「……………スタートッ！！」
「！！！！！！！！！！！」
「……っ！」

アタシの叫びで二人は一斉に駆け出し始めた
ハギモちゃんは若干出遅れたか。先行するエールの背後にピタリと追走する形だ
ハギモちゃん自身、逃げか先行策で走ることが多いから、エールが作るハイペースな走りについていくのはいい練習になるだろう
ただ……このままじわじわ迫ってエールを追い越すって算段なら、4ハロンじゃ短すぎる

「行っっっきまあああああああああす！！！！！！！！！！！！！！！！！」
「……っ！？」

咆哮と共にエールのエンジンがかかったようだ
さらに速度が乗ったエールは、ハギモちゃんを容赦無くつき放していく
なにせセントウルS上がり3F32.9秒の脚。ハギモちゃんは離された分の距離を取り返そうと必死になるが……もう遅い
時速約60kmの二人がゴールラインを駆け抜けると共に、アタシはストップウォッチのボタンを押した

「52.8、53.9……いい感じになってきたんじゃないか？」

エールの方は年内最初の計測でこの速さ。ハギモちゃんの方はまだ詰めれる余地はあるにせよ………昨日まで冬休みを挟んでいたとは思えないタイムだ
ぜぇぜぇ、はぁはぁ。二人の呼吸が整うのを待ってから、アタシはストップウォッチをしまい二人にタオルと水筒を手渡す

「お疲れ様。もうそろ日も落ちそうだし、今日のトレーニングはここで終わりにしようか」
「ですね！！！！！！！！！」
「はい……！」

2024年、トレセン学園での年明け一発目
アタシたちは三人でレース練習を行っていたのだった

■

ごくごくごく。ぷはぁ
芝生の上で、空にしてやるってぐらい豪快に水筒の中身を飲む2人
それだけ本気で走ったんだ。喉も砂漠のようにカラカラだろう

「エール先輩……やっぱり強いですね……」
「先輩ですからねっ！！！！！！！！！まだまだこんなもんじゃないですよ！！！！！！！！」

えっへん！と鼻が高くなるメイケイエール
お前早い時は4ハロン49.4秒のイカれた時計出すもんな
その上実績は二度のレコードホルダーときた。実力は折り紙付きだ

「それを言うならハギモちゃんだって成長してるじゃないか。前より格段に早くなっているぞ」
「いやいや……先輩には遠く及びませんよ……」
「謙遜しないでくださあああああい！！！！！！！」

元気溌剌のエールと対照的に、遠慮するようなポーズを取るハギモちゃん
彼女───ハギノモーリスはかなり臆病なウマ娘。それはレースの最中、ゴール板の影に驚いて思わず空高く跳躍するほどに
しかし繊細な心に負けないぐらいの努力家でもある彼女は、その努力の成果もあって立派な三勝バにまでのし上がっている
ウマ娘たちがしのぎを削る世界において、たった一勝を挙げることだって容易ではない
以前からオルフェ先輩は彼女の才能を見込んでいるようだったし、練習ではエールもアタシも付いているんだ
いつの日か彼女にも、大きな栄光を勝ち取る日が来ると信じる

「それにしても、久々に汗かいたなぁ」
「タオルで拭いても心なしかベタついてる感じします！！！！！！！！！」

ジャージの中の体操着は汗でぐっしょり。計測係をした為レースの予行練習はやっていないが、アタシも二人と一緒にキツめのトレーニングをこなしていた
早いところシャワー室で汗を流しに行きたい。通学用バッグを回収するため置き場所へと向かおうとする

「……あっ………あっああ、あのっ………！！！！！」
「わっ！！！！！！！！！なんでしょうかハギモちゃん！！！！！！！！！」

すると、ハギモちゃんの勇気を振り絞ったような叫び声
彼女の姿勢は縮こまり眼は横に逸れているが、自分の気持ちを頑張って伝えたい意思を感じる
続きの言葉を聞くために、アタシたちは彼女に振り返った

