2023年11月13日掲載
白楽の意図:論文と著者在順を売る組織があり、コッソリ買う研究者が世界中に多数いる。アイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)が、イランとラトビアの業者を解説した「2021年9月のRetraction Watch」論文を読んだので、紹介しよう。ラトビアの業者は現在も営業している。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.オランスキーの「2021年9月のRetraction Watch」論文
7.白楽の感想
9.コメント
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【注意】
学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。
「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。
記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。
研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。
●2.【オランスキーの「2021年9月のRetraction Watch」論文】
★読んだ論文
- 論文名:Introducing two sites that claim to sell authorships on scientific papers
日本語訳:科学論文の著者権を販売すると主張する2つのサイトを紹介します - 著者:Ivan Oransky
- 掲載誌・巻・ページ:Retraction Watch
- 発行年月日:2021年9月7日
- ウェブサイト:https://retractionwatch.com/2021/09/07/introducing-two-sites-that-claim-to-sell-authorships-on-scientific-papers/
- 著者の紹介:アイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)。既出なので著者紹介は省略。
●【論文内容】
本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。
2019年(今回の論文の2年前)、「撤回監視(Retraction Watch)」は、2万人以上の研究者の著「者」権売買を仲介したロシアのサイバー学術詐欺業者について報告した。 → 7-129 著者在順を売るロシアの業者
このロシアのサイバー学術詐欺業者は、今回の論文の2021年時点でも営業している。
どうやら、「撤回監視(Retraction Watch)」の報道も、クラリベイト社からの停止要請通知も、著者在順売買の営業に何の影響も与えていないようだ。
今回の記事は、ロシアの業者と非常によく似た 2つのサイバー学術詐欺業者、1つはイラン、もう 1つはラトビアの業者、を解説する。
★イランのサイトTeziran.org
イランの組織「Teziran.org」は、著者在順売買だけではなく、移民の支援から科学トレーニングまで、さまざまなサービスを提供している。
「撤回監視(Retraction Watch)」の目を引いたのは、「受理される論文(Articles ready for acceptance)」と表示したその下に、多数の論文リストを示しているページだった(下の写真)。
イランのサイトTeziran.orgには、以下の宣伝文(原文はペルシャ語?)が示すように、このサイトは、どう見ても、論文の著者在順を売るサイトである。
アイエスアイ共同論文印刷社(ISI Collaborative Paper Printing)は、研究の遂行に困難を抱えている研究者を支援します。
また、英語や編集に堪能ではないなど、論文を書くのに十分な専門知識を持たない研究者もいます。希望する研究を十分に行なう設備(スペース、機器、作業場など)を持たない研究者もいます。データ収集に必要な知識が無く、研究方法もよく分からない研究者もいます。様々な課題を抱えた研究者は少なくありません。このような研究者でも、アイエスアイ共同論文印刷社を利用して、論文出版できます。
論文のいくつかはすでに学術誌に出版されていた。
リストに掲載された2報の論文の連絡著者に、「撤回監視(Retraction Watch)」が論文売買を確認したところ、意外な返事が返ってきた。
つまり、2人共、そのサイトで著者在順を売ると申し出たことはない、と販売を否定したのである。
2人共、「Teziran.org」のことを初めて聞いたと述べた。
彼らのコメントの一部を以下に示す。
なぜ私の論文がそこに掲載されていたのかわかりません。私はこの論文を誰かから買ったり、誰かに売ったりしたことはありません。
私はこの件についてとても怒っています。
私は論文を買うふりをして、電話で、Teziran.org に論文に関する情報について尋ねました。すると、彼らは論文の内容を知らないと答えました。
なぜ私の論文がtezblog.orgに掲載されたのかはわかりません。
サイトに掲載されている別の論文の連絡著者は、次のように述べた。
私たちは Teziran.org と接触したことはありません。関係はまったくありません。この件は、私たちが知らなかった違法行為の情報です。数日以内に裁判所に訴状を提出しようと考えています。
上記のように、研究者の1人が Teziran.org に連絡した。そのためと思われるが、その後、Teziran.orgのサイトの論文リスト全体が削除された。
「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに、Teziran.org は何も答えなかった。
