グレアム・ベイカー、BBCニュース
乗客乗員379人を乗せた日本航空516便が2日、着陸した羽田空港で海上保安庁の航空機と衝突した時、最初に襲ってきたのは衝撃だった。
炎に包まれながら滑走路を走るJAL便内には、煙と熱が立ち込めた。
そして生存本能が働き始め、人々は煙が充満し機体から逃げようと奔走した。
JAL516便に搭乗していた全員が脱出したことは、それだけで並外れたことだ。複数の専門家は、完璧な避難と最新テクノロジーが、脱出成功に大きく寄与したと指摘している。
一方、能登半島地震の支援に向かおうとしていた海上保安庁機では、乗員6人のうち5人が死亡。残る機長は重傷だという。
2日午後5時40分に羽田空港で何があったのか、なぜ両機が同じタイミングで同じ滑走路にいたのか、調査が進められている。
現時点では、乗客が自ら撮影した動画や証言を通じて、数分間の恐ろしい体験と、助かったことへの驚きを語っている。
スウェーデン出身のアントン・デイベさん(17)はスウェーデン紙アフトンブラーデットに対し、エアバスA350機が海上保安庁機と衝突し、滑走路で停止した際の混乱をこう語った。
「数分間で、客室内に煙が充満した」
「煙がものすごく染みて痛くて、地獄みたいだった。あれは地獄だった」
「ばっと床に伏せると、非常扉が開いて、そこに飛び込んだ」
「どこに行くのかも分からなかったので、ただ外に走り出た。混乱状態だった」
スウェードさんと家族は、けがもなく飛行機から脱出できた。
山家聡さん(59)は、最初の衝突で飛行機が「横に傾き、大きな衝撃を感じた」と話した。
別の乗客は、「着陸時に飛行機が何かにぶつかるような衝撃があった。窓の外では火花が散り、機内は煙で充満していた」と説明した。
共同通信が取材した別の乗客は、「着陸したと思ったら何かにぶつかって上に突き上げられるような衝撃があった」と話した。
複数の乗客がその瞬間を、携帯電話で撮影した。
飛行機が停止し、まだ火花を散らしているエンジンからの赤い光を撮影した乗客もいた。別の乗客は機内の様子を撮影したが、乗客が叫び、客室乗務員が次の行動を指示しようとするなか、煙が立ち込め、カメラのレンズはすぐに曇り、何も見えなくなった。
NHKの取材に応じた乗客の女性は、着陸後に火災が激しくなり、機内は真っ暗だったと語った。
「機内は熱くなっていて、正直、助からないと思った」
別の乗客によると、非常扉が一部しか使われていなかったため、脱出は大変だったという。「後方と中央のドアは開けられないとアナウンスがあったので、みんなが前から降りた」と、この乗客は説明した。
「教科書通りの避難」
乗客らが脱出シューターから降りてくる様子をとらえた映像もある。激しく燃え上がる機体から逃げようとして転げ落ち、より安全な場所に走っていく人も見受けられる。
かさばる手荷物を抱えている人はいないように見える。これは、客室を素早く無人にするための重要な要素だ。
航空アナリストのアレックス・マケラス氏はBBCに対し、乗務員は、衝突後の重要な最初の数分間に「教科書通りの避難を開始することができた」と説明した。
火災は最初の90秒間、エアバスA350の「1カ所だけに抑え込まれて」いたため、乗務員が全員を脱出させるための短い余裕があった。
マケラス氏はまた、全ての脱出口が開いていない様子から、炎から離れているのはどのドアかを乗務員が明確に把握していたのだろうと指摘した。一方で、パニックに陥った乗客が例えばロッカーから荷物を取ろうとするなどすれば、それで避難が遅れる可能性もあったと付け加えた。
エアバスA350は、カーボンファイバーの複合素材で作られた最初の商用機の一つ。機体が最初の衝突とその後の火災に耐えられたのは、そのためだと考えられている。
火が急速に燃え広がり、飛行機を飲みこむ中で、全員脱出は成し遂げられた。映像でには、飛行機の胴体が真っ二つに割れ始めるなか、消防士たちが炎を食い止めようと奮闘している様子が映っていた。
乗客の山家さんはこうした混乱の中で、全員の脱出には5分ほどかかったと話し、「火は10分か15分で燃え広がっていた」と付け加えた。
乗客の沢田翼さん(28)は、「奇跡としか言えない。死ぬかもしれなかった」と話した。
火災が鎮火されたのは数時間後だった。乗員乗客のうち14人が軽傷を負った。
乗客たちはすでに、自分たちが経験したことを受け入れ、友人や愛する人々に無事を伝え、これから起こることに備えようとしていた。
「なぜこんなことが起きたのか知りたい」と言った沢田さんは、その答えが出るまでは他の飛行機に乗るつもりはないと付け加えた。