「あの……先輩方二人が、よろしければ、なんですけど…………前の練習の時みたいに、またシャワー室で、洗いっこ。しませんか……？」

おお、あんなに内気だった彼女が
自分からそんなことを提案してくるなんて

「当然です！！！！！！！！！！！！！」
「むしろそのつもりだったぞハギノモーリス」
「………！！」

アタシらの返答で、ハギモちゃんから柔らかな安堵の表情が溢れた
そろそろいいだろうと思い、フルネームでも呼んでみたのだが、反応は悪くなさそうだ

「ソングちゃん！！！！！！！！！彼女だいぶ打ち解けてきたんじゃないですかね！！！！！！！！！」
「だな」

ハギモちゃんと一緒に、校舎に向かって三人で歩き始める
彼女からの提案に、これにはエールも大きな一歩と感じていたらしい
まあ……思い返せば、ハギモちゃんに出会った最初は本当に酷かったものな
臆病すぎてなかなか近付いてくれないもんだから、チームメンバーみんな双眼鏡を首にかけたまま練習していたし。今では笑い話の一つだ

「ハギモちゃん。困った時にはいつでもアタシたちに相談していいんだからな」
「遠慮なんてありません！！！！！！！！！！！是非とも頼ってくださいね！！！！！！！！！」
「あっ……すいません……ありがとうございます……！」

ふふ、今のセリフ。我ながらすごく先輩っぽい
これだよこれ。こういうのに憧れてたんだよアタシは
オルフェ先輩みたいに面倒見が良くて、後輩たちから頼りにされる先輩。そういう存在にアタシもなりたかったのだった

「なら……一つだけ、ずっと確かめておきたかったことがありまして……」
「お、早速だな」
「なんでしょうか！！！！！！！！！！」

先輩として知ってる事ならなんでも教えてあげるぞ！自信満々に彼女へウマミミを傾ける
そしてハギモちゃんは、恐る恐るといった感じでその質問を絞り出したのだった

「チームに入る前まで、先輩方は二人ともずっと同年代なのだと認識していたんですけど……ソングライン先輩は、エール先輩より一つ上の大先輩にあたる関係だったんですか？」
「えっ？？？？？？？？？？？？？？」
「うん？？？」

エールにとってはあんまりであろうその意外な質問
ハギモちゃん。一体何故にそんな勘違いを……

■

く……くくっ……ダメだ。よくよく考えたら笑いが込み上げ始めたな。堪えるんだソングライン
でもそうか、ハギモちゃんの目には、アタシのほうが大先輩に写っていたのか
いつもいつもエールの世話してるわけだしなぁ～。そう勘違いするのも仕方がないっちゃ仕方がないのかなぁ～なんて
当のエールはというと、あまりにもショックだったのか、凍りついたように固まり身体全体が白くなっている

「……えっ……あっ、あれ……！！？」

自分でも勘違いしていたことに気がついたのか、途端に動揺しだすハギノモーリスちゃん
いや、勘違いの本当の原因はわかっている。エールがアタシに対しても敬語で喋るもんだから、それで関係性を見誤ったのだろう
ここはちゃんとハギモちゃんに説明して誤解を解くべきだ

「あのねハギモちゃん……アタシら普通に同年代なんだ」

それを聞いた後輩は、顔から血の気が一瞬にして引き……

「ごっごごっ……ごめんなさああああああああい！！！！！！！！」
「あっ、ちょっと待っ……」

と、置き場所にあった自分のバッグを一瞬にして掻っ払いながら逃げてしまった
……どーしよ。後で励ましのLANEでも送っておこうか
また元の臆病な彼女に戻ってないといいが。大事な後輩をこんな形で失いたくない
固まったまま動かないメイケイエールの方を見れば、耳がヘナっと落ち込んでいる
こっちもこっちでだいぶショック受けちゃったよう