以上の内容は「2021年9月のRetraction Watch」論文の話しである。
★白楽のお節介
最初に示した図は「2021年9月のRetraction Watch」論文の図で、細かくわかり難い。それで、最初に示した図 の3段目を抜き出して以下に示す。
この論文は、「インパクトファクターが2.9」で、「物理学、化学、・・・」分野の「総説」で、総説のタイトルは「Investigation of creep behavior of GTD-111 super」とある。タイトルを日本語にすると「GTD-111スーパーのクリープ挙動の研究」となる。
似たタイトルの論文を白楽が探すと、イランの研究者が、2020年10月に「Journal of Manufacturing Processes, Volume 58, October 2020, Pages 1103-1114」で論文発表していた。この論文の共著者が著者在順を買ったのだろうか? → Creep properties of Ni-based superalloy GTD-111 joints produced by transient liquid phase method using BNi-3 filler – ScienceDirect
また、2023年11月現在、オランスキーの「2021年9月のRetraction Watch」論文の2年2か月後になるが、白楽が「Teziran.org」にアクセスしたら、右の表示が出た。つまり、「Teziran.org」は閉鎖していた。
Whois で調べると、「Teziran.org」のドメイン所有者は「CSL Computer Service Langenbach GmbH d/b/a joker.com」と匿名化されていて、所有者の国はハンガリーとなっていた。Whois teziran.org
★ラトビアのシア科学出版社(SIA Science Publisher)
ラトビアでは、シア科学出版社(SIA Science Publisher)が著者在順を販売している。
科学出版社(Science Publisher Company)がシア科学出版社(SIA Science Publisher)の別名らしいが、白楽の記事では、シア科学出版社(SIA Science Publisher)で統一する。
シア科学出版社(SIA Science Publisher)の業務内容は以下のようだ。
シア科学出版社(SIA Science Publisher)は、科学出版物のプロバイダーで、さまざまな分野の論文の著者在順または論文全体を有料で提供している。
完成した論文は6人の共著者向けにデザインされているが、論文全体を購入すると、その論文の共著者の数を増やすことができる。共著者は、論文のテキストや修正を行なうこともできる。
シア科学出版社は著者在順を販売している数十の論文リストを掲載していて、料金は650ドル(約6万5千円)からとなっている。
シア科学出版社(SIA Science Publisher)も、「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに返事をしてこなかった。
★白楽のお節介
シア科学出版社(SIA Science Publisher)は2023年11月11日現在も稼働している。
以下、白楽が調べた。出典は → (1):About。(2):Science Publisher, SIA, 50203245121 – company data
シア科学出版社の所在地や電話番号が公表されている。
SIA Science Publisher
Unified Registration Number 50203245121
Brivibas iela 140 – 10, Riga, Latvia, LV-1012
http://science-publisher.org/
tel.: +371 266 04 034
info@science-publisher.org
https://www.facebook.com/SciencePublisherCompany/
住所から探ると、上のビルに事務所があるらしい(写真出典)。
以下の4人がシア科学出版社(SIA Science Publisher)の主要幹部である。 → 出典:About
★売っている論文の具体例
シア科学出版社(SIA Science Publisher)が売っている論文を1つ示そう。
医学分野の「#25-med」を選んだ。 → サイト:Co-authorship Archives | Science Publisher Company
論文タイトル:Type 1 diabetes mellitus and pregnancy: assessment of glycemic profile variability as the basis of insulin therapy strategy
日本語にすると、「1 型糖尿病と妊娠: インスリン療法戦略の基礎としての血糖プロファイル変動の評価」である。
日本語に訳さないが、以下に示すように、かなり長い要旨がある。
購入条件は以下の通り
発行日:2024年3月 / 購入締切:2023年11月25日
学術誌名:お支払い済みの方のみご覧いただけます
学術誌の出版地域:世界
科学分野: 医学、内分泌学
学術誌の索引付け: Scopus Q 1+WoS (SCIE/SCI)
価格は
Author #1 USD 1120(約11万2千円)
Author #2 USD 1070
Author #3 USD 1020
Author #4 USD 970
Author #5 USD 920
Author #6 売却済
Author #7 USD 820
Author #8 USD 7700(約7万7千円)
Author #9 売却済
Author #10 売却済
どうです教授、1つ、お買い求めいただけます?
