
netkeirinの招待枠が当選した人でした。最後には「ここは僕にとってディズニーランドより夢の国でした」って名言まで飛びだした(笑)。
ーー遠方から来て頂いてよかったですね。
そうですよ。ただ、あまりにも強烈だったから「その言葉、面白かったからコラムで使わせてもらいますよ」と伝えました。そうしたらその人、また興奮しだしたんです。
ーー夢の国はなかなか言えませんね。
コラムを読んで応募してくれた人って、自分の意思でわざわざ熊本まで来てくれたわけで、その時点で相当なオレマニアなんですよ。これはもう、オフ会を開いたようなものです。
ーーオフ会ですか。
「中川誠一郎を囲む会」ですか。ファンの皆さんも、初めまして同士の人たちが仲良くなったって話も聞いたし、居心地が良かったのかもしれません。
ーーここ数年、業界的にも宴会は自粛ムードでした。それだけに、競輪選手の祝賀会に初めて参加した方には刺激的だったのではないでしょうか。
それはあると思います。だって(嘉永)泰斗が両手にビール瓶を抱えて酒を注ぎに回っていたり、酒の弱い(松本)秀之介が真っ赤な顔してハイテンションで暴れていたり、(伊藤)旭が松川(高大)の餌食になって赤ら顔だったり。そんなの競輪場ではまず見られない。
ーー取材に行きましたが、あれだけ選手とファンの垣根がない会も珍しかったです。
二次会なんて、普通にヨコでワッキー(脇本雄太)が飲んでいるんですからね。たしかに夢の国かも(笑)。ただ、ファンの人らとしゃべっていて昔と何か変わったなって感じがしました。
ーーどういうことでしょう。
最近、アンチの人が減っているんですよ。何の影響かわからないけど。昔はイベントで胸ぐらをつかまれたりしたけど今はない。
ーー以前はわざわざ会費を払って祝賀会に参加してきて胸ぐらをつかむ人がいたのですか。
さすがに祝賀会で胸ぐらは無かったけど、「弱いなお前」とか「いつ買っても来ねえなあ」とか面と向かって言われたことはあります。まあ、事実っちゃ事実なんですけど。
ーー今は皆さん、やさしくなったと。
もう少し頑張れ! って同情的な人が増えたか、コラムでアピールすることで好感を持ってくれる人が増えたのか…。
ーーそれは、単純に中川選手が弱くなったからじゃないでしょうか。
ああ… それもあるか。本線を背負った115点を持つ選手が飛ぶのと、107、8点の選手が飛ぶのでは度合いが違いますからね。
ーー県外からは先ほど話にでた脇本選手と、児玉(碧衣)選手もいらしたそうですね。
オールスターファン投票1位の2人です。これもひとえにワタクシの人望でしょう(笑)。
ーーファンの方も喜んだのではないでしょうか。
ワッキーは「メシと酒はあとでいいから写真とサインと歓談をします。いくらでもファンサービスしますよ。だって、オレとセイちゃんの仲でしょ」って。碧衣ちゃんにも甘えてしまいました。
ーー脇本選手とはその後はゆっくり話ができたのですか。
二次会のあと、木原(翼)君らと麻雀をしました。その後に深夜3時すぎにラーメンを食って解散しました。
ーー他にも多くの選手が出席していました。
小野(俊之)さんが来てくれました。我々の世代において酒の席といえば“小野俊之”ですから。話の中でフイに「セイちゃんはいつも優しそうだけど、本当は短気やけんな。オレは知ってる」って言われました。
ーーどのような状況でそんな話になったのですか。
小野さんが、オレの弟子(吉田悟)に「どんな師匠?」って聞いたんですよ。そこで悟が「背中で語る優しい方です」って答えたら「それは、まだセイちゃんが怒る域にまで達していないからだ」とか言いだして。
ーー吉田選手、もらい事故感が悲惨ですね。
まだ、どうでもいいレベルだから怒られないんだ、って感じで(笑)。同じ土俵に立ったらわかる、みたいな。
ーーまだ中川選手が認めるまでの選手になっていないと。
そんな話をしていたら、酔った(宮崎)大空が我々のテーブルに乱入して小野さんにからみだしたんです。小野さんは寛容だから「おお、おもろいな」って笑っていたけど、ヨコにいた小岩(大介)の表情が少し変わってきた。
ーー小岩選手、どうしたのですか。
小野さんがそれに気付いて、大空に「オレはからまれても怒らんけん。でもな、小岩には同じようにからむなよ。お前、グーで打たれるぞ」って忠告していました(笑)。
ーー小岩選手は武闘派だったんですね。
やっぱり、尊敬する先輩が他県の後輩にイジられるのは面白くないでしょう。だから小岩は大空に「あんまり調子に乗ってたら、オレがグーで打つけんな」って。つまり、大空は小野さんと小岩のどちらをイジっても、どのみち小岩にグーで打たれるっていう(笑)。
ーーこの話題に出てくる人たちは、みんな激しいものがありますね。
酒が入っていたからでしょう。結局、大空はグーで打たれなかったけど、小岩に最後「お前、うちの犬の餌にするぞ」って言われてた(笑)。小岩のこういうところ、好きなんです。
ーー若手選手も大挙、来ていました。
この写真、見てください。はじっこの松尾(正人)さんと(中本)匠栄を除けばみんなピチピチでしょ。これだけ若手がいれば、あと5年は大丈夫だと思った。掲載するなら、しっかり「介護士たちに囲まれる筆者」って入れておいてください。
ーー誰かしら助けてくれるだろうと。
ですです。今からおべっかを使って数年先に備えます。これを読んだ後輩諸君。焼肉が食いたい、酒が飲みたい、となったらいつでも連絡するように。
ーーガールズの後輩たちも多かったです。