「……わ、私って、そんなに先輩っぽくなかったんですか！！！！？」
「あーいや、アレは別にそういう意味じゃないと思うけど……」

そのまま置き場所へ一人でたどり着いたアタシは、残った二つのバッグを持ち上げる
そしてエールの元へと戻り、一方を彼女に手渡した

「そうじゃなくて、エールはアタシに対してでさえ敬語使ってるから、それでハギモちゃんを勘違いさせたんじゃないのか？」
「えっ……あー！！！！！！！！！」

もしかしてお前、自分で気付いてなかったのか……まあそうだよな。それがお前の自然体なんだっけか
エールと古くからの幼馴染であるソダシ曰く、どうやら彼女は誰に対してでも敬語で話すそうなのだ
別に一線を引いているわけではなく、生まれてからずっと敬語で話すよう教育されてしまったが故の産物だそうな

「でも別に気にしなくていいと思うぞ。敬語とか敬語じゃないとかさ」

むしろそれがメイケイエールっぽさを引き立てているというか、個性みたいな感じ出てるし

「でも結構不服です！！！！！！！敬語込みにしても同学年に見られないなんて！！！！！！！！！ソングちゃんと比べて先輩らしさが足りてないってことじゃないですか！！！！！！！！！！！」

ふむ。なんだかエールは誤解しているようだ
別にハギモちゃんはお前に先輩らしくないって言っているわけじゃなくて………
……あれ、メイケイエールに先輩らしさ？

「……元々お前、そこまで先輩らしくないだろ」
「むーーーーー！！！！！！！！！！！」
「いたたた急に叩くなメイケイエール！」

アタシのからかいに憤慨してポコポコとアタシの体を叩く
そういう子供っぽいところが先輩らしくないんだメイケイエール
その上、どこかの誰かさんに甘えてばかりだしな

「というかこの話。単にアタシの方がエールより一個年上だと思われてるだけだろ」
「それが嫌なんです！！！！！！！！！」
「はぁ？何が嫌だって言うんだ」
「考えてみてください！！！！！！！！！例えば逆にハギモちゃんがソングちゃんのこと、私の一つ下の後輩だと思われてたらどう思いますか！！！！！！！！！」

どう思うかって、いきなりそんなこと言われても……うーん

「……エールがアタシより年上に思われるとか、そんなこと万が一にもあり得ないだろ」
「もーーー！！！！！！！！！！！！！いちいちひどいこと言わないでください！！！！！！！！！！！！」
「あだあだあだあだごめんごめんて」

またアタシの体に向かって繰り出されるエールのポコポコ叩き
いやいやしょうがないじゃん。アタシの先輩らしくふるまうエールの姿が全く想像出来ないんだもの
しかもそれが仮に本当にそうだとしてもだ。エールは後輩に自分の世話させたり振り回したりするめんどくさい年長者になってしまうじゃないか
……そういう先輩、約1名心当たりあるけども
言わぬが花、沈黙は金、触らぬ英雄に祟り無しだ

「もういいです！！！！！こうなったらせめて、ちょっとだけでも先輩らしく思われるよう振る舞います！！！！！！！！！」

不満の気持ちが落ち着かないメイケイエールの荒げた言葉の末尾に、アタシは疑問に思って首を捻る

「振る舞うとは言うが……一体どうするつもりだ？」

すると一転、よくぞ聞いてくれました！とでも言いたげなドヤ顔にシフトして、エールはこう宣言したのだった

「私ことメイケイエール。今日は一切敬語を使わないよう喋ってみせます！！！！！！！！！！！！！」

■

ババーンと、漫画なら背景に擬音が飛んでる所だろう
その堂々とした姿を見て、長いことエールを見てきたアタシは

「……いや、無理だろ」

と、ついつい本音をそのまま言ってしまった
宣言した通りにすぐ変わるものなら、みんな苦労はしない
ましてやメイケイエールの事だ。人との約束は必ず守る律儀な子ではあるが、自分の行いに対する縛りとかだと、物によっては普通に破る。主に自分のうっかりとかのせいで