●7.【白楽の感想】
《1》著者在順売買
イランの組織「Teziran.org」のケースだと、実際に論文を執筆した著者は論文の著者在順が販売されていたことを知らなかったと述べている。
これが本当なら、実際に論文を執筆した著者が仲介組織を通して論文の著者在順を売っていたのではなかった。
となると、論文投稿から出版までの間に、「Teziran.org」の人間が、受理された論文の情報を得て、その論文の著者在順を、論文を執筆した人が知らないうちに売っていたことになる。
これが正しいなら、学術誌またはその関係者が受理された論文の情報をサーバー学術詐欺業者「Teziran.org」に流していることになる。
待てよ、自分の論文が出版された時、知らない人が共著者に加わっていたら、本当の著者たちは、学術誌に印刷ミスがあったと通知するから、チョッとヘンですね。
それにそもそも、連絡著者以外の人が「すみません、間違えました、この人も共著者に加えてください」と連絡しても、学術誌・編集部は、まともに応対しないハズだ。連絡著者ではないのだから。
白楽がどこか誤解している?
以下が正解?
実は、本当の著者たちは、自分の論文の著者在順販売を依頼していた。「撤回監視(Retraction Watch)」に見つかったので、ウソをついた説です。
ただ、この「ウソをついた説」もチョッと無理がある。
「撤回監視(Retraction Watch)」だコンタクトした連絡著者がどの国の研究者かわからないが、「撤回監視(Retraction Watch)」は、かなりの確率で、ウソを見破るので、やはり、ウソではないでしょう。
では、以下の営業スタイルはどうでしょう。
サーバー学術詐欺業者のサイトでの宣伝には、購入希望者にわからないように、2種類の著者在順の販売がある。
1つは、今回のように著者が知らないうちに著者在順を売っている論文。もう1つは、著者から販売の依頼を受けて著者在順を売っている論文、の2種類である。
前者は宣伝用のダミーで、この論文の著者在順を買いたいという顧客からの申し込みがあったら、「残念です。その著者在順は売り切れました。でも、こちらの論文の著者在順はいかがでしょう」と、本当に販売している著者在順を勧める、という営業スタイルではないかと、白楽は思った。
これも間違い? 白楽は、まだまだ、誤解している?
《2》違法か合法か
イランの業者は指摘されサイトを削除した。ラトビアの業者は堂々と営業を続けている。
いままで調べたケースでは、ロシアの業者も堂々と営業を続けているが、中国では警察に逮捕され、サイトを削除した業者と、堂々と営業を続けている業者が混在している。
違法かどうかは国によって、そして業態によって、異なるということか?
なんか、よくわかりません。
《3》個人事業者
今までほとんど追及してこなかったけど、論文の著者在順を売るのは個人でもできる。
院生が個人で売ることもできる。
著名な大学・研究所の教授が個人で売ることもできる。
白楽みたいな退職研究者が個人で売ることもできる。
フリーランス研究者も個人で売ることができる。
研究者ではない人も個人で売ることができる。
論文を1本書いて、共著者5人に1人平均8万円で売れば、1論文で48万円の収入である。論文掲載料の安い学術誌に出版すれば、ソコソコ収入が得られる。
生成人工知能(Generative artificial intelligence)を使えば、研究経験のある人なら1日で1論文を書けるだろう。研究経験のない人で少し慣れれば書けるだろう。
ただ、院生や教授は大学・研究所に所属しているので、発覚したら、大学・研究所から処罰を受ける(だろう)。
しかし、退職研究者やフリーランス研究者の場合、大学はペナルティを科しにくい。そういうハレンチ研究者が個人で営業しているのだろうか?
そうすると実態がつかみにくい。
発覚次第、ハレンチ研究者を叩くという、モグラ叩き的な対処しかできないだろう。
ただ、叩いても、別の人が同じビジネスをする。なかなか、大変な時代ですね。
なお、白楽の場合、名誉教授の称号が剥奪される可能性はある。もちろん、しませんけど。
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[事件とは無関係な事件の国の写真] 2006年8月。撮影:白楽
ラトビア大学
上のラトビア大学の正面
建物内廊下
食堂でランチ定食。美味しかった。左の皿は焼き飯(みたいなもの)とさつま揚げ(みたいなもの)。右下のピンクのスープ(ビーツ)はとても美味しかった。値段?
首都リガの街。道路にごみ1つナシ。
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●9.【コメント】
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