熊本のガールズは妹を含めて5人来てくれましたが、オレより妹の子どもが大人気でした。5人で遊んでいたしオジサンは圏外でしたね。熊本のガールズはみんな仲がいいです。
ーーファンや選手のSNSではみんな楽しそうな表情でした。中川選手は充実感がありましたか。
本当は屋形船を2隻ぐらい出して、身内で細々とやろうと思っていたのに、熊本の大西市長までおいでいただき、まさかのガチガチにカタく大きな会になりました。でも、これだけ喜んでくれる人がいたわけですから開催してよかったです。
ーーさて、10月は「熊本記念開設記念 火の国杯争奪戦in久留米GIII」と「和歌山FI」。そして「別府九州地区プロ」に参加しました。地元記念は2年ぶりの参戦でしたが、二次予選で敗退しました。
(嘉永)泰斗が打ち上げで二次予選のことをずっと謝ってきたんだけど、あれはオレがしのがないといけないところ。アイツは何にも悪くなかったです。
ーー中川選手が嘉永選手の仕掛けに離れてしまったところですね。
追込選手なら普通にしのげるところだったし、泰斗とワンツーが決まったでしょう。だから、それは泰斗が気にするところじゃないよ、とは言いました。オレのせいだから。
ーー決勝には地元から松岡(辰泰)選手、嘉永選手、中本選手、塚本(大樹)選手の4人が勝ち上がり、中本選手が優勝しました。
2年前、泰斗が優勝したときもそうだったのですが、会う人、会う人に「おめでとう」とか「匠栄君が勝ってよかったね」って言われるんです。それが、グサっと刺さって。
ーー2年前にも同じことを話していましたね。
何でそれを参加していたオレに言うの? って。去年みたく参加していなかったならまだいいんですよ。参加しているレースで誰が勝とうが、こっちは負けているのから「おめでとう」って言われても違うんです。
ーーいつもながらの器の小さい部分が出かかっています。
もちろん、嬉しいんですよ。だけど、そう言われると少し複雑。オレ、参加していたんだけどなあって。その話を合志さんにしたら「めっちゃわかる。オレもその立場を体験してきたから」って言うんです。
ーー合志選手も感情的になってしまったと。
そうです。合志さんはこれまで地元エースとして戦ってきて、実際に2回記念を優勝しているんです。その後、ワタクシが優勝した際に「誠一郎が勝ってよかったね」とあちこちから声を掛けられるたびに傷ついていたみたいで。
ーー知らないうちに傷をつけていたと。なかなか複雑なものがありますね。
結局はオレも合志さんと同じ道をたどっているんですね。でも、これが世代交代。特に今回は匠栄だからいいんです。
ーー許せてしまう後輩だと。
だって、オレのために地元記念(2019年)の決勝で引っ張ってくれた人が勝ったんだから。複雑な比率は9:1ぐらい。うれしいが9で1が複雑。匠栄じゃ、もうしょうがない。
ーー決勝のあとは2人で抱擁して男泣きしていたとの話もありましたが。
自分のレースじゃ泣かないし、人のレースではもっと泣かないですけど、泣けたってことは、それだけうれしかったんでしょう。後輩たちはそれを見てニヤニヤしていたみたい。けしからんですね、緒方将樹(笑)。
ーー打ち上げは盛り上がったのではないですか。
一次会は焼肉屋だったんですけど、熱い話をしていたら、また匠栄が泣きだして。酒のピッチも進んだか、匠栄は早々に真っすぐ歩けなくなってフラフラしだしました。
ーー早いですね。
二次会のスナックでは変な動きをしだして、つぶれて寝ていた(笑)。1時間ぐらい倒れていたのかな。そうしたら、いきなりムクっと立ち上がって変な動きをして、また寝るの繰り返し。
ーー変な動き、が気になります。
何か体をくねくねさせて悶絶している感じで「おーありがとう、ありがとう。全然、大丈夫、大丈夫」とか言って、寝ちゃうんです。絵に描いたような酔っ払いでした。
ーー地元大団円、盛り上がる大会でした。
今回、地元から4人も決勝に乗って優勝者を出すことができました。すごいことですよ。何となくだけど、後進に託せた感じがありました。
ーー一方で、和歌山FIはあまり存在感がありませんでした。
ですね。思い出は… レース後に西川(親幸)さんから苦情が入ったぐらい(笑)。祝賀会のときに「また、苦情のメールをお待ちしています」って言ったら、メールじゃなくて電話するって。現役時代はほとんど電話なんかかかってきたことがないのに、今は毎レースごとに連絡が来る(笑)。
ーー九州地区プロについてうかがいます。今年も「スプリント」でしたか。。
辛うじて予選は通ったんです。だけど東矢(圭吾)が強くてタイムじゃかなわない。予選1回戦で佐賀の橋本宇宙君に負けて、オレの地区プロはあっけなく終わりました。
ーーこちらにも世代交代の波が押し寄せています。
荒井(崇博)さんなんて予選落ちで、何も見ずに午前中に帰りましたから。もう、これは時代の流れでしょう。オレも競技者引退です。44歳までよく耐えた方ですよ。
ーーそもそも、まだ「競技者」と名乗っていたのですか。
ナショナルの代表とかはさすがに降りましたよ。でも「地区プロ専属競技者」としてはまだまだ現役でした。年1回のお祭りでしたので。
ーーPIST6はどうなりますか。
バイト6も… 時間の問題でしょうね。前回もギリギリでしたし、前みたく楽に勝てなくなっている。それは自分でわかりますもん。引き際について多くを考えさせられました。
ーー明るい話題と暗い話題が交錯しています。
陽と陰の部分を肌で感じ様々な感情が胸に渦巻いた、なかなか内容の濃い1か月でした。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。