「出来ますよ！！！！！！！！あまり私を舐めないでください！！！！！！！！！！」
「ほらな。減点2」
「あ！！！！！！！！！！！！！」

宣言早々もうお手つきだ。咄嗟に口を塞ぐメイケイエール
なにこの出オチ展開。言ったそばから出来てないじゃないか！

「まだ始めてないのでセーフなんです！！！！！！！！！」

そうかそうか。そう言い訳してくるか
ならばこちらにも考えがある。アタシは勝手に拍手を一発鳴らし、開始の合図を出した

「はい。今からスタート」
「えっ！！！！！！！！！？」
「今から寮に戻るまで敬語禁止。一回破るごとにアタシに何か奢ること。それでいいな」
「…………！！！！！！！！………！！！！！！！！！」

強引にルールを押し付ける。返事はないが、困惑しているだけで不満の表情でも無い。まあ了承したって事で良いだろ
こうでもして強めに縛っておかないと、またいつものうっかりで敬語に戻ってしまうだろうしな

「じゃあメイケイエール。これからどうする？」
「…………！！！！！！！！！！！……！！！！！！！！！」
「このままシャワー室いく？それともこのまま寮に帰るか？」
「………………！！！！！！！！！」

……コイツめ。口元をぴっちり一文字にして固く閉じやがって
おいおいまさか、お手つきしないために無言を突き通す気だな！？

「……それじゃ会話にならないじゃないか！！」

何のための敬語禁止ゲームだ。お前の無言ならやる意味がないだろ！
するとメイケイエールはタイムです！と宣言してこう言った

「ソングちゃん！！！！！！！！！タメ口って何喋って良いのかがわかりません！！！！！！！！！」

……え！？
マジかおまえ。もしかしてそこからなのか！？

「むしろソングちゃん、どうやっていつもタメ口使っているのですか！！！！！！！！！」
「いやいやどうやってって、そんなこと言われても困るぞ………」

だってそんなの、今まで考えようともしてこなかった事だ
頭に思い浮かんだ言葉をそのまま言うだけに、どうやって実行するとかそういうの、あるわけがないだろ

「何も考えず脳直で喋るだけだぞ」
「私だってずっと脳直で喋ってますよ！！！！！！！！！」

……いや違う。さては、エールの独白でさえも敬語なのか？
となると、遺伝子レベルで敬語が刻まれていると考えた方がいいのかもしれない
これもお嬢様教育の産物だったりしちゃうのかな……

「だったらもう無理してまでタメ口使う必要ないんじゃないか？」
「あります！！！！！！！！！！！わたしもみんなと同じタメ口で喋りたいです！！！！！！！！！」
「と言ってもなぁ……」

夕陽はもうすぐ地平線の奥へ落ちきるギリギリ。
もう時間もだいぶ押してる頃合いだ
頑固モードに入り始めているメイケイエールにそろそろシャワー室行くぞと移動を促し、アタシは適当に喋りながら二人で歩くことにしたのだった
……そのままの方がエールらしくていいのにな。なんて、口をするのも照れ臭い言葉は胸に仕舞いこみながら

「いきなり全部変えるってのは難しいから、ちょっとずつだけ口調をやめていくとかどうだ？とりあえず、"です"と"ます"だけは言っちゃダメって意識してみるとか」
「わかりました！！！！！！！！！やってみま…………」
「やってみま？」
「やってみま……やって……」
「やって？」
「…………やってみてやるぞ！！！！！！！！！！！！！！！！！！」
「お前それ、タメ口ってよりアタシの口調じゃないか！」

冬期休暇が終わったので書いた

コントだこれ！

無為な休暇を過ごしたな

だしだし言えばいいし…

先週のスレがログに残ってなかったので去年のまとめを再度貼ります
2023年まとめなので今回のは未収録
[MATOME_2023_0078.zip]

ありがたい…

ありがたい…

おまとめありがたい…

>コントだこれ！
📞呼びました？

若干手直し…

ｷﾀ━━━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━━━ !!!!!

黙ってるのにうるせえ

ｷﾀ━━━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━━━ !!!!!