開発の、限界ッ!昨シーズン途中で(事前にそういう気配は多少あったものの)突如としてカワサキとの契約を解除しヤマハへの移籍を発表した、SBKでは絶対王者の名をほしいままにしてきたジョナサン・レイ。勝てない状況が続き、矢も盾もたまらず自身の分身であるとも言えるカワサキからの離脱を決意したジョナサンだったが、これはもはやカワサキで苦闘を続けても得られるものはないと絶望してのことだったようだ。
カワサキに在籍した9年間のあいだに、SBK6連覇という前人未到の偉業を成し遂げたジョナサン・レイ。Mr.ライムグリーンとしてすっかりカワサキの顔となっていたがまさかの離脱。カワサキとジョナサンは一心同体ではなかったのか。カワサキとの契約を1年残しての離別の理由としてジョナサンは、カワサキの「開発の行き詰まり」をあげる。
「カワサキは開発の袋小路に入り込んでいた」とジョナサン「チームもぼくも、ZX-10RRからはもうこれ以上はないというくらいすべてを引き出して走っていた。文字通りの限界だ。そしてそれはマシンの開発についても同じことが言えた。ぼくらはカワサキに対してずっと(新型)マシンの開発が必要だと訴えてきた。でもそれが叶うことはなかった。マシンの開発はすっかり壁にぶち当たっていて、もはやカワサキは"成長の限界"にあったんだ」
これ以上待っても何も出てこない。どれほどチームや自分がコースの上で死力を尽くしても、肝心のマシンが一向に新しくならない。もう無理だ。これ以上ここで続けることに意味はない。悩みに悩んだジョナサンは昨シーズン、引退を決意する寸前にまで追い込まれており、夏休みに入った時点ではもう辞める(引退する)しかないとさえ思っていたようだ。
しかしそこに時期を同じくして降って湧いたのが、ヤマハのトプラクのBMW移籍話。MotoGPへのコンバートを模索していたトプラクだったが、ヤマハのあまりにぞんざいな扱い*に失望したトプラクは急転直下、BMWへの移籍を発表する。(※ヤマハはトプラクにMotoGPマシンをテストさせたものの、与えられたのはハンドルやペダルの位置さえ調整されていないマシンだったことにトプラク、というより師匠のケナン・ソフォーグルが激怒。ヤマハとの契約を解消し、BMWへの移籍を強行した)
そして思いもかけずヤマハのファクトリーシートに空きができたことで、ジョナサンは「これしかない」と単身での移籍を決意。もしあのタイミングでトプラクのヤマハ離脱、BMW移籍というイベントが発生していなかったら、間違いなくジョナサンは昨シーズン限りでSBKを引退していたはずだ。(そういう意味ではジョナサンのファンはトプラクに感謝しなければならない)
この前年、カワサキとの2年の契約延長に合意していたジョナサンだったが、この契約にサインしたのは、カワサキが必ず新型のZX-10RRを用意するからという約束があったから。しかし2020年にカワサキが出してきた新型は、外見のデザインこそ一新されたとはいえ中身は基本的に従来通りで年次改良レベルに留まるものでしかなく、完全新型になると期待された2023モデルも小手先のアップデートパーツ(可変吸気)を組み込んだだけのマシンはジョナサンが望んだレベルにあらず。このこともあってジョナサンは、約束を守らないカワサキにこれ以上忠義を尽くす意味はないと思っての移籍の決断だったはずだ。
「わたしたちのマシンは、基本的には2011年で時が止まっている」こう言っているのは、KRTの運営を任されているプロベックレーシングで監督を務めるギム・ロダだ。「いまの10RRのベースは、現行のホモロゲに沿って開発された2011年型にまでさかのぼることができる。基本的にはそこから(完全な新型の投入がないまま)ずっと改良に改良を重ねていまに至っているんだ。わたしたちは細心の注意をはらい、10RRが最高の性能を発揮するよう努めているが(マシンの基本設計が古いところ)なにかひとつ調整に手違いがあれば簡単に苦境に陥ってしまうんだ」と劣勢を訴える。
勝てないレースに意味はない。SBKでは「人食い(カニバル)」の異名を持つジョナサンである。単にカワサキのファクトリーシートをあたためるために毎回死力を尽くして戦っているわけではない。自分はまだ勝てる。それだけの力があるとわかっていながら、もはやこれ以上カワサキの口約束に付き合うことなどできない。そう、ジョナサンのヤマハ移籍は、ただひとつ「もう一度勝って、SBKで世界チャンピオンになる!」という渇望を埋めるためのものだったのだ。
MotoGPに同じく、ドゥカティの圧倒的なパフォーマンスの前には、たとえヤマハに移ったジョナサンであっても劣勢を強いられる状況となるのは変わりのないことかもしれない。でも、それでもジョナサンはあきらめない。再びの速さと栄誉をその手にできると信じ、2024年のジョナサン・レイは、ヤマハのライダーとして全力を尽くす。
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