7-129 著者在順を売るロシアの業者

2023年10月28日掲載

白楽の意図:ロシアの国際出版社は、2017年以降の5年間に、学術誌に掲載された4,000 以上の論文の著者在順を、2万人以上の研究者に1回最低5万円で売った。つまり、論文の著「者」権を買った研究者が2万人以上もいた。アダム・マーカス(Adam Marcus)が、ロシアの業者である国際出版社(Международный Издатель)を解説した「2019年7月のRetraction Watch」論文を読んだので、紹介しよう。この業者は現在も営業している。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.マーカスの「2019年7月のRetraction Watch」論文
7.白楽の感想
9.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●2.【マーカスの「2019年7月のRetraction Watch」論文】

★読んだ論文

●【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

2019年7月の論文なので論文に記載されているデータは2019年7月以前のデータである。本記事では、ウェブサイトに記載されている2023年10月時点のデータに一部を修正した。

★ロシアの国際出版社(Международный Издатель)

ロシアの国際出版社(Международный Издатель、メジュドゥナロドニ・イスダテリ、インターナショナル・パブリッシャー)は、サイト「123mi.ru」で論文の著者在順を販売している。サイトはロシア語で書かれている。

ロシアの国際出版社は、2017年以降の5年間に、学術誌に掲載された4,000 報以上の論文に1回最低5万円で、その研究者の名前を共著者として追加した。つまり、著者在順を、2万人*以上に1回最低5万円で売った。5年間で、10億円以上の収入である。

[白楽注:2万人* 。論文は2019年7月出版で、その時は1万人だったが、2023年10月現在は、2万人になっている]

なお、4,000 報以上や2万人*以上という数字は、国際出版社が主張している数字であって、数値が正しいという保証はない。

著者在順の1回の料金は32,200 ルーブル(約5万円)からで、第1著者の場合、第2 著者や第3著者の価格よりも高い。いずれにしても数万円払えば、論文の著者になれる。

そして、この業者は2023年10月現在も営業している。

国際出版社のオフィスはモスクワにある。その住所(Пресненская наб., д.12. Москва-СИТИ, башня «Федерация»)の建物を探ると、右図の大きく美しいビルがヒットした(出典:https://www.restate.ru/office/bashnya-federaciya-1012.html)。

国際出版社のカスタマーサービス部門に11人いる。このビルで働いているのだろう。

国際出版社の「論文評価者(Наши рецензенты : Международный издатель)」は世界中の大学・研究所に1,283人の博士号を持つ研究者がいる。大学教授もいる。

論文評価者というのは、今まで自分の論文の著者在順を国際出版社を仲介して売った人だと、白楽は理解した。

サイトをグーグル翻訳したら、以下の日本の論文評価者10人が見つかった。氏名は記載されていない。

★注文方法

国際出版社のビジネスモデルは次のようだ。

著者在順を買いたい人に、ウェブサイトで、次の手順で著者在順を提供する。

まず、望む研究分野とテーマの論文を選択してもらう。

サイトには多数(数百?)の論文が競売されている。以下に示した論文カタログの言語はロシア語だが、英語で執筆された論文もある(と思う)。以下に12論文のカタログを示した。 → 出典:Соавторство : список научных статей на продажу : статью купить : статью продать

この論文カタログ内で適切な論文を見つけ、その論文をクリックすると、論文の詳細な情報が得られる。

詳細な情報とは、論文の簡単な説明とキーワード、各論文の費用、学術誌名、投稿のタイミング、掲載のタイミングである。それで、著者リストの何番目に希望するかを決める。著者在順を買いたい人が、購入するかどうか、判断する。

ここでは、12論文の最初の論文(注文番号#782)の詳細を見ていこう。出典:Соавторство : статья купить : статья продать

注文番号#782
論文トピックス:鶏のくる病の治療
分野:獣医学、農学
学術誌掲載:2025年1月
募集は2023年6月11日開始
この論文は5 人が著者を想定。価格は39,000ルーブル(約6万円)から
第1著者:62,000ルーブル
第2著者:56,000ルーブル
第3著者:50,000ルーブル
第4著者:45,000ルーブル
第5著者:39,000ルーブル

★仕組み

Web of Science の編集長であるナンディタ・クアデリ(Nandita Quaderi、写真出典)によると、国際出版社のビジネスの仕組みは以下のようだ。

著者または著者のグループが自分の論文を学術誌に投稿する。論文が受理されると、ロシアの国際出版社に著者在順の販売仲介を依頼し、論文の共著者になりたい追加著者を募集する。

「著者または著者のグループ」は、前項で示した世界中の1,283人の博士号を持つ「論文評価者」らしい。

この方法は、出版プロセスの脆弱性を悪用している。

つまり、論文受理後に著者が共著者を追加・変更できる仕組みを悪用している。

この「受理後の共著者の追加・変更」は危険信号なのだが、現状では、多くの学術誌が許容している。

論文原稿は学術誌・編集部が受理後、編集部から制作部に送られる。ところが、編集部員(多くの場合、経験が浅い)は、「受理後の共著者の追加・変更」を許可することが悪い習慣であることに気づいていない。

「大学を卒業してすぐに編集部の作業に携わった人は、大学教授から『共著者を含めるのを忘れた』と言われると、そうかと思って、『受理後の共著者の追加・変更』をしてしまう」、とナンディタ・クアデリ編集長は「Retraction Watch」誌に述べた。

★抗議

最近この国際出版社の著者在順ビジネスの仕組み知った大手の論文索引社であるクラリベイト社は、このサイトについて懸念を表明し、業務停止を要求した。

クラリベイト社のWeb of Scienceグループでは、モスクワ支社のスタッフがこの組織を調査し、2019年7月にサービス運営者に業務停止を要求する書簡を送った。

Web of Scienceグループが出版規範委員会(COPE)に送った2019年7月17日付の書簡によると、ロシアの国際出版社はウェブサイトで344件の論文を販売していた。344件の9% に当たる 32 件が Web of Science で索引付けされていて、303 件 (88%) がスコーパス(Scopus)データベースに掲載されていた。

以下は2019年7月17日付の書簡の冒頭部分(出典:同)。全文(2ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2019/07/COPE-letter-.pdf

ナンディタ・クアデリ編集長が出版規範委員会(COPE)に送った書簡によれば、関係する学術誌のほとんどは「発展途上国」に拠点を置いているが、一部は米国、英国、オランダにもあるという。

クラリベイト社は具体的な学術誌名には言及せず、編集者と出版社が「受理後の共著者の追加・変更」を詐欺行為と認識しているかどうかまだ調査中だと述べた。

Web of Science Group のデータによると、現在の「売り手」国のリストではインドがトップで、同国の 73 件の論文がオークションに出品されていた。次いでベネズエラが54件、米国が38件、ロシアが33件、パキスタンが28件となっていた。[白楽注:日本の数値は見つからなかった]

★動機

研究者は自分が書いてもいない論文になぜ自分が著者になるためにお金を払うのか?

研究者には、論文を出版しなければならないというプレッシャーが非常に強い。それで、自分の研究成果で論文を出版するのが難しい研究者は、研究者として生き残るため、お金を出してでも論文の著者になりたいと思う。

中には、手を抜いたり、結果を加工したり、他人の論文をコピペして論文を出版する。つまり、ネカトをする研究者もいる。

また、評判の高い学術誌に論文を出版すると、大きな見返りが得られる現実もある。つまり、論文を出版すると報奨金を払う国や大学がある。

中国の大学は、サイエンス誌やネイチャー誌に論文を掲載した場合、筆頭著者に4万3000ドル(約430万円)以上の報奨金を払っていた。その最高報酬額はは16万5000ドル(約1,650万円)だった。

7-26.論文報奨金 | 白楽の研究者倫理 →  https://haklak.com/page_2017_quan.html

●7.【白楽の感想】

《1》著者在順売買 

今回の論文は「2019年7月」の論文である。

2023年10月現在、それから4年が経過したが、ロシアの国際出版社は依然としてウェブサイトで著者在順を販売している。

以下の「4‐1-3.著者在順・・・」に記載したように、昔から今まで、著者在順の不正な取引は、非難されつつ、それなりに横行している。

4‐1-3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating) | 白楽の研究者倫理 https://haklak.com/page_authorship_ghostwriting.html

しかし、「4‐1-3.著者在順・・・」は、基本的に仲間内の非公開の上下関係・人間関係絡みの世界の話しだった。

それが、今回の論文では、ロシアの国際出版社が第三者に公然と販売している。その現実に、唖然とした。

販売開始して5年が経過した現在でも、それを、取り締まれない社会・学術界・出版界にも、唖然とした。

こんな社会・学術界・出版界では、学術研究は健全に発展しない。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●9.【コメント】

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